第16話 過去への扉

ジュノとミヌは、過去へと旅立つための準備を整えた。事務所の窓から見える夕焼けの光が、まるで過去への扉を開く合図のように彼らを包み込んでいた。ジュノは深い呼吸をし、心を静める。


「準備はいいか?」ジュノはミヌに問いかけた。


「はい、どんな困難が待っていても、妹を救いたいです」とミヌは決意を込めて答えた。


ジュノは集中し、未来を視る能力を使って過去の時間軸にアクセスする。彼の目の前に広がる光景が徐々に変わり、2年前のソウルの街並みが現れた。彼らはソヨンが事故に遭った日の午後4時頃に到着した。


空は淡いピンク色に染まり、秋風が静かに吹き抜ける。通りを行き交う人々の姿が、生き生きと映し出される。ジュノとミヌはその中に紛れ込み、ソヨンの学校からの帰り道を辿り始めた。


「ここが事故現場です」とミヌは指差した。そこは住宅街の一角で、細い路地が交差する場所だった。ジュノは周囲を見渡し、事故の原因を探るための手がかりを探し始めた。


ジュノの目には、事故直前の光景が鮮明に映し出されていた。車のエンジン音、歩行者の足音、風に揺れる木々の葉の音が耳に届く。その中で、ソヨンの小さな姿が見える。彼女は楽しそうに友達と話しながら歩いていた。


「この時、何が起きたのか…」ジュノは静かに呟き、視界の中で一瞬の変化を見逃さないように集中した。


ジュノとミヌは、ソヨンが家に帰るまでの道を注意深く観察した。途中で彼らは、ミヌの家族が抱える複雑な関係や隠された秘密に気づくこととなる。


「母は、ソヨンが事故に遭う前から体調が悪かったんです。でも、家族にはそれを隠していました」とミヌは語る。その言葉には、母親への心配と愛情が滲んでいた。


「それで、事故が起きた日も無理をしていたのかもしれない」とジュノは推測した。彼の心には、家族の絆がどれほど大切かが浮かんできた。


「そうです。母は私たちのために一生懸命働いていましたが、そのせいで体調を崩してしまったんです」とミヌは悔しそうに語った。


ジュノはその言葉を聞きながら、家族の愛情と犠牲がいかに深いものであるかを改めて感じた。


ジュノはソヨンが事故に遭う瞬間を正確に視るために、さらに集中力を高めた。彼の目の前で、車が角を曲がり、ソヨンに向かってスピードを上げる光景が浮かび上がる。その瞬間、ジュノは時間を止めるようにして行動を開始した。


「ミヌ、急いで!」ジュノは叫び、ミヌと共にソヨンの元へ駆け寄った。彼らはギリギリのところでソヨンを引き寄せ、車の進路を避けることに成功した。


ソヨンは驚いた表情で兄とジュノを見上げ、「お兄ちゃん、何があったの?」と尋ねた。ミヌは涙を浮かべながら「大丈夫だ、ソヨン。お前を守るために来たんだ」と優しく答えた。


ジュノとミヌはソヨンを無事に救い出し、過去の出来事が変わったことを確認した。ジュノはミヌに向かって、「これで、未来がどう変わるかを確かめる時が来た」と告げた。


ミヌは深く息をつき、「はい、どんな未来が待っているのか、覚悟しています」と答えた。その言葉には、兄としての決意と責任が込められていた。


ジュノは再び未来を視る能力を使い、現代へと戻る準備を始めた。彼の心には、過去を変えることの難しさと、それに伴う責任の重さが刻まれていた。


「さあ、現代へ戻ろう」ジュノは静かに言い、ミヌと共に未来への扉を開いた。彼らの周りには再び光が広がり、現代のソウルの街並みが徐々に姿を現した。

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