第4話 念仏なら死んでから唱えろ
⁅⚠ このエピソードには残酷描写があります ⚠⁆
スコットの下で、漆黒の翼を有すそれは動かなくなっていた。
スコットはそれに全体重を乗せていたことに気付き、反射的に飛び
スコットの体重は九十四キロ。最悪の場合、圧死させてしまうかもしれない。
……って、あの狂乱少年の仲間であろう怪物のことなど、なぜ心配しているのか? とスコットは後から自問する。
改めてそれを確認すると、腕と脚は二本ずつあったものの、顔や姿形は人間とは程遠く、
尖った耳と
そして何より人間離れしていたのは、やはり背中から広がる巨大な漆黒の翼であった。
天使?
聖書や神話に出てくる天使とは似ても似つかぬ姿であったにも
いや、そんなはずはない。これはむしろ
切株に打ち付けたらしく、それは頭から出血していた。生死は不明だが好都合だ。早くこの場から離れた方が良い。
「スコット先生、助かっちゃったの? そいつ誰? 先生の友達?」
思いのほか早く、教会の裏手から
まだ漆黒の天使もどきの傍にいたスコットは、理久からの意外な問いかけに眉を
てっきり彼の仲間だと思っていたのだが、どうやら全く無関係の人物……いや、怪物のようだ。
「まあいいや。そいつとは後で遊ぶよ」
言った理久の姿が、みるみるうちに
やはり白銀の狐になったのだが、その大きさが
狐と言うよりか、化け狼か?
「でも良かった。そいつに感謝しなきゃ。先生にすぐに死なれたら、ここに来た
その声はもはや少年の、と言うより人間の声ではなく、天使もどきの声よりも重厚な低音だった。
これでは助かったことを喜べない。
理久は口角を上げ(笑ったのだろう)、その巨体からは想像も付かぬほど機敏に軽やかに跳躍した。
その勢いでスコットの眼前まで迫り、巨拳を振るう。
左肩を打たれたスコットは吹っ飛び、教会の壁に全身を叩き付けられた。
衝撃で視界が
血の味がする。口の中が切れてしまったのだ。全身が痛むが、骨折や内臓破裂はしていないようだ。
「何発まで耐えられる? 少しは頑張ってよね」
冗談ではない。何発どころか、次で動けなくなり、その次には絶命もあり得るだろう。
強烈な一撃だったが、手加減をされていることはスコットにも分かった。本気で殺すつもりなら、爪や牙で斬り裂き、噛み裂くこともできるのだから。
そう。致命傷を与えないようにしているのだ。
「残念だな。スコット先生、イケメンなのに、なんで独身なの? 奥さんと子供がいれば、もっと楽しかったのに」
理久はおちょくるように言い、立ち上がろうとしたスコットの左方から尻尾アタック。
モフモフの尾ではあっても、スピードと重量がある。スコットは再度吹っ飛ばされ、アスファルトの上を横転し、駐車場縁の木に激突した。
これもやはり加減されていたようで、重傷には至っていないが、脳
こんなことを続けられては、本当に死ぬ。
理久は
「早いよ先生、もうギブアップ? つまらないなぁっ!」
理久が右手を伸ばし、スコットの頭を
そして喰い込ませてゆく。じわじわと、ゆっくりと。
スコットは両手で巨大狐の
もう駄目だ。どう
せめて、自死という最期を迎えずに済んだことを感謝しよう。
スコットは抵抗を諦め、両手をゆっくりと下ろして胸の前で組み、
「……天の、父なる神様……
ざんっ!
祈りも半ばのうち、巨大狐の胴体から銀色の刃が飛んできて、スコットの喉笛でピタリと寸止めされた。
鮮血と臓物が飛び散り、スコットにも降りかかる。
放り出されたスコットは地面に
一瞬、スコットは何が起きたのか分からず、放心状態となった。
理久を上下真っ二つにした刃は、瞬時に元来た軌跡を戻りながら反転し、地面に残された巨大狐の下半身を
「人が気持ちよく寝てるのに、ギャースカギャースカと……」
横から、かなり
生死不明だった、あの漆黒の天使もどきだった。
「貴様、スコット……先生か? 念仏なら死んでから唱えろ」
「あの……念仏じゃ、なくて……」
もはやこの
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