第2話 勇者の後始末

前書き:

お待たせいたしました。ヨーロッパ旅行から半月振りに帰って来ました。


正直まだジェットラグで少々まだ本調子ではありませんが取り敢えず20話が完成いたしましたので投稿させていただきます。


ハンナによる勇者との最終決着、どうなるのかお楽しみください。

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 傷ついた勇者はここサザンの領主の元に運び込まれた。そこで治癒魔法の使える魔法使いが呼ばれ朝夕を徹して治癒に当たりようやく体の表面の火傷が何とか回復した。


 普通ならこんな火傷程度数分もあれば復元するのだがそれだけハンナの魔法が強力だったと言う事だろう。


 勿論そこにはハンナの恨みの思いも入っていたのだろう。しかし腕の方はどうにもならなかった。


 吉村は「俺の腕が,俺の腕が」と喚いていた。


 当然と言えば当然の報いだろう。あれだけ残忍な大量虐殺をやったんだ。極刑になってない方がおかしいと言うものだ。


 領主は事情を聞きどうすべきか悩んでいた。相手は勇者にこれだけの深傷を負わせた程の者だ。自分の持つ兵力で倒せるのかどうか。


 一層の事王家に援助を願い出るか。しかし今回の事が公になるのはまずいとも思っていた。


 一応悪魔付きと言う大義名分はある。しかし獣人居留地を勝手に殲滅して良いと言う理由にはならない。ここは一人の目撃者も出したくない所だった。


 にも関わらず3人もの目撃者が現れ、しかも逆に勇者が倒されてしまうなど想定外の事だった。


 教会側としてもこれは公にする訳には行かない。勇者に対する信用問題だ。


 それならここは教会にも責任を持ってもらって後始末を頼むしかないと思っていた。


 そこでサザン領主は教会に援助を求むべき書状をしたため早馬を送った。


 ゼロ達は獣人達の弔いを終えこれから反撃に出ようとしていた。


 その前に周辺の住人達に獣人との関係を聞いて見ると何の問題もなく仲良く付き合っていたと言う話だった。


 しかし領主様はこの地を何とかしたいと思っていたらしいと言う声が聞こえて来た。


 この獣人の町では安価で良質な薬が手に入るので周辺のヒューマン達も重宝していたらしい。


 これもまたゼロがマネリーに教えた薬草の知識が役に立ったのだろう。そしてそれを脈々と引き継いでいた者がいたと言う事だ。


 それでは領内の医療ギルドが儲からないと言う事で潰しに来たと言う事だろう。碌でもない領主と医療ギルドだ。


 これで倒すべき相手ははっきりした。先ずは医療ギルドから裏を取りに行った。


 まず町の薬屋に行って薬の幾つかを買いその質を調べてみると獣人街から買ったと言う薬より質の悪い物だった。


 これらの薬は自家製かと聞くと全ての薬は医療ギルドから買い取るのだと言っていた。


 なるほどそれで理由が読めた。本来新薬と劣化薬剤以外は各薬屋で薬師による制作が認められていたはずだ。


 それは100年前にゼロが本部の医療ギルドとの間で取り決めた事だった。それがこの町では守られていない事になる。


 ゼロは医療ギルドに乗り込んでその事を問いただした。


 すると「ど素人が薬について何も知らないのに勝手な事を言うな。出て行け。さもないと衛兵を呼んで逮捕させるぞ」と言われた。 


「ならここの責任者を出してもらおうか。俺はこう言う者だ」と言って医療ギルドのカードを出した。


 そこには1級薬師と記されてあった。もう100年も前の物だがこれは本人が死なない限り限り有効だった。


「い,1級薬師様」と対応者は驚きまた震えてもいた。


 1級薬師とはこの世界では王族にも匹敵する位だった。


 奥から責任者が飛び出し来て平謝りだったのは言うまでもない。担当者は今にも死にそうな顔をしていた。


 ゼロが薬の製作に付いて問い正したら領主からこの地ではそうする様にと言われたと言っているがそれなりの鼻薬も嗅がせたのだろう。


 ここの医療ギルドの事は王に事情を説明して王から本部の医療ギルドにここの薬師の入れ替えを頼んでおいた。


 さていよいよ本家本元の領主の館だ。


 門番の所で少々のイザコザがあったがそんな物は押しのけてゼロ達が入って来た。


 まさか2-3人で館までやって来るとは思わなかったので、領兵もここには集結させていたなかった。


 それでもこの館には30人程の腕利きの護衛兵達がいる。それらを従えて領主が表に出て来た。


「貴様らは何者だ。ここが領主たるわしの館と知っての狼藉か。ただではすまぬぞ」

「ほーあんたがここの領主か。では聞こう。何故条約を破った」

「何の事を言っている。意味がわからんわ」


「ここの獣人地区は特別行政区だったはずだ。それは領主と言えども勝手には出来ん。それは知ってるよな。なら何故他国の戦力を入れて獣人を虐殺した」

「そ、それは。お前らの様な平民の関与する事ではない。黙っておれ」

「そうかい。なら今回の件、王家に伝えるがそれもいいか」


「き、貴様。領主を脅す気か。極刑にするぞ」

「さーどっちが極刑になるかな。国の条約を破った者は例え領主と言えども領地召し上げの上一族郎党晒し首だと言う事くらい知ってるだろう」

「その様な条約が何処にある」

「あるさ、王城の王家の部屋にな」

「馬鹿な。そんな物があるはずがない」

「なら王家に確認してみるか」

「き、貴様。皆の者こやつらを皆殺しにしろ」


 ゼロ達に向かって行った者達は数分で全員叩きのめされてしまった。この状況に領主は驚愕していた。そして思い出したのだ。勇者を倒したのが二人のヒューマンと一人の獣人だと言う事を。


