少年編 アメリア②


 せっかくのゲームの世界。

 楽しもう!

 ということで、


「俺と戦え、奴婢」(稽古をつけてください!)


 と、アズーリに頼むことにした。


 記憶を残すためのノート作成に失敗したあと、家の中をぶらぶらしていた俺は、会いたい人に運よく出会うことができた。

 アズーリ・ナイトヴェール。

 ナイトフォールに名前が似ているので紛らわしいが、一族の一員ではなく、ただのメイド。

 けど、俺の読んだ大百科の記憶が正しければ、彼女こそ今の俺の稽古相手として最もふさわしい!


「えと、珍しいご命令ですね。戦え、ですか?」

「二度も言わせる気か?」(そうです!!)

「……は、はぁ。了解しました」


 と、掃除中だったにも関わらず、仕事の手を止めるアズーリ。

 ……いや、別に今じゃなくてもいいんだけど。


「鍛錬場だ。1秒たりとも待たせるなよ」(後でいいですよ!)


 あー。

 俺、喋るの控えるわ。

 このままだと死ぬほど迷惑かけちゃいそうだ。


 言い放ちざまにその場を離れる。

 鍛錬場の場所は“俺”が知っているので、問題なく向かえる。


 あ、そういえば武器。

 どうしようかな。


 LHのゲームルールでは、武器のレアリティは、数種類の武器を除いてほとんど何の役にも立たない。

 例えば、木の剣だろうが、オリハルコンの剣だろうが、ダメージは誤差程度しか変わらないし、壊れるときは壊れる。最も大きい違いはその壊れるまでの耐久性だけで、耐久の減りすらも技量レベルで下がっていく。

 槍や盾などの近接武器、腕力に依存する弓なども同じだ。レアリティの高い武器は見た目がいいだけで、何のタクティカルアドバンテージもない。

 だけど例外はライフル類。ライフルに関しては、魔法抜きで高火力だが、取り回しが面倒で、装備中は必ずその重さのせいで技量レベルにデバフがかかり、同時に発射時はゼロ距離でもない限り構える必要があり、大きな隙になる。……TASさんは腰ダメ発射で百発百中させるので最強武器にはなるが。


 うーん。

 ライフルか、それ以外か。

 発現するオリジナル魔法への憧れは捨て難いが、対魔導戦車ライフル、別称ATの魅力も争い難い。ゲーム中最強火力にして、基礎技量双方のレベルが高くないと、デバフのせいで装備すら不可能な超絶ロマン砲。


 って、両方とも今のレベルじゃおそらく夢もまた夢だけどね。

 今のところレベル自体を確認する方法はないが、おそらくゲーム開始前の学院に入ってない状態の登場人物のレベルが高いはずもないだろう。

 念の為に先ほどステータス! なんて叫んでやまびこが帰ってきたときは恥ずかしすぎて死にそうだった。

 夢見の大陸シリーズの他作品ではメニュー画面以外に学校から支給される携帯端末や、所属するギルドの自動契約機、あとは茶目っ気のあるラスボスが、ストーリー後に仲間として裏ボスに挑むときに「あれれ〜? そんなレベルでいいの〜?」とかって煽ってくる時などに確認できた。ちなみにそのラスボスちゃん、ちゃっかり2周目に専用ルートが用意されてて、敵対しながらも献身的な努力をし続けた主人公にラスボスちゃんが心を開くという、あまりにも感動的なストーリーだったため、ラスボスながら人気投票を席巻したことがある。

 閑話休題。まあ、LHも学園モノのゲームだろうし、そのうちレベルくらいは確認できるだろう。


「よし」


 と、適当に廊下に飾ってあった騎士の甲冑から、勝手に剣を奪い上げる。

 ちなみに体が勝手に動いた。

 武器は“俺”が決めたかったのかな?

