第7話「愛することは誰にも非難できない」
「お姉さま……」
人の住まう華美な部屋に通され、そこでも見張りがついておりルーナはベッドに顔をうずめて泣いていた。
明るくハツラツとしたルーナが泣いてばかりなことに戸惑うシルヴィアであったが、ついに動き出す。
「お姉さまと二人きりでお話がしたいの。部屋から出て行ってちょうだい」
「しかし……」
「これは命令よ!」
頑固に胸を突き出して騎士に命じ、部屋から追い出してしまう。
してやったりと誇らしげに口角をあげると、シルヴィアはソファーの上に置かれたカバンを持ってルーナのもとへと歩いていく。
大きなボストンバッグは膨らみをつぶす音をたて、ベッドの上に乗せられた。
「私のお姉さまはそんなに弱かったかしら?」
「シルヴィア……?」
「危なっかしいところは多い。ですがそんなことはどうでもよくなるほどに愛情に満ちた方です」
ふんっと細っこい腕でルーナの手首を引っ張った。
縄で縛られていた手首にはくっきりと締め跡がついている。
痛々しい傷にシルヴィアはそっと手を重ね、温もりを分け合った。
「お姉さまはあの狼を愛していらっしゃるのですね?」
「……うん。とっても……心から愛してるわ」
抱きしめたくなるのは。
唇を寄せたくなるのは。
愛おしさに、独占欲を抱くのはリアムだけ。
慈愛に満ちたルーナが父王に逆らってまで手を伸ばす深い愛情だった。
欲望をむき出しにするルーナにシルヴィアは満足そうに息をつく。
そしてボストンバッグの中から濃いグレーのローブと黒い皮のブーツを取り出し、ルーナに手渡した。
「城の小人から。わたくしに運ばせるなんて図々しい小人ですこと!」
それはルーナがよく声をかけていた小人からの贈り物だった。
森で暮らすために、防寒力と機能性を高めたルーナのために作られたもの。
それを受け取り、ルーナは喜びにあふれ出す涙を拭ってそれを身にまとった。
「ありがとう、シルヴィア。私、行くわ」
「……たまには城へ遊びに来てくださいね」
目元を真っ赤にして泣き出しそうなシルヴィア。
それはまだまだ姉に甘えていたい十歳になったばかりの幼い女の子であった。
シルヴィアを抱きしめ、離れるとルーナはシーツをバルコニーの柵に縛り付け、地面に降りるための動線を作る。
見張りがいないことを確認して、ルーナはシルヴィアに礼を言って外へと飛び出していった。
***
寒さに肌がしっとりする。
夜目にもわかるほどに息は白く、ルーナは見張りの目をかいくぐって走っていた。
(もうっ……出口はまだなの!?)
部屋から出た後も正門までの道は長い。
敷地内でも馬車を走らせているのだからそうとうに広いことがわかる。
ところどころに設置された外灯を頼りに敷地の外へ出る方法をさぐっていく。
(やっと門が見えたわ)
青銅の柵で出来た門。
そこには騎士が見張っており、ほかに抜け出せる道がないかと見渡すが何もない。
どう隙をつこうかと考えていると、足元に落ちていた木の枝を踏んでしまう。
(しまっーー!?)
「誰だ!?」
ランタンで顔を照らされる。
騎士はルーナが抜け出したことに気づき、血相をかえて捕らえようと手を伸ばしてきた。
こうなれば振り切るしかないとルーナは走り出し、門の外へと出る。
小人の用意してくれたブーツは軽く、以前のものよりずっと走りやすい。
だが普段からたくましく身体を鍛える騎士たちには敵わず、ついにルーナは手首を掴まれてしまった。
「やだ! 離して!!」
この手は非力だ。
こんなにもリアムに会いたいと願うのに抵抗してもねじ伏せられてしまう。
ただお互いに愛し合っていたいだけなのに、現実は甘くない。
にじむ視界のなかに白い粉雪を見た。
「……雪?」
周りを囲んでいた騎士の一人が空をみあげて呟いた。
途端に道を照らしていた月明かりを奪い、闇色が濃くなり空を覆った。
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