第18話
ザガンと名乗った
元々幹部を倒した者が次の魔王軍の幹部になるのが掟というか、既定路線らしい。
正直その立場は願ってもないものだ。
幹部になれば、今は魔王軍に支配されたこの王城に自由に出入りできるようになるはずだ。
そうなればサフィア姫を助け出せる確率がぐんと上がる。
そんなわけでザガンに案内されて現在、アシルとノルは軍のトップである
「……だが、よく倒せたものだ。あの元人間は中位アンデッドの中では一番弱い屍鬼だったとは言え、
階段をあがりながらザガンが探るような鋭い視線を向けてくる。
アシル自身、ただの
渡り合えたのは
ただそれを持つのは人族のみである。
アシルが何故職能を取り戻せたのかは分からない。憶測で良いなら理由は考え付くが、今はどうでもいい。
魔王軍の面々には決して言うつもりはないし、言わない限りはバレない。
しかしその問いをどう誤魔化そうかと考えている内に、
「……ノルがちょびっと助けた」
アシルの肩に乗ったノルが得意げに口を開いた事で、ザガンからそれ以上の追求はなくなった。
「何が気に入られたのか分からんが、運が良い奴だ」
「……俺もそう思う」
ノルのステータスを見る限り、王都を徘徊していたアンデッドに襲われようが楽に返り討ちにできたはずだ。
今も肩車してあげているが、何故こうも気に入られているのかは分からない。
そんな事を考えているうちに重厚な金属の扉を
ザガンは中に入らず、アシルから降りたノルを先頭に二人だけが部屋の中央に進んだ。
壁にはエルシュタイン王家の紋章が描かれたタペストリーが飾られていた。
かつて国王と約束した場所。サフィア姫を勇者の元に届けると約束した場所。
玉座の間。
階段を挟んで、玉座に座る大柄な
その圧倒的な気配に、視線を向けているだけで恐怖を感じた。
アシルはそっと自らの固有技能である<
名前 エルハイド・グランディール
種族:
Lv98
体力:S
攻撃:S
守備:SS
敏捷:A
魔力:A
魔攻:B
魔防:S
<
・雷魔法
<
・|中位
・下位
・暗黒闘気
・
正真正銘の怪物である。これが最上位アンデッド。
中位アンデッドに進化しても尚、頂は遥か遠い。
(……というか、エルハイド・グランディールってやっぱり百年前の勇者の名前だ)
名前はともかく家名まで一緒なのはあまりにおかしい。【王国四英傑】にも名を連ねたエルシュタインの英雄が何故魔王軍最高幹部になっているのか。
(……真実はどうあれ、流石に俺の力では無理だ)
ゼノンのような小物とは訳が違う。
今代の勇者に頼る他ない。
サフィア姫を救出する事ができれば、勇者は聖剣の力を扱えるようになる。
魔王を滅ぼす力を得られるだけではなく、聖剣を持つと飛躍的に強くなると伝承では言い伝えられている。恐らく全ステータスにバフがかかるのだろう。
(やはり鍵はサフィア姫だ。絶対にお救いしなければ)
黒い靄が漂う中、アシルの隣でノルが馴れ馴れしく片手を上げる。
「……エルハイド。久しぶり」
『……良く来てくれた。
「魔王様の命令、絶対だから来た。また死体をアンデッドにすればいいんでしょ?」
『その通りだ。もうすぐエルシュタイン王国の主力と全面戦争に入る。お前の力を貸して欲しい』
「……そのために来たんだから力を使うのは問題ない。だけど、気は乗らない。来て早々変なのに絡まれた」
ノルは頬を膨らませて
『……魔王軍大幹部についている以上、仕方のない事だ。お前の父も……母だって受けただろう?』
「……ッ」
その言葉に珍しく盛大に顔をしかめるノルと、顔がないので何を考えているのか全く分からない
一体と一人は旧知の仲らしく会話している。改めてノルは魔王軍大幹部なのだと嫌でも認識する。
アシルは内心苦々しい面持ちとなりながら耳を傾けていた。
『だが、ザガンから先に報告を受けて驚いた。屍霊四将たるお前に負けるならいざ知らず、特異個体とは言え下位アンデッドである
「……マミーさんは特別。非常に興味深い存在」
『……それには同意する。
エルハイドが僅かに前のめりの姿勢になる。
「……そう。恐らく変異種の
『やはりそうか。私も数十年ぶりに見た。だとすれば次の進化は吸血鬼の原種だ。もし至ればこれ以上ないほど魔王様はお喜びになられるだろう』
玉座の周りを覆っていた黒い靄が僅かに薄まる。
それはそうと
理解が及ばないアシルは首を捻る。
その様子を見て、ノルが説明の為に耳打ちしてくれた。
「……上位アンデッドの
「……俺が……魔王になるかもしれないと?」
「簡単に言えば」
こくりと頷くノルにアシルはしばし呆然とする。
魔王とは全人類の敵だ。
自分が人族を虐殺する、そんな絵面が浮かぶのを止められない。
とは言え、例え進化の果てに魔王へ辿り着こうとも自分を失わなければ良いのだ。
人族からアンデッドになっても何とか大丈夫だったのだから、気を強く持てば良い。
人族を助ける善なる魔王になるのだ。ちょっと想像できないが。
『……変異種ともなれば実力は十分か。
重厚な存在感を放つ
『ゼノンに代わってこれからはお前が魔王軍幹部となる。不服はあるか?』
「……いいえ」
『よし。ならばアレがやり残した仕事は代わりにお前がやり遂げるのだ。いいな?』
「……分かりました。何をすれば?」
『できるだけ早く、同じく幹部である
アシルはすぐに頭を働かせる。
(聖騎士団長の父君が治める街か)
城塞都市カルラン。
ここを落とされると勇者達からすれば非常にマズイはずだ。王都を攻める上での拠点を失う事になる。
『その成果を持って、己の力が魔王軍幹部に相応しいものである事を私に証明しろ』
「……お任せください」
形だけ平伏してみせる。
勿論、アシルに実行する気はない。
すぐにでもサフィア姫の居場所を突き止め次第、王城を離れるつもりだった。
しかし、エルハイドと同格たる屍霊四将の一人、ノル・ネクロエンドが前に出て杖を床に打ち立てた。
「――それはダメ。マミーさんはノルの仕事を手伝うの」
『……何だと?』
その瞬間、エルハイドの身体から漏れ出した大量の黒い靄が玉座の間に広がった。
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