第13話 片恋成就

「お願いだから冷たくしないで、私を避けないで、淳≪あっ≫ちゃん」


 恥ずかしさとみじめさで涙が溢れてきたが、勇気を振り絞ってことばを続けた。


「一番じゃなくていい。セカンドでもサードでもいい。都合のいい女でいいから、私をそばにいさせて」

 

 それでも彼は、私の前で沈黙を続けた。

 こうなってしまってはもう引くに引けない。

 私は清水の舞台から飛び降りる気持ちで、ノースリーブのワンピースの背中のボタンを一つずつ外していった。

 ワンピースがばさりと音を立てて足元に落ちた。続いてブラのホックをと思ったが、それ以上はどうしても金縛りにあったように体が動かなかった。

 涙が頬を伝った。進退窮まった私は、彼の前で、下着姿のまま、顔を覆って泣きだしてしまった。

 

 どれくらいそうしていただろうか。淳ちゃんの腕が、硬直する私を優しく抱きしめると、恋人にするようなキスをくれた。ずっと彼一筋、年季の入った片思いの私の、夢にまで見たファーストキスだった。

 

 それでも涙が止まらない私を、彼がベッドに誘った。

 

 わずかに身につけていた下着を脱がされ、生まれたままの姿になった私の、まだ誰にも触られたことのない部分が彼の大きなてのひらに包み込まれた。

 いつの間にか、泣いていたはずの私の声は、喘ぎ声に変わっていた。


 敦ちゃんが服を脱いで、私に身体を寄せてきた。

 一緒にお風呂に入っていた頃とは別人の、大人になった敦ちゃんの身体が私に触れ、私は「きゃっ」と悲鳴を上げてしまった。


 今までキスもしたことがなかったのに、私は処女じゃなくなっちゃうんだ。

 せっかく長年の念願が成就するというのに、男性経験の全くなかった私は急に怖くなってしまった。


 「大丈夫だから」と敦ちゃんが、耳元で囁きながら私の手を取った。

 不安な気持ちとは裏腹に、私の身体は、もう十分に彼を迎え入れる準備を整えていた。

 

 「うん」

 私は、大きくうなずくと、こわばっていた両の膝の力をそっと緩めた。



 夢のような初体験の後の、あまりの恥ずかしさと照れくささに、何も話せないまま私は衣服を整えた。


「遅くなっちゃうから、帰るね」

「駅まで送っていくよ」


 下を向いて彼の横を歩きながら、そっと彼の方に手を近づけると、彼はそっとそれを握ってくれた。


「また、来てもいいのかな」

 駅での別れ際、ようやくことばを絞り出した私に、


「これ、持ってて」

 彼が部屋の合い鍵をに握らせてくれた。

 

 オンリーワンではないかもしれないけど、私は淳ちゃんの彼女になれたんだ。


「やったぜ!」

 電車を待つホームで、私は戦利品の鍵を握りしめながら、大きくガッツポーズをした。

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