B-1 蒼のお泊まり

結局、北斗と――【自主規制】――な朝を迎えてしまった……。

なんかもう後戻りはできない。


北斗は、上機嫌で学校に行く準備をしている。



♢♢♢



身支度が終わり、靴を履いて玄関を出ようとしたら、北斗に腕を掴まれ、キスをされる。

いってきますのチュー……ってことだろう……。

長々と……朝から食べられてしまった……。


北斗が満足すると、ようやく家から出られて、コンビニで朝ごはんとお昼を買い、学校へ向かった。



♢♢♢



課外授業は、しっかり集中して受けようと頑張った。

これから数日間、あんないかがわしい夜を過ごすかもしれないんだ(涙)。

勉強時間は勉強時間でちゃんとしないと、イチャつくだけの一週間になってしまう。



課外が終わると、二人は図書室へ向かい、蒼と合流した。


蒼がじっとこちらを見た。



「……お兄ちゃんとのお泊まり楽しかった?」


そんな……図書室で口に出せることじゃないよ……。



「遊びで泊まってるわけじゃないんだから」


北斗が代わりに答えた。

事実だけ見ると、こちらから仕掛けたみたいになってるから立場が弱い。



「今日……私も泊まるから……!」


よく見ると、蒼は大きなカバンを持ってきていた。



「だから、遊びじゃないんだよ」


北斗がイラついたように言った。

よく、そこで遊びじゃないって堂々と言えるな。



「……本当に昨日、チューもしてないの……?」


蒼が険しい表情で北斗を見た。



「チューはした」


北斗があっさり白状して、遼馬は心臓が止まりそうになり、蒼は悲鳴をあげそうな顔をしたが、図書室ということでこらえた。

お前は火に油を注ぐ……いや、ガソリンに火をつける放火魔か!!



「……遼馬くん……!! 今日、絶対、あたしとチューしようね!!」


蒼が、小声で、でも力強く言った。

嬉しい発言なはずなのに、複雑な気分だった。



♢♢♢



夕方、昨日と同じように予備校に行った。

今日も母はおばあちゃんちに泊まると連絡が来た。

今回は正直に、北斗と蒼にそれを伝えた。

なんと、蒼が夕飯を作ってくれるという。


蒼が夕飯を作ってくれるなんて……

エプロン姿を想像して、身悶えした。



授業が終わり、近くのスーパーに寄ってアイスを買い増しした。

夜道を歩いていると、北斗が手を繋いできた。

周りを見ると誰もいない……から、手を繋いできたのか……。

振り払うのもなんだかだし、繋ぎっぱなしもなんだかだし、北斗との親密度だけ加速度的に増していく気がした。



♢♢♢



玄関の鍵をかけてドアを開けるといい匂いがした。

今日はチキンオムライスらしい。


蒼がリビングキッチンのドアから、玄関に出迎えに来た。


長くて豊かな髪をポニーテールにして、ノースリーブにショートパンツ……なのだろう。

だろう、というのは、その上にエプロンをしていたから、出ている四肢の状態からそう察したのだ。

つまるところ、エロかった。


露出の激しい美少女が家に爆誕していて、遼馬は玄関で固まってしまった。



「おかえりなさい!」


蒼は笑顔でそう言って、固まっている遼馬に抱きつき、ほっぺにチューをしてくれた。

ここは天国なの?



「暑苦しいから離れろよ!」


北斗が猫みたいに蒼を引き離した。



「ちょっと! 何するのよ! あたしと遼馬くんのスキンシップの時間がぁぁぁ!」


そう叫ぶ蒼を、北斗が半ば担いでリビングキッチンに連れていった。



♢♢♢



チキンオムライスにサラダにスープ。

オムライスは山盛りで、その山の向こうにさらに二つの山がある。

蒼のおっぱむらいす……。

ノースリーブに巨乳って、青少年保護育成条例的に違反じゃないの?

あと、悩殺という罪がこの世にあるんだな、と実感した。



スプーンを噛み締めてボーッとしていると、


「美味しくなかったかな……?」


と、心配そうに蒼がこちらを見てきた。



「美味しいよ……美味しすぎて、うち震えてるんだ……」


「なら良かった」


蒼が笑顔で言う。


さっさと食べ終わった北斗が言った。



「遼馬、今日は一緒にお風呂に入ろうよ」


遼馬はオムライスを吹き出した。



「なんなのお兄ちゃん! それならあたしが遼馬くんとお風呂入りたい!」


急な流れに、もはや妄想すら追いつかない。



「蒼と二人きりになったら、ヤッちゃうでしょ。蒼はまだ高1なんだよ? まだ早いから。発育は無駄に一人前以上だけど」


「もう16歳だから大丈夫ですぅ! お兄ちゃんこそ、絶対遼馬くんのこと襲う気だから! 遼馬くんが選んでよ! 遼馬くんの性的同意を得ないと!」


「俺ハ蒼ト風呂ニ入リタイデス」


感情がついていかないが、すかさず意思表示をした。



「ほら! ね! じゃあ早く行こっ。後片付けはお兄ちゃんがやってくれるから!」


「さりげなく片付け押し付けるなよ! やるつもりだったけど!」


蒼は遼馬の手をひいて、リビングを出た。

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