第7話 自衛団カリヤと100年の歳月
自衛団カリヤはゼロに鍛えられ日に日に強くなって行った。
恐らくは末端と言えどもCランクはあるだろう。幹部達は最低でもBランク、Aランクがざらにいた。
団長のダニエルに至っては超Aランクだ。しかも波動拳の奥伝を受けている。彼に勝てる者などそう多くはいないだろう。
ただしそれでもまだシメには届かなかった。シメがどれだけバケモノかと言う事だ。
ゼロは今Cランクの冒険者になっていた。そして前回同様これ以上うえにあがるつもりはなかった。
シメもまたCランクだ。但しゼロには「殲滅のヒューマン」と言う二つ名があった。
これはかっての「デストロイヤー」同等に恐れられた名前だった。
このソリエンの町で「殲滅のヒューマン」を知らない者は一人もいなかった。今回もまたゼロは恐怖の対象となっていた。
別にゼロにその気はなかったのだが、たまたまゼロを良く思わない連中がゼロにつっかって行って返り討ちに合ったに過ぎないのだが、それが噂になって恐怖の対象になってしまった様だ。
勿論地でも敵対する者は容赦せずに殲滅していたから尚更だった。
今ではゼロは「返らずの森」に居を構える「返らずの軍団」の頭目とまで呼ばれていた。
そしてこのソリエンの地で一つの大きな勢力を持っていた。それはこの地の領主と言えども無視出来ない勢力だった。
かと言って征伐出来るかと言えばそれも出来ない。それ程の強大な力を持っていた事になる。それだけゼロ本人を始めゼロの弟子達は強かったと言う事だ。
「戦場の死神」とまで言われた孤高の傭兵が変われば変わるものだ。
とは言えゼロ自身は心情的には何一つ変わったとは思っていなかった。今でも必要とあらば誰でも容赦なく殺す「死神」に変わりはなかった。
しかしゼロはここで何をしようとしていたのか。異世界での梁山泊化だろうか。
その頃になるとハンナがちゃっかり自分の弟子達をここに送り込んで来た。「ご指導よろしくお願いします」と。何と横着な弟子である事か。
しかしこの地ではヒューマンと獣人の共同生活が成り立っていた。
そしてこの両者を導いていたのは「自警団カリヤ」のリーダーであるダニエルと獣人国カールの遊撃騎士団の団長ダッシュネルだった。
二人は獣人国の首都転覆の反乱時に共に戦った戦友でもあった。
ダッシュネルもまたハンナに鍛えられダニエルとは互角の力量を持っていた。これもまた超Aランク同士だ。
そんな彼らがここで共にゼロの指導を受けていた。強くなる訳だ。
そんなバケモノ達の中にあってもシメとハンナは別格だった。二人とも超越したレベルにあった。
ある日シメとハンナが一緒に町を歩いている時の事だ。
この町では獣人は少ない。いや以前は逆に獣人の町だったと言ってもいい。しかし獣人国の遷都によって殆どの獣人はこの町を去った。
そして再びヒューマンの町となった。残念ながらそれまで圧迫を受けていたヒューマンの感情と言う物はそう簡単には取り除けない。
ここでも獣人であるハンナを見た途端に石を投げて来た住人や子供達がいた。
無理のない事と言えば無理がないのだが悲しくもある。これが負の連鎖と言う物だろう。
だからと言ってハンナは投石を黙って受ける様な玉ではない。
投げた石は全てが投げた者の元に弾き返されていた。力を込めた分だけ自分に反って来たと言う事だ。
「おい屑共、悔しければもっと強くなれ。石などに頼らなくても自尊心を持てるほどにな。それからなら相手になってやろう」
そしてハンナの一睨みでみんな震えあがってしまった。ハンナはただ単に脅していた訳ではない。身も心も逆境を克服して一人前になれと言っていたのだ。流石は英雄ハンナと言うべきか。
「ハンナさんって強いんですね。私ならどうしただろうかしら」
「そうでもないぞ。わしもお師匠様に教えられたんじゃ。強くなれ。弱い事は罪じゃとな」
「そうね、あの人なら言いそうね」
