異能力広がる世界、よりにもよって人外に転生をしてしまう〜僕はこの世界で巨悪となろうぞ

@washiKAMO

0章

プロローグ

「何でだ……」


 クラスの皆からの視線を集めているのは高校二年にもなる僕だ。


「何でこんなことしたの!」


 叫ぶように問い詰めるのは幼馴染のカナ。まるで化け物を見るような視線を向ける幼馴染に僕は動揺する。


「ち、違う……僕はただ……!」


 酷い……顔だ。みんな僕を鋭い目という武器で体中に穴を空ける。


「違うくないよ! せんちゃんのやったことは人がやるようなことじゃない!」


「人じゃ……ない……?」


 僕は足元に転がっているガラの悪い生徒を見つめた。


「ぼ、僕は助けようとして……! 君がこんな先輩に絡まれて大変だったから……」


 痛みのある拳を押さえて一歩後ずさる。


「それでもこんな風になるまで殴る必要は……」


「相手から殴ってきたんだ、見てたでしょ! 僕も殴られたしお互い傷ついているよ! なんで僕だけ責めるのさ!」


 僕は彼女のためにやったことだ。守るために。


 事の始まりは見知らぬ先輩がズカズカと教室にやってきたときだ。そいつは僕の幼馴染を見るやいなや強引に教室の外に出そうとした。


 前々から目をつけていたらしい。悪名高い生徒だったからみんな怯えていた。教室にはかなりの人がいたというのに誰も彼女を助けようとはしなかった。


 ──だから僕が助けたのに……!


