第3話

 



 王都を彷徨い歩くスケルトン、アシルはどのアンデッドを経験値とするか迷っていた。


 街にはスケルトンだけではなく、様々なアンデッドが徘徊している。

 地上には動く死体のゾンビは勿論、空には青い火の玉ウィル・オ・ウィスプ。


 街の中心部に近いところにはローブを着た魔法使いのような装いの骸骨を何体か見かけた。


 強い存在を殺したほうが経験値は多く貰えるだろうが、魔法使いには勝てそうにない。


 そんな折、アシルは廃墟と廃墟の間にある狭い路地に、単体でうろついている骨人スケルトンを見つけた。

 

 存在力を吸収するうえでは願ってもない獲物だ。


 ゆっくりと背後へ片手剣を手に忍び寄ると、急に骨人スケルトンが振り返った。


 どうやら殺気や敵意を察知すると、同族であっても向かってくるらしい。


 カタカタと子気味良い音を立てながら両手を突き出して襲い掛かってくる。

 

 しかし所詮最弱の魔物。兵士時代は治安維持を目的としていたため、人族を相手にすることが多かったが、姿形は一緒の為問題なかった。

 更にアシルは職能クラスを得た事で、身体能力が上がっている影響か敵の動きが遅く見える。


 骨人スケルトンの攻撃を余裕をもって避けながら背後に回る。


 そして生前使っていた、今となっては新しい力である職能技能クラス・スキルを発動する。


 赤いエフェクト光が片手剣を包み込んだ。

 それを手に勢いよく水平に払う。その瞬間、一切の抵抗感なく骨人スケルトンの上半身と下半身が別たれた。


 職能技能クラス・スキルの<闘気斬>は、ただの斬撃とは訳が違う。


 文字通りの闘気を纏った一撃だ。


 その断面図は恐ろしく綺麗で、ボロボロの刃を使ったとは思えない。しかし一回使っただけでふらりと身体に力が入らなくなる。


 職能技能クラス・スキルは魔力を消費して行使するため、魔力量が少ない今の状態だと二、三発が限度だろう。

 立ち上がり、街路に崩れ落ちたスケルトンの頭を容赦なく踏みつぶす。


 完全に沈黙した事を確認すると、再び光の粒子が出てアシルの骨の肉体に吸い込まれる。


 一先ずステータスを見る。



名前 アシル 

種族:骨人スケルトン

Lv2(10/15)

職能クラス:見習い剣士

Lv1(5/10)


体力:H

攻撃:G(装備+5)

守備:G

敏捷:G

魔力:H

魔攻:H

魔防:H

固有技能オリジン・スキル

解析アナライズ

職技能クラス・スキル

・闘気斬


進化解放条件:レベル10

職能クラス解放条件:レベル20




 職能クラスの方の経験値も上がっているが、これは剣を使わずに倒した場合は入らない。


 普通に考えればこのまま一対一を続け、種族レベルと職能クラスレベルを両方上げていった方が良い。


 だがこのペースだと効率が悪い。単体で彷徨っているアンデッドを見つけるのは苦労するし、それが今のアシルより弱いとも限らない。


 アンデッドの身体は不眠不休だ。鍛錬するなら最適だが、そう悠長にしている時間はない。


 こうしている今もサフィア姫は孤独と戦い、絶望で押し潰されそうになっている事だろう。


(種族レベルが10で進化できるなら、先にそちらを手っ取り早く上げた方が強くなれるはず)


 進化すれば、スケルトンくらい複数体相手にできるようになるはずだ。

 アシル自身、魔物の種族進化によってどう変化するかは分からないが、強くなる事だけは間違いない。


 戦い方に拘らなければ、存在力を大きく吸収する方法は思いつく。

 すぐにでもレベル10を達成できるだろう。


 再びアシルは骨の身体を動かして、アンデッド達がひしめく大通りに出た。やはり向かってくることはない。


 逆に言えば、敵意を抱けば一か所に集めることができるということだ。


 それを確認したアシルは歩きながら、二階、いや三階以上設けられた比較的崩れていない建物を探す事にした。


 どれも破壊の爪痕が色濃いが、探せばあるものだ。


 アシルはベッドと月の看板が掲げられた建物を見つけた。

 恐らく下宿だろう。それも横ではなく、縦に伸びている造りだ。


 木製の外観で、あまり傷もない。

 

