第10話 王都の悪魔

 ゼロは今回の事でこの王都に本店を置くクルブと言う店が何らかの形で悪魔と関連があると睨んでいた。


 あの魔素球は全部で四つあった。今回はその内の一つを潰した訳だが後三つは何処かに運ばれた事になる。


 仮に使われたとしてもゼロが細工をしておいたので毒にも薬にもならない物に変化している。


 だから当座の脅威にはならないが、それよりも恐ろしい事はこの王都にも悪魔の手が伸びていると言う事だ。


 この事を王達、王城の者達はっ知っているのかと言う事だ。あの王を見ている限りそれは難しいかも知れないなとゼロは思っていた。


 そうなると後頼りになるのはやはりあの女しかいないか。さてどうしたものかとゼロは考えていた。


 今更王城に乗り込むのもかったるいし、どうしようかと考えていたら、確かあの時あいつは王都に魔法学園を作ったと言っていた。


 それならその魔法学園に直接訪ねればいいかと思った。


 宿屋でその場所を尋ねると王都の東地区にあると言う事だった。翌日その詳しい場所を聞いて訪ねて見る事にした。


「ねぇねぇ、何で魔法学園なんかに行くんですか。今更魔法の勉強ですか」

「んな訳あるか。そもそも俺もお前も魔力がないから魔法は使えないんだよ」

「ええっ、そうなんですか。そんなー。私魔法使いを夢見ていたのに」

「じゃーハンナさんは」

「ハンナは立派な魔法使いだ。それも獣人国第一級のな」

「そうなんですか、凄いんですねハンナさんは」


「わしの魔法はゼロマお師匠様から教えていただいたんじゃ」

「ゼロマさんって魔法使いだったんですか」

「さーどうかの、人前では滅多に魔法はお使いにならなかったの。それよりもゼロお師匠様と同じ戦闘術をお使いじゃった」

「でもゼロさんは魔法が使えないんでしょう。じゃーゼロマさんは誰に魔法を習ったんですか」

「確かカロールお師匠様とおっしゃっていたな」


「カロールと言うのはかって俺達がパーティを組んでいた時の魔法使いだ」

「そのカロールさんは今何処に。そうか、もう100年以上も前の事ですね」

「そうだな、それにカロールはその後国に帰った」

「お国にお帰りになったのですか。そのお国とは」

「遠い遠い所だ。我々では行けん」

「そうですか、それは残念です。一度お会いしとうございました。私の師匠の師ですから」

「そうだな」


 ゼロ達は文化街と呼ばれる東地区にある王都魔法学園の前に来ていた。それは大きくて立派な建物だった。


「凄いですね。こんな立派な所で魔法が習えるのですか、王都の人達は幸せですね」

「建物は立派だがな問題は質だろう」

「でもこれだけ立派なら指導陣も凄いんじゃないですか」

「そうだと良いがな」


 そんな事を話していると門番が何か御用ですかと尋ねてきた。


 出来ればこの学園の見学がしたいんだがと言うと、何方かのご紹介はありますかと聞いて来た。


「ここは紹介がないと見学も出来ないのか」

「はい、ここはこの国でも高貴な方々が習われる所ですので」

「魔法に貴族も平民もないと思うのだがカラスはそんな教育方針なのか」

「学園長を呼び捨てにする事は許しません。衛兵を呼びますよ」

「ほー面白い。ならこれを見てから呼ぶんだな」


 そしてゼロが取り出したのは王家の王君代理紋章だった。例え門番と言えどもここは貴族が集う学園だ。貴族社会について知らないはずはなかった。


 門番はその紋章を見て硬直してしまった。粗相をすれば手打ちでは済まない。下手をすれは一族郎党死罪もあり得る。


「ご、ご無礼をお許しください。た、只今ご案内申し上げます」

「今回は忍びだ。大げさにはしたくないので皆には知らせるな」

「は、はい。仰せの通りに」


「ねぇ、ゼロさん、何をしたんですか。あの人死にそうな顔してましたけど」

「まじないだ。気にするな」

「流石はお師匠様、その様な物をお持ちとは」


 建物の前の広場で訓練される事はない。全ては建物の内側になるがその内側の訓練場がこれまた広大だった。


 しかも摸擬戦用の広場や本格的なコロシアムまであった。建物の中では座学を行い寮も付いている様だ。


 ここに入るには相当金が掛かるんだろうなと思わせた。なる程これでは上流社会の人間しか入学出来ないだろうな思った。


 しかしあいつ一体何を考えている。本当にこの国の魔法を強化させる気があるのか。


 幾つかのクラスが魔法の訓練をしていたので見てみたがこれではなと思えた。


「どうだ、ハンナ」

「そうですね、我が国の子供並みかと」

「だろうな。何時からこんなに弱くなってしまったんだ」


 ここには魔法学科と騎士学科があった。騎士学科は戦士の養成だ。敵国から国を守り、魔物からも民の命を守る事を目的で鍛えられている。


「しかしあの練度ではな」

「そうですね、私には魔法の事はわかりませんが剣士の力量は酷いですね」

「だろうな」

 