 後で怒られても知らないぞ……って、俺が怒られるのか。

 けど、鍛錬場に向かう足取りは止まらず、俺の返していこうかなというささやかな意志は完全に無視された。


 そして、たどり着いた室内にある鍛錬場の、クッソ重たい鉄扉を開くと、室内ながらかなり広い砂場が広がっていた。

 さすがは貴族。知識が正しければナイトフォール家は伯爵家でかなり裕福。今住んでいる場所はまごう事なく小さな宮殿で、そこにこんな場所があっても不思議じゃないだろう。


 そしてそこには先客がおり、すらっとしていながらも出るところが出ている、日本でいうところのジャージ姿のアズーリがいた。

 ……。

 ……?

 何で俺より早くついてるの?

 俺寄り道してないし、あなた着替えまでしてるじゃん。


「お待ちしておりました!」


 いや、お待ちしておらなければならなかったの、俺。

 あなたは待たせる側だったの。

 と、不思議に思っていると、アズーリは腰に携えたレイピアを抜き取った。


「不肖ながらベリアル様の鍛錬の相手を仕りますね!」

「ふん」(ご丁寧にどうも)


 鼻を鳴らす俺。

 せっかく稽古の相手をしてくれるんだからちょっとは感謝しようよ“俺”。

 ……けど、もう一度ありがとうと言うチャレンジをしたら、自分のことながら何を言うかわからないし、諦めよう。

 戦闘に集中だ!

 持ってきた剣を構える。


「少しでも手加減をしてみろ? 貴様のハラワタを引き摺り出して縄跳びをしてやる」(よろしくお願いします)


 とんでもねえグロテスクなことを言い出しやがったぞこいつ。というか、手加減してもらわないと死ぬって!

 いや、確かにある程度以上戦わないと戦った判定にならないゲームルールのために、それなりに戦わないと、アズーリのレベルまで鍛錬場でブーストはかからないと言う意味で、本気でやろうぜってのは正しい。

 けど! 大百科の記憶が正しければ、アズーリのレベルは基礎技量ともにかなり高いはず。そんな彼女が手加減しないと、すぐに殺されるぞ“俺”!!

 

「えーと……つまりその装飾用の剣を用いて、私と決闘をご所望でしょうか? あまりお勧めしませんが……」


 と、確認をしてくれたアズーリ。

 そんな彼女の期待を無碍にしたくはない。

 だからあらん限りの強い意志で返答する!

 

「ハンデにちょうどいい」(手加減してください!!)


 違う! 逆! される方なの! する方じゃなくて!


「…………」


 ほらみろ、当惑してるぞアズーリ!

 いやまじでうちのベリアルがすんません!

 心は優しい子なんです。大目に見てあげて、手加減してください!!


「ベリアル様が死んでしまいますよ?」


 ほら、最終警告来た!

 心なしか、声がちょっと低いし!

 前言撤回なら今だぞ、ベリアルくん!


「死ぬならばそれまでのこと。敗者とはそういうものだ」(お願いします! 手加減を!!)


 俺の言うことちょっとは聞いてくれないかね、“俺”!?

 このままだと死んじゃうよ?

 知らないよ?

 いや、俺だから知らないよじゃ済まされないんだけども!!


「……では、お命頂戴します――!」


 先ほどまで明るかった声と一転。

 まるで氷柱のような声音で、彼女は宣言する。


 刹那――

 ――閃光を放ち、レイピアの先端が首のすぐ隣を通過する!


 ほらやる気出しちゃったよ!!!

 明らかに技量レベルに差があるから、喉に一直線に向かってきたレイピアをずらすための防御の反応すらギリギリ!


 そのまま追撃に移るため、僅かにレイピアを引かせるアズーリ。

 ……くっ! 適正ランクならば、その隙に出の速い攻撃を入れられるが!


 全力でその場を跳んで下がる!

 直剣よりリーチの短いレイピア相手には、距離を取ることが鉄則!

 モーションが短い攻撃に対しては、本当は強靭を高める防御でやり過ごして、連撃に対してパリィを狙うのは定石だが……。

 跳んで離れた俺に、一切の容赦無く距離を殺して攻撃を続けるアズーリ。

 

「ぐっ……!」


 一撃一撃を、全て冷静に見極め、最低限の動作で避けていく!

