第10話 クローズドサークルの技術

新たな技術を学び続ける高橋恭平は、次なる挑戦としてクローズドサークルの手法を学ぶことにした。香織は、高橋にクローズドサークルの重要性とその効果的な使い方を教えるため、具体的な方法と共に説明を始めた。


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香織はデスクの上に広げたノートと資料を指しながら話し始めた。「クローズドサークルとは、限られた場所に登場人物を閉じ込め、その中で事件が発生する設定です。これにより、事件が起こった際に犯人がその中にいるという前提が確立され、物語に緊張感が生まれます。」


恭平は興味深くその言葉に耳を傾けた。「具体的には、どのようにしてクローズドサークルを効果的に作り上げるのですか?」


「まず、閉鎖された環境を設定することが重要です」と香織は続けた。「例えば、島や山岳地帯、雪に閉ざされた別荘、船、豪華な列車など、外部との連絡が取れない状況を設定します。」


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### 閉鎖された環境の設定


香織はデスクに地図を広げ、例を示しながら説明した。「例えば、豪華な列車が山岳地帯を走行中に突然の雪崩に遭遇し、列車は動けなくなります。通信も途絶え、乗客は列車内に閉じ込められます。これが閉鎖された環境です。」


恭平はその地図を見ながら、「なるほど、こういう状況を設定することで、全員が疑われるんですね」と理解を深めた。


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### 限られた登場人物


香織は続けた。「次に、限られた登場人物を設定します。例えば、この列車には数名の乗客と乗務員が乗っており、それぞれが何らかの目的でこの列車に乗っています。乗客の中には有名な実業家、若いカップル、謎の女性などがいるとしましょう。」


恭平はノートにメモを取りながら、「それぞれのキャラクターに個性や背景を持たせることで、読者に印象付けることが重要ですね」と述べた。


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### 閉鎖環境の利用


香織は続けた。「閉鎖された環境をうまく利用して、物語に緊張感を与えることができます。例えば、時間制限を設けることで、緊張感を高めることができます。列車が雪に閉ざされている間に事件を解決しなければならないというプレッシャーを与えるのです。」


恭平はその提案に同意し、「環境そのものが登場人物たちに圧力をかけ、事件解決を急がせる要因になるんですね」と納得した。


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### 複数の動機とアリバイ


香織はさらに続けた。「各登場人物に動機を持たせ、それぞれに矛盾するアリバイを持たせることで、謎を深めることができます。例えば、実業家には多くの敵がいるかもしれません。若いカップルには別の問題があり、謎の女性には過去の秘密があるかもしれません。」


恭平はメモを取りながら、「動機の多様化やアリバイの操作で、読者に様々な可能性を考えさせることができますね」と理解を深めた。


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### ミスリードの活用


香織はさらに続けた。「読者を意図的に誤った方向に導くことで、物語の複雑さを増し、クライマックスでの驚きを高めることができます。例えば、偽の手がかりを提示し、一見怪しいキャラクターに注意を引きつけるのです。」


恭平はその提案に興味を持ち、「予想外の展開や思わぬ真相を用意することで、読者に驚きを与えることができますね」と納得した。


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### クライマックスと解決


香織は最後にクライマックスについて説明した。「クローズドサークルの物語では、クライマックスでの解決が非常に重要です。全ての手がかりが繋がり、読者が納得する形で事件の真相が明らかになります。」


香織は例を挙げながら、「全員を一堂に集めて探偵が推理を展開する場面を作り、これまでの手がかりや伏線をすべて回収し、事件の真相を解明します」と説明した。


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### 実践例


香織の指導のもと、高橋は新しい短編小説でクローズドサークルの技術を試すことにした。彼は新しい物語を構想し、限られた場所での事件とそれを解決する探偵の姿を描くことに挑戦した。


**短編小説の一節**


**閉鎖された環境の設定**


豪華な列車が山岳地帯を走行中に突然の雪崩に遭遇し、列車は動けなくなる。通信も途絶え、乗客は列車内に閉じ込められる。


**限られた登場人物**


列車には数名の乗客と乗務員が乗っており、それぞれが何らかの目的でこの列車に乗っていた。乗客の中には有名な実業家、若いカップル、謎の女性などがいる。


**事件の発生**


その夜、実業家が自室で殺害される。列車は雪に閉ざされており、犯人は必ずこの列車内にいる。


**手がかりとミスリード**


探偵は各部屋を調査し、様々な手がかりを見つける。一見怪しいカップルが目立つが、実は彼らは無関係の問題を抱えていただけだった。


**クライマックスと解決**


探偵は全員を食堂車に集め、各自のアリバイを確認しながら推理を展開する。最終的に、探偵は巧妙に隠された手がかりを基に真犯人を特定し、事件の真相を明らかにする。


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高橋はこの短編小説で、クローズドサークルの技術を巧みに組み込み、読者に緊張感と驚きを与える物語を作り上げた。


香織は完成した短編小説を読み終え、「素晴らしいわ、高橋君。この短編は、クローズドサークルの技術が見事に活かされているわね。閉鎖された環境と限られた登場人物の設定が、物語に深みと緊張感を与えています」と評価した。


恭平はその言葉に満足し、「先生のおかげです。次はさらに新しい技術を学びたいです」と意欲を見せた。


「それは素晴らしい考えね。次は安楽椅子🕵️の技術について学びましょう。緊張感を高めるための方法や、読者を物語に引き込む技術を詳しく教えます」と香織は微笑んで答えた。


こうして、高橋恭平はクローズドサークルの技術をマスターし、さらなる成長を目指して次の技術に取り組むことになった。彼の探偵作家としての道は、ますます深みを増していった。

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