「ところでシメ殿はお師匠様の何じゃ。恋人か」
「こ、恋人。そ、そんなんじゃないわ。ただの従業員よ」
「従業員とは何じゃ」
「やっぱり弟子みたいなものかしらね」
「弟子のう。少し毛色が違う様じゃがまぁいいか」
「それよりさ、教えてよ。何でハンナさんはゼロさんを知ってるの」
「お師匠様との出会いか。それは随分と昔の事になるのう。もう100年以上も前になるかの」
「えっ、えっ、100年って何それ。そんな昔にゼロさんがここに居たって言うの」
「わしはその当時奴隷じゃった。そのわしを救ってくださったのがゼロお師匠様と、これもまた元奴隷で初代獣人国の英雄ゼロマ様じゃった」
「そしてわしはその後ゼロお師匠様の奴隷となってお二人に育てていただいたのじゃ。弟子としてな」
「そんな長い歴史があったの。でもどうしてゼロさんは今でもあんなに若いの、それにハンナさんも」
「お師匠様は獣人国とヒューマン国との戦争勃発の後、神の僕と戦われてその脅威は跳ねのけられたのじゃが自身も傷つき100年間冬眠されていたそうじゃ」
「冬眠って、熊なの」
「そして100年後に復活されて今に至っておるのじゃ。わしはゼロマ様の指示で時魔法を使ってゼロお師匠様をお待ちしておったのじゃ」
「じゃーその初代英雄のゼロマって人は」
「ゼロマ様はヒューマンとの戦争に勝利されて戦後100年間、ゼロお師匠様のお帰りをお待ちになっていたが残念ながらお会いになれずにお亡くなりになった」
「何なのよあの人は。そんなに待たせたままで逝かせてしまうなんて可哀そうじゃないの」
「そう言うでない。お師匠様にもきっと事情があったのじゃろう」
「でも、でもさー」
「もう過ぎた事じゃ」
「私なんかゼロさんと知り合ってほんの5-6年、でも貴方は100年以上も知り合ってると言う事よね。そりゃ勝てない訳だわ」
「わしと互角に戦えるお主が何を言うておる」
二人は冒険者ギルドに来ていた。今はゼロとシメとこのハンナの3人でパーティーを組んでいる。パーティー名は「ノーリターン」だ。これは「返らずの森」からちなんだらしい。
ゼロもシメもハンナも一応はCランクとして登録してある。それは誰もこれ以上のランクを望んでいないからだ。
それはBランク以上になると強制依頼とか面倒な事が増えるからだ。しかし実力は3人共Sランク以上と言っても過言ではないだろう。
そんな時ゼロは途方もない魔力のブレを感じた。それはゼロが初めてこの異世界に落とされた時と同じような次元のブレだった。
『まさか、また誰かがこの世界に召喚されたのか。何の為に。この方向は北西か。調べて見なければならないな』
ゼロは念話でハンナと連絡を取って北西方面へ行く依頼はないか探してくれと連絡した。
幸一つ、中央モラン人民共和国への護衛の依頼があると言う。それは丁度いい。ゼロはそれを受けるように指示して自分もギルドに向かった。
それは中央モラン人民共和国にある本店に届ける商品の荷馬車の護衛だった。幾ら国がヒューマンの手に戻ったとは言え、このヘッケン国はまだ完全には安定していない。
何処で誰に狙われるか分かったものではなかった。だからこう言う長期の運送には必ず護衛が付いた。
今回も長期だからこそ荷馬車も4台連なっていた。そうなるとかなりの物と人数が動く。当然護衛の人数も多くなると言うものだ。
護衛は20人から24人程が推定されてた。20人は確保されてたのでゼロ達3人は予備の護衛として前後をカバーする事になった。
当然一番前も後ろもリスクの高い場所だ。しかし一番最後に依頼を受けたのだから仕方がない。と言っても彼らは全く気にしていなかった。
ゼロが最前列を受け持ち、シメとハンナが最後尾を受け持った。
かくて荷馬車は一路中央モラン人民共和国へ向けて出発となった。
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