「それは……」


「助けようともしないで傍観していたやつよりマシだよ! それなのに傍観していたやつらは僕に冷たい視線を向けている!」


 おかしい……何故助けた僕が助けなかったやつらにそんな目で見られなくてはいけないのだ。


 カナもカナでまずはお礼を言うべきだ! 強引に連れられるのを止めてあげたのだから。


「僕の何がいけないんだ! 何が──」


「先輩を殴ったこと……」


 その時僕の頭の中は真っ白になった。


「殴った……?」


 それはお互い様だとさっきも言ったはず……。


「お互い様だよ…………何が違うのさ。僕はカナのために……」


「違うよ! せんちゃんがこの人を殴ることでみんなも危険なことに巻き込まれるかもしれないんだよ。考えたらわかるでしょ!」


「なに……言ってるの……? 巻き込まれる……? なんで……? 僕がやったことにみんなは関係ないでしょ」


「せんちゃんがこんなことしたせいでこの人の仲間が報復しに来るかもしれない。それはせんちゃんだけじゃないんだよ! みんななんだよ!」


 この先輩が悪名高いのは知っている。もちろんたくさん仲間がいることにも。


「だけど……そんなことよりも君を守りたかったんだよ……」


「私なんかどうでもいい! クラスのみんなを守れれば何されてもよかったの!」


「それが嫌だったから助けたんだ! わからないの!? 僕は君のことが大切で……」


 その時、カナの目が変わるのがわかった。冷たい視線、化け物なんかじゃ比にならないぐらいの汚物を見るような目で。


「キモ……そんなどうでもいい感情でみんなを巻き込むなんてありえない」


 その言葉に吐き気を覚えるほど目の前がチラついた。頭が痛い……クラクラもした。


「何でそんなことが言えるんだよ……もういい、みんなのことなんてなんにも思っちゃいないよ。カナのことも……大人しく嫌がる君を見捨てればよかったよ……」


 一瞬その言葉にカナは悲しそうな表情を見せたがそれは甘えだ。僕の優しさなんてとっくに消えた。


「どこいくの……待ってよ!」


 その言葉を無視して僕は廊下を走り去る。もはやここに僕の居場所なんてない。


 ──まるで世界から切り離されたかのようだ。


 学校を出て、道路を抜け、公園を通り過ぎる。


 疲れ果てた僕はその場にしゃがみ込むとカナの言葉で頭がいっぱいになった。一言一言整理するのに何時間も費やした。


 気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。


 結局みんなは自分が最も安全な選択肢を選ぶのだ。関係ない、巻き込まれたくないの一点だけを。自分の命惜しさに。


 僕は悪なってまで先輩を止めたのに……。


「所詮僕の悪は中途半端な悪……」


 でも先輩は完全な悪だったのだろう。誰もが怯えるほどの完全悪で何をしても許される。だから半端な僕が悪をやるとダメというわけだ。


「ふざけるなよ!」


 そんな世界が許されてたまるか。


「はあ……少し落ち着くか。コンビニで」


 田舎のコンビニは意外と良いもんだ。寂しい夜は虫の音楽隊がただでミュージカルを開いてくれるからね。


「ほんとう……ふざけてるよなあ」


 世のため人のためにやってきた……だが返ってきたのは恩でも礼でもないただのクソみたいな自己防衛。僕は半端な悪で終わったのだ。


 自分よければいいやーな世界じゃこの先何もやっていけない。口で言う前に行動してみろっての。


 やり方が悪かったのかもしれない。それでもおかしいだろう。


「あむあむ……」


 おにぎり片手に虫のオーケストラを聴いていると遠くで何やら言い争いの雑音が混じってきた。


「人が楽しんでいる時に邪魔など……」


 無視しておこうと特に意識はしていなかったが数分経っても雑音を放ってくるため我慢ができなかった。


「だいたいこんな夜遅くに外で言い争いするなよな」


 イライラしながらその雑音の方へ向かうと制服を着た女子高生と複数人の男が口論していた。


 いや口論と言うよりはナンパか?


 気の強い女の子ではあるけどあの数相手は流石に分が悪すぎる。


 って……僕には関係ないな。


 チラリと周りを見るとそこにはいかにもというワゴン車が1台止まっていた。女子高生の手を無理に引っ張る男を見るにこのあとの展開はお察しできるだろう。


「いや……! 離して」


 必死に抵抗するが……無理だろう。


 さっきのコンビニでゴムでも買っておいてやったら避妊はすすめられたがもう遅いか。


 ワゴン車に乗せられれば嫌でも静かになってくれる。また虫の音を聞けばすぐに忘れるだろう。


「誰か……! 誰か助けて……!」


「ッ……!?」


 そんな言葉で助けてもらえるなら僕だって助けてほしかったさ。1人は苦しい、みんなから責められるのは……だが僕は人のために暴力という悪を成した。助けるために。


 だがもうそんな事できやしない。


「大人しく犯されていろよ……」


 知らないフリ……だが僕はその場から離れることができなかった。これでは教室でただ見ていたやつらと同じになる。


「だれかぁぁあ!」


 くそくそくそ! 一度は諦めたのに僕の無駄な正義感が邪魔をする!


「くっ……!」


 気づいたら僕は護身用のスタンガンを手にしていた。


「そんなに助けてほしいなら助けてやるよぉぉお」


 半狂乱になりながら迫る僕は恐怖でしかなかっただろう。


「何だこいつ……!」


 相手は3人。10秒で始末できる。


 二刀流のスタンガンに2人が捕まりその場で感電して動かなくなった。


 なんせ完全無力化を目指して改造したスタンガンなのだから。カナを守るために作ったスタンガン……使うことはないと思っていたが……。


「な、なんだおまえは!」


 僕は頬を緩めて男を見る。


「僕かい? そうだね……」


 目の色を変えて男の首にスタンガンを照射し続ける。


「ギャァァァァァア!」


「君たちよりも酷い極悪人さ」


 僕は極悪人、暴力でしか解決できないクズだ。


 その光景に女子高生は口を開きっぱなしだ。


 何だその態度……。お前に都合の良い展開が起きて嬉しいのか? その後にどうせ僕を責めるのだろう? やりすぎだって。


 だったら一生もののトラウマを植え付けてやる。


「あっ……」


 僕は男3人をワゴン車へ雑にぶち込むと扉を締めた。


「あのっ……!」


「ん?」


「あ、ありがとうございました……」


 ……偽りだ。


「何を言っているの?」


「え……? あ、お礼言葉を伝えようと」


「なぜ?」


「助けてもらったからです」


 まったく……その言葉は前に聞きたかったよ。


「助けたつもりはないよ。僕は極悪人……これから君には酷いトラウマを植え付ける予定だからね」


「えっ……?」


「クククク……ハハハハハハ! フィナーレはまだだろう!」


 僕は遠くにトラックが接近しているのを確認した。かなりの大型でワゴン車など粉砕してくれそうなぐらい強そうだ。


 僕は無免で運転席に乗るとアクセル全開でそのトラックへ突っ込む。


「ヒヒヒヒヒッ! ハハハハハ! ウハハッハッハ!」


 どうせなにもない空っぽな人間。このクズどもと散るのは嫌だが最期に正義という悪を成せるのなら本望!


 70……80……90……速度を上げていざ正面衝突だ!


「さらばだくそったれな世界!」


 トラック運転手の焦る顔を目に焼き付け僕はぺしゃんこに潰れた。


 あの加速具合なら後部座席もグシャグシャで男どもも死んだ。血肉が道路に飛び出して見ていた女子高生は一生トラウマとして残り続けるだろう。


 僕のやるべきことは終わったよ。


 ──ああ……なんて儚い……。

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