B-2 お風呂をめぐる攻防
蒼の勢いに流されるまま、パンツとタオルとパジャマを持って、脱衣所に入った。
蒼が先にいて、お風呂セットを洗濯機の上に置いていた。
「本当は……二人でデートして、チューして、そういうお付き合いの順番で仲良くなっていくつもりだったんだけど、急にお風呂からでごめんね」
蒼が恥ずかしそうに言った。
「俺は、もう蒼とは長い付き合いだと思ってるから、順番なんて何でもいいよ」
何でもいいから、もう早く、次の展開よ来たれ!
蒼は、改めて遼馬と向き合い、服の袖を握った。
そして、そっと目を閉じて唇を差し出してきた。
お、これは……夢じゃない!!!
北斗もいないし!!
ためらってる場合じゃない!!
そう思って、蒼の唇にかぶりつこうとしたとき、スマホの電話が鳴った。
(なぜ、俺は、風呂場にスマホを持ってきたのだろう……)
遼馬は自分の無意識の習慣を心から呪った。
泣く泣く画面を見ると、母からだった。
おばあちゃんに、何かあったのだろうか……
「ご、ごめん……母さんだ……。先にお風呂入ってて……」
「……うん、わかった……」
遼馬は電話に出るために、脱衣所を出た。
「もしもし……」
「あ、遼馬。ごめんね二日間も留守にして」
「ううん、大丈夫だよ。おばあちゃん、具合どう?」
「まずこっちも大丈夫。明日、早く帰った方がいい? そっちが大丈夫なら、夕方帰ろうかと思って」
「夕方でいいよ。朝もなんとかなってるから……」
「あ、そう。北斗くんがいるから、遅刻の心配もないしね。じゃ、もう少しよろしくー」
そう言って、電話は切れた。
遼馬は、無になった。
そんな内容程度の電話で、蒼とのファーストキスと脱衣シーンを逃してしまったのだ……!!!
いや!
気を取り直せ自分!
今ならシャワーシーンにまだ間に合う!!
遼馬は自分を鼓舞した。
急いでバスルームに戻ろうとした。
すると、バスルームの隣にあるトイレから、北斗が出てきて鉢合わせした。
「あれ? お風呂入ったんじゃないの?」
「あ……ちょっと、母さんから電話があって……」
「ふぅん……」
北斗は遼馬に近づいてきて、抱き上げようとする。
「ちょ! 何するの?!」
「蒼のとこに行かせるわけないじゃん」
北斗は俺をリビングに連れて行こうとする。
おっぱいが!
俺の!
俺のおっぱむらいすが遠のいていく……!!!
リビングまで押し戻されて、ソファに押し倒される。
「ちょっと!! 今は蒼との時間なんだけど……!!」
「俺と蒼は兄妹だから、あんまり違いはないと思うんだ。人間とオランウータンですら、遺伝子は96パーセント一致だから……」
「違いはありありだよ!! おっぱい無いじゃん!!」
「お前、蒼のおっぱい目当てなのか?」
「目当ての一つだよ! いいだろ! おっぱい目当てでも! 俺に蒼のおっぱい揉ませてくれよ!」
目の前にあるのに!
おあずけはたくさんだ!
もう泣き喚きたい!
遼馬は北斗をつき飛ばして、ソファから立ちあがろうとした。
早く!
蒼が出る前に風呂場に戻らなくては……!!
「遼馬くん……あたしの……おっぱいが目当てだったの……?」
リビングの入り口に、パジャマ姿の蒼がいた。
「えええ?! お風呂上がるの早くない??」
「あんまり来ないから……。髪を洗うのは朝にしようと思って……」
よく見るとパジャマ姿もぐう可愛いぃ……
なんて、感動してる場合じゃない!!
「ち、違うんだ! このおっぱいには深いわけがあって……」
もう正しい日本語を考えられない。
「深いわけ……?」
蒼が表情を曇らせた。
「そう……あのね、俺は、小さい頃の蒼も好きだったわけで、つまりその時点で、蒼のことは100パーセント好きだってこと」
「……うん……」
「で、蒼は大人になって、おっぱいが大きくなったから、20パーセント増ってことなの。合わせれば、120でしょ? つまり、俺は、蒼のことが、120パーセント好きなの!」
「………………」
「………………」
蒼も北斗も無言だ。
「か、仮に! 蒼のおっぱいが小さかったとしても、俺は蒼が好きだよ! 蒼は小さい時から可愛かったし、今も可愛いし! おっぱいが好きだから蒼を好きになったんじゃないの! とにかく!」
遼馬は叫んだ。
こんな短時間でおっぱいを連呼したのは、人生できっと最初で最後だろう。
「……遼馬くん……わかったよ……。遼馬くんは、私が小さいころからずっと優しいから……おっぱいだけじゃないところも、ちゃんと好きでいてくれるって、信じるから」
蒼ははにかんで、髪を耳にかけた。
何をしても可愛い……
天使なの? 妖精なの?
「ちょっと待て、俺は納得いかない。胸がなくていいなら、俺でも良くない?」
「良くない!! お前は余計なものがついてるでしょーがっ!!」
(俺もバカだけど、北斗も案外バカだよな!!)
遼馬はそう思った。
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