「よーそこでボケーっとしてるクソガキ。体は良くなったか」

「て、てめー。よくもこんな体にしやがったな。ただじゃ済まさねーぞ」

「粋がるなクソガキ。お前こそ自分のやった事が分かってるのか。大量虐殺だ。お前こそ極刑では済まんだろうな」


「何を言ってやがる。所詮犬猫を殺しただけだろうが。何でそれで死刑になる」

「お前ボケてねーか。ここは漫画の世界じゃねーんだよ。何時までボケた日本にいると思ってやがる。てめぇまだ高校生だろうが。調子に乗るなよ」

「な、何でお前はそんな事を。ま、まさかお前も日本から来たのか」

「クソガキ、お前は目上の者に対する言葉遣いも忘れたのか。もう一回幼稚園からやり直してみるか」

「ば、馬鹿な」


 そう言った途端、吉村は殴り飛ばされ部屋の端まで吹っ飛んでいた。


 この間の会話はゼロとこの吉村にしか聞こえなかった。


 この後音声は正常に戻った。


「立てよクソガキ。てめーの処分はまだ済んでねーんだよ」

「何で俺がこんな目に合わなくちゃいけねーんだよ」

「それは自業自得と言うものだだろう。因果応報とも言うがな。クソガキ、この意味がわかるか」

「知るかそんなもの」


 吉村はもう一発殴られて吹っ飛んだ。


「あ、あんた領主だろう。俺を守れよ。俺は勇者なんだぞ」

「どうした。歯向かえない相手に出会ったら今度は他人に頼るのか。お前は本当にどうしようないクソ虫だな。お前に訳もなく殺された獣人の悲しみと苦しみが分かるか。今度は自分の体で罪を償うんだな」

「な、なんでだよー俺が何をしたって言うんだよ」


 更にもう一発吹っ飛ばされた。


「ここにお前に殺された獣人の仲間がいる。こいつが敵討ちをしたいとよ。正々堂々と戦え」

「そんな、俺は片腕なんだぞ。これでどうして戦えと言うんだよ」

「戦場では腕を失ったり足を失ったりは日常茶飯事だ。そんな事も知らずに人殺しをやっていたのか」

「知らないよー。俺は、俺はただやれって言われたから」

「やれと言われればお前は人殺しもやるのか」

「俺はただ・・・」


「良いだろう。お前の腕を治してやろう」


 そう言ってゼロは最高級のポーション、エリクサーを吉村の腕に振りかけた。するとどうだ、瞬時にして吉村の腕が復元した。


「俺の、俺の腕が治った」


 これには見ていた領主も聖教徒教会の騎士達も驚きを隠せなかった。これほどのポーション、世界に二つとあるかないかだ。


「そんじゃークソガキ、戦闘開始と行くか。ただし安心しろ。こいつは今回魔法は使わない。タイマン勝負だ」


 それを聞いて吉村は安心した。何しろ俺はボクシング部だ。素手での喧嘩には自信があると。


 そして吉村はボクシングのクランチング・スタイルを取った。


『ほーこいつはボクシングを知っているのか。まぁ高校のボクシング部と言った所か』


「ハンナ、構わん。徹底的に叩きのめしてやれ」


 それからはもう一方的な戦いだった。吉村がどんなに攻めてもかすりもせず、ハンナの拳は的確に急所を襲って来た。


 何度意識を失ったか。その都度ゼロに活を入れられ、また戦いの場に送り戻された。


「お願いだ。もう止めてくれ。いや、やめて下さい。お願いします」

「お前はやめて下さいと言われた獣人に止めた事があったか」

「えっ、それは」

「人を殺すと言う事は自分も殺されると言う覚悟を持ってやるものだ。そんな覚悟もないなら人殺しなどやるな。いいぞハンナ、片づけろ」


 ハンナは縮地で相手の懐に入り、波動寸勁で吉村の中段に大穴を開けた。即死だ。


 これを見た聖教徒教会の騎士達は皆震えいた。これ程いとも簡単に勇者が倒されるなど想像もしていなかった。


「き、貴様。良いのか。貴様らが殺したのは聖教徒法国の勇者様だぞ。これは国際問題だ。戦争になってもいいのか」

「向こうこそ他国への武力侵略だろう。戦争を覚悟するのは聖教徒法国の方じゃないのか」

「貴様、自分が何を言ってるのか分かっているのか。一介の平民が戦争を起こそうとしてるんだぞ」

「いいだろう。受けてやろう。俺の意思は王の意思だと知れ」


「何を馬鹿な事を言っている」

「これが何だかわかるか」


 ゼロは王家の王君代理紋章を見せた。


「そ、それは王家の王君代理紋章」

「俺に敵対する事は王家に敵対する事だと知れ。そしてお前達もこの事をお前の国の教皇に伝えておけ。気に入らないと言うのならいつでも俺が相手になってやる。俺の名前は冒険者ゼロだ」


 領主も聖教徒教会の騎士達も飛んでもない者を相手にしてしまったと思った。これではこちらの立場がない。


 騎士達は何も言えず勇者の死体を持って国に帰って行った。ここの領主に待っているのは死あるのみだった。

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