 それからアシルは街に落ちているレンガ材や木材、陶器などを片っ端から宿屋の中に運んだ。


 酒場のような一階を通り過ぎ、ミシミシと音が鳴る階段をおっかなびっくり上りながら最上階へ。


 持ってきた物をせっせとその階に運んでいく。家の中にある家具などもスケルトンを殺すだけの重さがあり、かつアシルが持てる物は全て運んだ。


 途中床が抜けたりといったアクシデントもありながら、無心になって運ぶ。


 ただ動く分には、この体は疲れ知らずだった。

 どれほど時間が経ったのかは分からない。


 城から伸びた黒い瘴気が漆黒の雲になって空を覆っている。


 だから太陽が見えないため時間の目安を確認できない。


 とは言え、条件は揃った。


 アシルは手ごろな部屋に入り、扉を閉める。

 そして次に最上階の窓を開けた。


 窓から下をのぞくと、相変わらずアンデッドたちが街路を歩いている。


 骨人スケルトンが大半を占めていた。


 碌に思考回路を持たず、動き回るだけの大量の的を見下ろす。


 騎士ではないアシルは自分の行いを卑怯とも思わない。


 だから彼らに向かって窓から手頃なレンガ材を投げた。次々と物を投げた。

 時には落とすだけで良い時もあった。


 骨が砕ける音が鳴り響く。光の粒子がアシルの体にどんどん吸い込まれていく。


 骨人スケルトンにも個体差があり、入ってくる経験値量には差がある。


 アシルは絶え間なく流れ込む力を純粋に喜んだ。


 眼下を見下ろす。敵意を感知したアンデッドたちが続々と集まってくる。

 しかし、それは好都合というものだ。


 アシルは必死になって物を投げた。


 だが、そこで計画に綻びが出る。


 骨人スケルトンの群れの中にいたゾンビが中々倒れない。しぶといのだ。

 そして意外に知恵もある。


 ゾンビの一体が扉を壊し、宿屋の内部へ入ってきた。


 階段を上る足音が聞こえてくる。それと同時に醜悪な呻き声も。


 ゾンビは骨人スケルトンよりも強い。職能クラスを経ているとは言え、今のままでは勝てないかもしれない。


 アシルは自分のステータスを何度か見た。もう少しだった。

 まだゾンビがアシルの元まで到達するには時間がかかる。

 

 階下にいるアンデッドに向けて変わらず運んだ物を投げていく。

 ゾンビがアシルがいる部屋の扉を叩いた。荒々しい呻き声がすぐ近くから聞こえる。


 扉からメリメリと音が鳴った。


 だが、間一髪間に合った。

 アシルの元に集まった光の粒子が全身を包み込む。


 まるで細胞全てが喜んでいるような感覚。


「ウ、アァ」

 

 骨に皮が張り付いていく。外側を腐った肉に覆われる。

 裂けた口元から血に塗れた歯を覗かせた。


 これが進化。


 アシルは自身のステータスを覗いた。

 

 

名前 アシル

種族:屍人ゾンビ

Lv1(2/30)

職能クラス:見習い剣士

Lv1(5/10)


体力:G

攻撃:F(装備+5)

守備:F

敏捷:G

魔力:G

魔攻:H

魔防:H

固有技能オリジン・スキル

解析アナライズ

職技能クラス・スキル

・闘気斬


進化解放条件:レベル20

中位職能クラス解放条件:レベル20



 


 

 無事骨の身体を卒業した。


 次は動く腐った死体である。

 とは言え馬鹿にはできない。腐っているが、曲がりなりにも肉を手に入れたのだ。


 それにステータスも向上した。


 しかし呑気に変化を喜ぶのは後にしたほうがよさそうだ。

 扉が破られた。


 裂けた口元から涎を零しながら、屍人ゾンビが部屋に入ってきた。

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