第12話
渋々歩いていたルーズの雰囲気がなんとなく前向きになったことに気づいたアリーナは笑みを増し、繋いだ手をぎゅっと握りしめた。
そんなアリーナの行動にルーズはよく分からなかったが可愛かったのでぎゅっと握り返した。
『アリーナ様疲れたら言ってくださいねぇ。
おんぶしますから』
田舎育ちのルーズは山で育ったので1日歩けるが、アリーナは違う。はずである。
日焼けと無縁そうな肌と細い足がちょこんとスカートから見えている。
靴はブーツを履いているので多少は歩けるはず、と思うが田舎育ちと違い都会っ子の運動能力は不明だ。
おんぶは不敬かもしれないが、疲れた子供を運ぶには一番最適である。
城に着いたら不敬罪で捕まるなら楽な方法でいいだろうとルーズは考えていた。
前向きに、どうにでもなれの精神は強い。
アリーナはそんな考えのルーズのことなど知らず、お人よしねぇと心の中で呟いた。
ルーズもそんなことを思われているなど知る由もなく、高そうな服を汚さないように背負うにはどうしたらいいか考えていた。
『私は魔法のおかげで疲れないから平気よ』
私の魔法便利なのよ、と微笑むアリーナ。
ずっと歩き続けているが、ペースも落とさず泣き言も言わないあたりどうやら本当のようだ。
貴族は、特殊な魔法を使える家系が存在するとルーズは子供の頃から愛読している専門書に書いてあったな、と脳内の本のページを探す。
本には、天候を操る魔法や動物を操る魔法、他人の声を聞いたり逆に他人に声を届けることも魔法でできるとあった。
ただ、特殊な魔法は使い方によっては危険が多い。
そのため一族のみの伝聞とし秘匿してる場合がほとんどであると記されていた。
専門書は昔の記録や資料、日記などから研究者たちが見つけたものだ。
アリーナの家は身体強化やそういったなにかが使えるのだろう。
それならば、平民が多くいる場所まで1人で歩いていたのにも納得である。
疲れ知らずの体力とは羨ましい限りだ。
『そうなんですか、いいですね。それ。
じゃあ何かあったら言ってくださいねー』
『ええ。ありがとう。
ねぇ、あなた、お人よしってよく言われないかしら。
少し心配だわ…』
目元が赤く腫れた成人女性と可愛らしい貴族の子どもの2人組は目立った。
すれ違う人たちを驚かせたが、和やかな雰囲気で堂々と歩く姿は楽しそうで事件性は低そうだ、と判断された。
ルーズが滝のように泣いたままなら即通報だったに違いない。
『あ…』
しばらく歩いていると、いつの間にかギルド近くまで戻ってきてしまっていた。
『あのーオジョーサマひじょーに申し訳ないんですが、この道は都合が悪くて、ちょっと回り道ですがこちらからお願いします』
ギルドの前の道を通れば城まで最短で行けるのだが、今は絶対に行きたくない。
『あらそうなの?
別にいいわよ。あっちも楽しそうだしね』
ギルドは街の中心広場に建てられている。それを避けるには回り道が必要だ。
アリーナが指差した先は人々が賑わいを見せている。
この辺りは平民が利用する店が多く、アリーナが見たこともないような商品や食べ物が豊富に並んでいた。
『じゃあ行きましょう』
知的な笑顔に隠れていた好奇心が、目の輝きに表されたアリーナはどこをどう見てもお子様で、大変可愛らしかった。
本当に疲れを知らないようで、大人の足でも橋からギルドまでは30分かかる距離を歩いたのにも関わらず、アリーナは急げとばかりに早足で、ルーズにはよく見慣れた店たちへ向かった。
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