 夢見の大陸シリーズで鍛えたオンライン対戦技術のおかげで、レイピアの攻撃の初動は一通り覚えているので、何とか対応していける。レイピアはオンライン対人で最も使用された武器で、そのモーションを覚えることから対人は始まる。

 ゲームならば、上半身だけ避けたり、僅かにしゃがんだりといったことはムービー中のNPCしかできなかったが、……今はこの身は俺の体! そういったボタンではできない細かい動きも可能! ズルかもしれないが、死なないためにはやるしかない!


「……?」


 なかなかに攻撃が命中しないことに疑問の表情のアズーリ。

 ……よかった。ゲームの知識は生きて。じゃなきゃ死んでた。

 だが、今のステータスじゃ、どんな一撃でも、防御状態だろうが受けてしまえばDEAD END。

 ならば、どうするか!


「ふんっ!」


 攻撃に合わせてカウンター!

 頭上から突き下された一撃に対して、体を斜めにしながら、剣を振り抜く!

 装飾用のだと指摘されたが、ゲーム通りならば攻撃力は変わらないはず。

 そして、このタイミングでの一撃は、避けられない!


 ――スッ。


 そして俺の剣はからぶった。

 アズーリは僅かに体をのけぞらせ、難なくかわしたのだった。

 決してゲームのキャラクターができる動きではない。

 ゆえに今、眼前の女の脅威度が変わった。

 こいつは、敵対プレイヤーじゃなく、生きている人間だ。


 やまない追撃の嵐を、何とかゲームで培った知識で対応するが……。


(明らかに攻撃の手数が多い!!)


 ゲームでは、プリセットの4種類のコンボを設定して、それを使い回す。

 だが、この女は明らかに4種類以上の攻撃を使用している!

 ゲームの都合が……、働いていない!


 たまたま、俺が無数のレイピア使いと戦ったために対応できているが……。


「……!!」


 視線で射殺さんばかりの迫力で攻撃を続けるアズーリが、もしも他の武器を使っていたらと思うとゾッとする。

 だが、この場も十分な死地。

 どう打開するか……!


 考える間にも攻撃方法を次から次へと変化させるアズーリ。

 何とか対応しているが、体力の限界が近く、息の上がり始めていて、集中力が維持できない!


「ぐおっ!」


 避けきれなかった一撃が肩を掠める。

 肉が抉られ、体の奥から嫌な音が響く!

 全身に神経が傷の痛みへと向けられそうになるが、歯を食いしばってレイピアに集中する!


 痛すぎて、今泣けと言われたら先ほどのアメリアですらドン引きレベルの大号泣もご覧に入れれるが……。

 だが痛みのおかげで解答が出た!


 顔面に向かう突きを避ける!

 次にやってきた喉への攻撃も避ける!

 だが同時に――!


「はァ!」


 剣を振り抜く!

 それを児戯が如く意にも介さず軽く避けるアズーリ。

 同時に再び攻撃のため――カウンターのカウンターとして放たれる突きを!


「がァアアアア!!!」


 敢えて!

 左肩で受け止める!!!


 肉がちぎれ、骨が割れる!

 痛みのあまり目眩がきて、少しでも気を抜けば視界が暗やみそうなのを!


「ンァァアアアアッ!!」


 叫びながら我慢する!!

 振り抜いた剣を捨て!

 そして、左肩を貫いたレイピアを握り込む!!

 こんな攻撃、ゲーム内ではあり得なかった!!


「!?」


 もしもアズーリが、後僅かに人間らしかったならば絶対通用しなかった技!

 明らかに動揺したアズーリに、無理やり肉薄し!

 渾身の蹴りを見舞う!!!


 ――ドゴッ!!


 と鈍い音がして、大きく蹴り飛ばされたアズーリが、鍛錬場の砂場の上で複数回転がる。


 やった!!


 と思ったのも束の間。

 数回転したアズーリはその勢いを使い跳ね上がると、何事もなかったかのように立った。


 前世だったら肋骨が何本か行ってもおかしくない蹴りだったけど……。

 手加減する余裕も、躊躇う暇もなかったために、踵で踏みつけるように蹴ったのだが、まるで無傷かのようにこちらを観察するアズーリ。

 その死神のような目つきは未だに戦闘を諦めていないものであり、このままだと徒手格闘にでも移りそうだった。


 もはや俺の許容できるケガも限界、体力も限界。

 ゲーム的に言えば、出血異常にスタミナ回復速度低下【大】と言ったところか。

 戦う前に“俺”は『死ぬならばそれまでのこと。敗者とはそういうものだ』なんて言っていたが……、ふざけるなと言いたい。


 聞いているか、ベリアル・ナイトフォール!

