第15話 良夫帰宅

悪魔と天使、和子宅に上がり風呂の右側に壁を背にして並んで立つ。為子は台所で茶碗や皿を並べている。舞台奥から良夫が現れる。玄関前、涼み台の上に将棋の駒を見つけて拾う。


良夫「ん?なんじゃこりゃ?……あ、わかった。あの爺どもがまたここで将棋やってやがったな。ったく……(家に入って)ただいま」

為子「お帰りぃ。お勤め、ご苦労さんね。暑かったでしょ?あんたのお陰でこうして毎日暮して行けるわ。ね?さあさ、着替えて、風呂に入って。汗流しなさいよ」

良夫「和子は?」

為子「もう帰ってるわ。あんたが入るまで風呂待たせてんの。早く入ってあげて」

悪魔「そうそう早く入って。俺も入りたいんだから」

天使「んだ。お願いしますだ。(口を手で押さえて小声で)はくしょん」

良夫「(居間に入って背広を脱ぎながら)母さん、涼み台にこんなの落ちてたよ。これ、金(きん)って、もっと金稼ってぇ当てつけ?」

為子「(居間に行って駒を受け取りながら)ああ……違うわよ。あたしがそんなことする分けないでしょ?これでも感謝してんのよ、あんたに。これはきっと布袋と寿老の爺さんたちが落として行ったのよ。あとで返しておくわ」

良夫「いいよ。そもそも使わせんなよ、涼み台を。だいたい何でわざわざここに来て将棋なんかしやがるんだ?あのハゲとヒゲ。ったく……」

為子「ハゲって、あんただってハゲてんじゃない」

良夫「俺のはまだ毛が何本か生えてるよ」

為子「似たようなもんよ。とにかくだめよ。あの人たちは町の顔役なんだから。涼み台くらい使ったってどうってことないわよ。さ、風呂入って」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る