晩秋の風
サネゼルから王都へ向かう旅路は、赤竜の足で四日間の道のりだった。
ラク砂漠では厳しい日射しが照りつけていたが、クィヤラート王国中心部ではもう秋が深まっているらしく、砂漠地帯を抜けて荒涼とした野原に差しかかると、ぐっと空気が冷たくなった。しかし、太陽が昇る昼間には、ほんのりと温められた風がのどかに吹き、ユージンが小竜で飛ぶ練習をするにはうってつけの
向かう先、はるか前方には
国土の南部に盾のようにそそり立つオセムリカ山脈は、実際に、国境線としても機能しているのだとルィヒは説明した。
「カルヴァートの故郷があるのも、オセムリカ山脈の
「そこが、汞狼族の住み処なのか?」
頷いたルィヒの横顔が、ふっと
「汞狼族は、オセムリカ山脈の麓にいくつもの集落を築いた、比較的力のある種族だったと言われている。はるか昔、まだ、クィヤラートという名前の国も、クィヤル熱も存在しない頃、わたしの祖先が
彼らは精鋭の戦士団を持っていて、おびただしい数の兵士を
汞狼族を支配下に置いた事で、クィヤラート王国は、オセムリカ山脈を
「つまり、〈
ルィヒは少し飛ぶ速度を緩めて、ユージンの横に並んだ。
「確かに、そうとも言える。だが、あまり
「料理も
ルィヒはユージンを見てちらっと微笑み、再び前を向いた。
「じきに王都に着く。北の大門をくぐったら、わたしとカルヴァートは二人で民の前に姿を見せ、歓待を受ける。
わたしは王都で、すぐに取りかからなければならない仕事がいくつかあって、君に仕事の口をきいてやるのは、その後になりそうだ。野外劇場のそばに屋台が軒を連ねている一角があるから、そこで、翌日の昼に待ち合わせをしよう。食事でもして待っていなさい」
「あのさ、その事なんだけど」ユージンが、言いにくそうに切り出した。「あんた達の世話になるのは、王都に着くまでの間でいいよ。なんなら今日、ここで下ろしてもらってもいい。ここ何日か、カルヴァートの仕事を手伝っているけど、一人前の働きが出来ているとは思えないし、拾ってもらった親切に甘えて、仕事の世話までしてもらって良いとは思えない」
「どうした? 急に、しおらしいな」ルィヒは笑った。「そんな風に気負う事はないよ。わたしだって、君が数日やそこらでカルヴァートの代わりを務められるようになるとは
「なら、どうして……」
ユージンが顔をしかめると、ルィヒは
「初めに言ったはずだよ。──君に訊きたい事がある。ただ、それをどう訊くべきか……、訊いていいものか、迷っているんだ。わたしもこう見えて、一応、立場のある者だからね」
「俺には……」ユージンはうつむいた。「そんな価値なんて、ない」
しぼり出すように、そう呟いたユージンを、ルィヒは黙って見つめたが、言葉で何かを問う事はしなかった。
ただ、天を仰ぎ、ふっと息をついた。
その片端が、風と交わり、白く
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