 勇気と無謀は違うし、敗北は死を意味しない!

 お前がそんな根性だから、どう足掻いても死ぬルートしかないんだぞ!!

 勇気というのは勝機を掴むため! そして、敗北は成功のための糧だ!!


 怒り心頭になりながら、俺は何とかして口を開ける。


「こ、これまで!」(こ、これまで!)


 限界になって崩れゆく体。

 傾きつつ倒れながら見えたアズーリの表情はもはや決闘に臨むものではなく。

 俺は何とか成し遂げたことに満足しながら、疑問を感じた。


 あれ?

 何で……、問題なく喋れたんだ……?


 †


 目を開けたら。


「知らない、天井だ」


 なんか煌びやかな赤と金の布。

 ……まじで知らない天井だけど。


 上半身を起き上がらせると、


「いッ!」


 左肩から尋常じゃない痛みが!


「動いちゃダメですよ!!」


 咎める言葉が隣からする。

 この世界に来て一番聞く馴染みのある声。


「大怪我ですから、安静にしてください!」


 彼女曰く大怪我の元凶。

 アズーリその人である。

 

 ……今まで介抱してくれていた様子で、戦っていた時のような闘いの雰囲気ではない。

 よかったぁ……。

 と、気を抜けば、


「貴様の負傷は?」(アズーリさんこそ、蹴っちゃったところ大丈夫ですか?)


 と言ってしまった。

 いや今回に限ってはだいぶマシな口調ではあるけど。


「私のですか? ……あ、あの最後の蹴り! あ、えーと……、かなり、それはもうかーなり痛みますけど、ベリアル様の方が大事なので!」


 うーん。

 この様子じゃダメージどころか、忘れられる程度のかすり傷にすらなってないな……。

 わかりやすく気を遣われたなぁ。多分“俺”の今までの行動は彼女にそうさせているだろうか。

 やっぱり、基礎レベルに差が開きすぎてたのだろう。

 複雑な計算式によってダメージ計算されるこのゲームでは、どんな攻撃でも合計レベル差数十程度じゃダメージが与えられないなんてことはないけど……。

 おそらく100近いレベル差があったのだろうか。


 負けイベントが顔真っ青になる闘いじゃねえかちくしょう!

 勝てるわけねえよ!


 けど、これで何となくわかったことはある。

 攻撃モーションの速さで、俺とアズーリの技量レベルがおおよそわかった。

 俺は一桁代で、アズーリは低くて50、高くても70は超えない程度だろう。俺は動体視力で追える程度の攻撃なので、70超えていることはないだろう。

 というか、アズーリレベル高すぎ! 作品にもよるけど、ラスダンのサブメンバーにできるレベルだぞ!

 ちなみに技量レベルが80を超えるあたりで人間の動体視力じゃ対応不可能になるために、自動防御が使用されるが、確率で不発になるために、ギャブルを好まないプレイヤーは基礎レベルを上げて、攻撃を耐えるという戦術を取る。

 

 この世界でそんなことをするのは……、それこそ目の前にいるアズーリを倒せるようになってからだな。

 それまでは、ひたすら鍛錬場だ!

 アズーリとの戦いが負けイベントの戦いとしてカウントされなければ、鍛錬室で鍛えるだけで彼女の領域に辿り着けるはず……!

 ゲーム内での判定は、相手からの攻撃に5回以上対応することだったはずだが……、問題ないと信じたい!

 そして、この世界がゲーム寄りであることも祈るしかない!


「お体の方が大丈夫ですか? ……問題ないようでしたら、夕食を用意しますよ?」

「問題などあるはずなかろう。疾く用意しろ」(お腹空いたんで、お願いします!)