 騎士達の訓練を見ているとそこに通りかかった教官らしき者が、君達は何かね。許可を取って入って来たのかねと尋ねた。


「ここに居ると言う事は許可を得ていると言う事だと思うんだが門番に聞いてみるかね」

「いや、それならいいがあんたは貴族かね」


 ゼロ達の服装からして貴族ではないと判断していた様だ。


「いいや、俺達は冒険者だ」

「ここは冒険者風情が入って来れる所じゃないんだがね。何かの間違いではないのかね。それにそこにいるのは獣人だろう。先ずはその汚らしい物を外に出すんだな」

「面白い事を言う。それがカラスの方針か」

「口を慎め。学園長を侮辱する事は許さん」


「あんたは何の教官だ」

「私は第二級魔導教官だ」

「その第二級と言うのは偉いのか」

「お前達の様な者には100年掛かっても私の指導は受けられんわ」

「そんなクズみたいな指導は受けたくはないがな」

「貴様、言わせておけば、いいだろう。本当の魔法と言う物がどんな物か見せてやろう」


 そう言う事でゼロ達は模擬戦用円形ステージに来ていた。


「で誰から痛めつけてもらいたい」

「面白い事を言う。ならあんたが汚らしいと言っていたこの獣人からやってもらおうか」

「汚らわしいこんな物、この地上から消してやるわ」


「いいんですかお師匠様」

「まぁ殺さん程度にやってやれ」

「わかりました」


 この時授業を受けていた生徒達もこの余興を見ようと集まって来た。教官殿がどの様にして獣人を痛めつけてくれるのか興味津々と言った所だった。


ハンナはただ普通に立っていた。それを怯えて何も出来ないと思った教官はまずは火炎魔法で火傷を負わしてやろうと、ファイヤボールを放った。


 しかしそのファイヤボールはハンナの手前で消えてしまった。


 そんな馬鹿なと何度やっても皆魔法が消えてしまう。正直信じられない思いでいた。


 それならと今度は氷魔法のアイスランサーで串刺しにしてやろうと投げかけたがこれもまた消滅してしまった。


「何故だ、何故私の魔法が届かん」

「お主はまだわかってない様じゃな、そんな下位の魔法が上位者に届く訳がなかろう」

「馬鹿な、私の魔法が下位の魔法だと。これでも第三位階魔法だぞ」

「ハンナ、少し本物の魔法と言う物を見せてやれ」

「はい、お師匠様」


 ハンナが手を上げると試合場の上に大きな炎の円盤が浮かんだ。そこから放たれる熱は周囲の建物すら溶かすほどだった。


「な、何だこれは。こんな魔法があるのか。これはまさか第6位階魔法か」


 これを見た学生達はみな腰を抜かしていた。こんな途方もない魔法は見た事がないと。


 ハンナが手を下すと円の周囲の炎がまるで円形の幕を下ろす様にその教官の周りに落ちて来た。


 その熱気だけですら教官の体は熔けそうになっていた。しかも円形の檻の中に入った様なものだ逃げ場はない。


「その円の炎をお前の頭の上に落としてやろうか。骨も残らんぞ」

「ままま、待ってくれ、いや、待ってください。私が間違っていました。許してください」

「お前は誰に謝っている。謝る相手が違うだろう。ハンナ、面倒だからこいつ消し炭にしても良いぞ」

「たたた、助けてください、お願いです。私が悪かった。助けてください」


 教官は体中の穴から液体を巻き散らしながら許しを乞うていた。


「もうその位にしてやってはいただけませんか。私からも謝罪いたしますので」

「あんたは」

「はい、ここの副理事長をやっていますコシュバと申します。ゼロ様ですよね」

「ああ、そうだ。ハンナ止めていいぞ」


 二級教官は医務室に運ばれた。死にはしないだろうがしばらく教壇には立てないだろう。


 そしてゼロ達は理事長室に案内された。


「お見苦しい所をお見せいたしました。カラス様になり代わりお詫び申し上げます」

「なぁ、本当にこれがカラスの望んだ魔法学園なのか。あいつがこんな学園を望んだとは思えないんだが」

「仰る通りでございます。カラス様は決してこの様な学園をお望みではございませんでした」

「ではどうしてだ。カラスは何処にいる」


 その時ドアを蹴破る様にして騎士達が入り込んで来た。そしてその後に現れたのが金の掛かった金ぴかの服を着た貴族だった。


「コシュバ、狼藉者がこの学園に入り込んだそうだな。曲者は何処じゃ」

「これはマテップ公爵様、その様な狼藉者はおりませんが」

「そこにおるではないか。しかも獣も一緒だと。許せんな」

「お待ちください、マティップ公爵様、この方はカラス様の全権委任によりこの学園の教師を委託されたお方でございます」

「何、カラスの委託だと。ふん。面倒くさい事を。いいかようく覚えておけ、いくらカラスの委託でもな、わしの目の黒い内は勝手な真似はさせんからな。いいな」


 流石に公爵と言えどもこの国で英雄とまで称えられるカラスと正面から喧嘩を売る事は避けた様だ。


「貴様、今日は引き下がってやるが次はないと思え」


 そう言って公爵は帰って行った。


「ゼロさん、何なんですかあれは」

「さーな」


「申し訳ありません。あの方は今の王の叔父上に当たるお方で前王の弟君です」

「それが何であんなに偉そうにしてるんだ」

「一つには兵力でしょう。あの方の持つ兵力は今の王の兵力を超えております」

「そしてもう一つは魔導士の数でございます」

「王の持つ宮廷魔導士よりも多いと言う事か」

「左様でございます」


 全くまた面倒な事に巻き込まれたものだ。



























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