第31話
薬剤の匂いが鼻に残る。
木製の棚に様々な植物の種、葉などが用途別に分けられていた。
それ以外にも何かの眼球や羽など様々な物が透明の液に付けられ、ガラス瓶の中に培養されている。
ここは宮廷薬師達が利用していた薬剤室だと当たりを付ける。
しかし理解するとほぼ同時に、巨大な何かにアシルは身体を押さえつけられる事となった。
「ぐッ!?」
身体の節々からミシミシと骨が軋む音が鳴る。
うつ伏せのまま身動き一つできない。
前に目線だけを滑らせると、土気色の身体が薄っすら確認できた。
(
それにしては異常な力だった。
アシュトンの研究室に来て早々、この仕打ちという事は明らかに吸血鬼云々の話は罠だったのだろう。
『殺ス……殺、ス……』
アシルは内臓が口から出そうな程の圧迫感に顔をしかめながら目を見開いた。
憎悪の感情しか感じない、その声音は聞き覚えがあった。
「……これは予想外じゃな。儂が造り上げた
影から浮かび上がってきた
アシルは再び自らを剣だと念じる。
その瞬間、全身から赤い光が噴き出した。
闘気を纏った事で身体能力がぐんと上がった。
身体を押さえつけているアンデッドを強引に跳ねのける。
「……何の……真似だッ、アシュトン」
「それは自分の胸に聞いてみるのじゃな、裏切り者が」
「……ッ」
相対した存在に、アシルは奥歯を噛み締めた。
「いやッ!? 離して!」
「黙らんか、人族が」
アシュトンはドレスを着たプロチナブロンドの髪の美少女の首を掴み、冷酷にアシルを睨む。
彼の傍には土気色の肌の化け物が三つある口から涎をダラダラと垂らして、六つの瞳でアシルを見下ろしていた。
『……殺ス……次、ハ、負ケ、ナイ……次ハ……フレン……並ビ……立ツ……負ケ……ナイ』
気色の悪い姿だが、化け物の声音は間違いなく元聖騎士にして魔王軍幹部だったゼノンのものである。
いや、それだけではない。
ザガンの配下だった二体の
肥大化した顔の部分には目が六つあり、裂けた口が左右と真ん中についている。
アシュトンの言っていた意味が理解できた。
アンデッド同士を合成し、より強い存在へと生まれ変わらせたわけだ。
「……お主らが何か隠し事をしていたのはお見通しじゃった。そもそも、アンデッドのお主が不自然に人族であるネクロエンド卿となれ合っている時点でおかしいのじゃよ。アンデッドは生者を憎む。それが敬意を払うべき屍霊四将であろうと」
アシュトンは骨ばった指ながら、凄まじい握力でヘレナの首を絞めつけていく。
「あ、ぐる、じい……」
「止めろッ!」
アシルは駆け出した。
腰に下げている『吸命剣パンドラ』を抜き放ち、闘気を纏わせる。
「<闘気斬>」
そのままアシュトンの首を刎ねようと剣を振り下ろすが、横から凄まじい速さの拳が迫り、アシルはそのまま吹き飛ばされて王城の壁に激突した。
「ごはッ」
口から血を吐きながらも、アシルは立ち上がる。
「やはり人族を庇うか。何という精神力じゃ。まさか人族だった頃の記憶と精神を引き継いだままアンデッドになったというのか」
面倒な事になった。
流石、屍の魔王軍の古参だ。
アシュトンは興味深くアシルを観察している。
アシルも同時に壁役のように立つ
(<
名前 なし
種族:
Lv50
体力:S
攻撃:A
守備:A
敏捷:B
魔力:C
魔攻:D
魔防:D
<
・喰吸収
・白炎魔法
<
・毒爪
・尖爪
三体の屍鬼を合成させただけあって純粋な身体能力はアシルを凌いでいる。
(……圧倒的な優位に立っているからこその余裕か)
だが、【吸命剣パンドラ】の威力を彼らは知らない。
ヘレナが苦しげに息を吐きながら、涙目でアシルを見つめた。
口がパクパクと動く。
たすけて
「当然だろう」
吸命剣パンドラの刀身が震えた。
赤い管が不気味な光を放つ。
何かを吸い取られているような感覚はあるが、喪失感は感じない。
「<闘風刃>!」
試した通り、闘気を纏わせなくてもその斬撃は恐るべき威力だった。
赤い光を帯びたその斬撃が空を疾る。
屍鬼の化け物、アシュトン。
彼らは反応できなかった。
王城の薬剤室ごと、真っ二つに斬り裂いた。
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