 俺の言葉を聞いて、アズーリはふんふんと鼻歌を歌いながら部屋を出ていった。


「はぁ……」


 ため息が出る。

 憑依して半日も経たずに死にかけるとか……。

 この先のことを考えるとしんどくなる。


 知らない原作のゲームに転生なんて。

 こうなると知っていたら、意地を張らずに原作LHもしっかりやっておくべきだった……。


 いざとなれば大陸西部に移り住むか?

 あそこなら夢見の大陸シリーズの舞台だし、年代はわからないが、もしかしたら見知ったキャラクターたちがいるかもしれないし。


 ……とは思ったものの、今はやめておこう。

 あちらのあちらで精一杯のはずだ。

 帝国の内戦に邪神の復活、魔王領と王国の大規模な戦争と、メインモブ含む全ての登場人物の誰かが欠けていたら、少しでもタイミングが悪かったら、そんな些細なことで大陸が滅びかねない。

 俺が行って邪魔になったら目も当てられない。

 

「だけど……、会いに行きたいんだよね」


 特にアナスタシア。

 このゲームに転生したならば、彼女に命(複数ゲームでDLC約8万円近く)をかけた男として、それだけは譲れない。

 ならば――。


「邪神をひねりつぶせるくらいになれば、いけるよね!」


 邪神はその設定が頭おかしい敵である。

 適当に決めたステータスだなどと言われるくらいには、シリーズを通して圧倒的なステータスを誇る負けイベントのボスだ。そのステータスは難易度によらない。

 周回によるレベル上限撤廃後のレベルカンストで挑んでも、対策なしのパーティでは10ターンも持たない。

 最終的には封印する方法を見つけた主人公が、何とかしてラスボスから封印のためのアイテムを奪って、ギリギリのところで封印を成功させるのだ。


 そんな奴を倒すなんて無謀なことをしても意味ないだろって?


 ただねぇ。

 無理ではない。

 無理では、ないんだよね。

 とある動画投稿サイトには載っている。

 シリーズ中最強の敵であった邪神を、倒す動画。


 サポート魔法を発現したキャラ3人の回復を投げ捨てた命懸けの5ターン魔法バフと、過剰なアイテムによるドーピングバフ。

 文字通り指数関数的に増加した攻撃力から繰り出される、圧倒的な対魔導戦車ライフルによる一撃。

 32ビット変数のダメージ値の限界に迫る10億の圧巻のダメージでもって、一瞬にして邪神を消し飛ばした動画が。ちなみにだが、シリーズ内で最強のラスボスの体力は100万行かない程度である。

 そして邪神退治後に流れる、制作されたこと自体が驚かれた秘されしエンディング。

 無理ではないのだ!


「よし、まずは仲間あつ……め…………」


 忘れてた。

 “俺”の口調。

 仲間集めとか無理じゃね?


 ……よ、よし!

 大人しく、邪神騒ぎが終わった後で大陸西部に行こう!

 邪神以外のラスボスなら、100万を削り切れるまで鍛えればいいし、それなら無理ではない!

 怪我が治り次第頑張るぞ!

 

 それに、俺に転生したこの世界は原作LHだ。ただの日常系の抜きゲーならまだしも、凌辱はいただけない!

 何となくだけど、俺が憑依しなければアメリアはあんなことやこんなことを“俺”にされただろう……。

 けど、俺ならばそんなことはしない!

 その上、この大陸で凌辱なんてのは、俺の目が黒いうちは絶対にさせないぞ!

 これは原作LHを作ってしまったゲーム会社へのアンチテーゼでもある!

 俺ならば、凌辱ではない、夢見の大陸の物語の続きを見ることができるはずだ!

 この凌辱ゲーを、俺は学園青春モノにして見せる!


 そう決意した俺だったが、コンコンと叩かれるドア。


「入れ」(はいはいー)


 張り切ったアズーリが作ってくれたのは、土鍋。

 疲れた体に沁みる味だった。


 †


 邪神……?

 会いに行きたい……?


 ベリアル様……。

 もはやそこまで堕ちてしまわれて……。


 ですが。

 ですが……、私だけはあなたのそばに。

 あなたの最後の味方に。

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