山本五十六開戦

@teikoku

第一章 転生と1940年(昭和15年)

第1話 山本五十六への転生(1940126)

はじめまして。この小説は第一章は、第二章戦前の技術開発などを描写が多くなっています

開戦後の第三章からお読みいただくことも、可能なように設計されておりますので飽きたら戦闘が始まる第三章からでも構いません。

また、現在大幅改稿作業を鋭意進行中です


皆様ご自由にお楽しみください.







第1話 霧の先


【横須賀・連合艦隊司令部 官舎/1940年1月1日未明(昭和15年)/山本五十六の視点】

 霧の匂いは、鉄と紙と油の匂いを薄く包む。視界は低く、音は遠い。目を開けたとき、見慣れぬ天井というより、世界が重なるかの如くゆっくりと焦点を結ぶのを、私は見た。

 ひとつは、机、地図、コート、拭き込まれた木。もうひとつは、遥か昔の、薄闇の産屋に揺れる灯の色――生まれ落ちたばかりの、冷たい空気。声にならない声が喉にひっかかり、それが今もどこかで続いている。

 戸口がやわらかく叩かれた。「長官、御前にて」

 時計は新年の初めを指したまま止まらない。私は掛かっていた上衣を払って袖を通す。霧がかったように見通せない地図は、縮めて置き直す。大きく語れば誤る。小さく確かめ、積み上げる。

 卓上、黒い鉛筆で四角く囲った枠内に、開戦前年となる第一週の手順を書き起こす。港、船腹、倉庫、通関、通貨、積替え、無線、そして風――上空の風。

 霧は、弱い灯の周りでほぐれ、すぐまた結ばれる。私は、出生の瞬間から重なっていた記憶にそっと蓋をする。先を知っていても、先を急がぬ。


【横須賀・連合艦隊司令部 地図室/1940年1月1日朝(昭和15年)/山本五十六の視点】

 地図室の窓に、霧が白い指で触れては退く。副官が温い湯気の立つ茶を置き、「本年の初会議は十日、屑鉄の件からでよろしいですね」と確かめた。

「よい。数字は脚注で結構、本題は段取りだ」

 机上の太平洋図に細い糸を渡し、港と港のあいだに小さな点を打つ。忠実では10月には屑鉄が禁輸となる。

禁輸が加速する前に、屑鉄と鉄製品で腹を満たす。これは急務だ。

 半年のうちに何を、どこから、どれだけ、どの船で運ぶか――駒となれ。十日の会議は、駒を動かす起点になるだろう。

 続けて、二月の確認会合も入れる。「二月十日、進捗の棚卸し。どの国のどの港で、誰が積むのかを明らかに」と私は言い添え、紙端に副官への伝言を挟む。

「それから、十五日に淡路島の座会を置く。砲より先に電と耳と足だ。対空・通信・潜水艦隊の据え方を決める」

 副官は頷き、予定表に赤い印を付ける。島の図面を開くと、私の指は自然と高所と送電の線へ走った。陣は線で組む。線が重なれば、見えぬ敵がいる・いないの区別がつく。

「それと――二十日に例の地下で少人数の打ち合わせを。捕虜の扱いは一枚の紙では済まぬ。言葉、食、衛生、移送、そして働きの是非。人が先、工程は後だ」


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