第6話



目をきらきらさせて恋バナをしてくるクラリスにシュリエナは紅茶を吹き出しそうになる。今の今まで、お互いの好きな食べ物や趣味など、可愛らしい話をしていたのに、急にぶっ込まれた恋バナ。


シュリエナはついていけずに紅茶を吹き出しそうになった。


「そういえば、俺も詳しいことは知らないんだよね。実際どうなの? フェリクスはシュリエナ嬢に一目惚れしたの?」


そこに来るロイからの追撃。やめてくれと思いながら、フェリクスを見ると、何やら面白いものを思いついた顔をしていた。


「そう、俺さ、シュリエナに一目惚れしたんだよね。だからその場で婚約しようと思って父上に言ったんだ」

「きゃぁっ!! ということはシュリエナさまと両思い?」

「残念ながら、まだ両思いではないんだよね。でも、惚れてもらえるように絶賛アタック中」


ロイもクラリス嬢も協力してよ、とフェリクスは言う。


(こ、こいつ……っ!)


シュリエナはフェリクスの算段を見抜いたが、時すでに遅し。ロイとクラリスは嬉々としてフェリクスに返事をした。


「そういうことなら協力するよ」

「はい! 私も協力します! シュリエナさま、私に任せてください」


はっきりと発せられた言葉にシュリエナは泣きそうになった。


(が、外壁埋められたぁ〜〜)


本人の意思はどこに行ったと聞きたいが、楽しそうに作戦会議をしているクラリスの顔を見てしまえばシュリエナは何も言えなくなった。けれど、せめてもの抗いとしてフェリクスの靴は踏んづけておいた。


話は恋バナから過ぎ去り、今は別の話題へと移っていた。


「そういえば、フェリクスの婚約者になったなら、シュリエナ嬢も2週間後のダンジョンに行けるんじゃないかな」

「ああ、そういえばもうすぐだったね」

「……ダンジョン?」


なんのことか分からないシュリエナにクラリスは教えてくれた。


「2週間後に学園の選抜クラスと教員の方々とともにダンジョンに行くんです。ダンジョンに行くのは学園に入学してからという決まりですが、私たちは将来国を導く立場にあるため、ひと足早いですがダンジョンに行き、実践訓練を行うんです」

「へえ。でもそれがなんでフェリクスの婚約者になったから行けるようになるんですか?」

「今回のダンジョンに行くことができるのはロイさまとその婚約者の私、そしてフェリクスさまの3人だけなんです。あまりに人数が多いと何かあったときに統率に困りますから。でも、シュリエナさまもフェリクスさまの婚約者なので私と同じ、婚約者という立場で行くことができます」


そう言われ、シュリエナは悩むふりを見せる。


(行ってもいいけど、初心者用のダンジョンってモンスター弱いし、ドロップ品も高値で売れないんだよね。まあ、フェリクスたちはそういう目的で行くわけじゃないんだろうけど)


レベル上げ目的でダンジョンに潜っているシュリエナとは訳が違う。嬉々としてモンスターを狩るシュリエナだが、フェリクスたちは国を守るためにモンスターを狩るのだから。


(それに行ったところでレベル上がんないだろうし)


シュリエナはそう考え、フェリクスたちに言った。


「せっかくですが、私は遠慮させていただきます。実を言うと、魔術の扱いがまだ少し不慣れで。家庭教師の方に教えを乞いているのです」

「そうなんですか?」

「はい。不慣れな状態でダンジョンに行って、皆さんの足を引っ張るようなことになるのは避けたいので。私の魔術の腕が上がった時に、またご一緒させてください」


クラリスとロイは残念そうにしていたが、シュリエナに言われて今回は、と引き下がる。けれど、フェリクスは面白そうにシュリエナの顔を眺めているだけだった。


「───不慣れ、ねえ……」


ボソリと呟いたフェリクスの呟きも聞こえなかったことにした。


(……ま、念のために、ね)


シュリエナはこっそりとフェリクスたちにとある魔術を掛けた。


そうして楽しいお茶会は終わり、また近いうちに4人でお茶会をする約束をして、シュリエナは帰路に着いた。



* * *



外套を被ったシュリエナは絶賛ダンジョンに潜っていた。今回のダンジョンは一見普通の高レベルダンジョンだが、30分以内にボスを倒すと隠しアイテムが手に入るというダンジョンなのだ。


「よっしゃっ、いいペース!」


30分以内にクリアできそうになかったら再度挑戦することもできるが、そうなると一週間くらいダンジョンには入れなくなる。効率重視の無名はそんなことはしたくなかった。


「はははっ! ボス部屋まで一直線よ!!」


使用者の想像により形を変える指輪をハンマーや剣などに自由自在に変化させ、シュリエナはモンスターをぶっ倒していく。一撃で倒していくため、モンスターは為す術もなくシュリエナのレベル上げの糧となる。


「おっとっと、ちょっ〜とは頭が回るみたいね」


モンスターのレベルが上がると集団攻撃だったり、ダンジョン内のトラップを上手く利用したりして襲ってくるモンスターもいる。今回のモンスターは前者のようだ。


「ふぅん? ゴブリンキングを中心にハイゴブリンの集団攻撃ね。弓矢は厄介だけど、固まっているのは好都合!」


シュリエナは武器をハンマーに変えて躊躇うことなくゴブリンの集団に突っ込んでいく。そして巨大なハンマーをぶん回してゴブリンの集団に直撃させた。


奇声をあげながらハンマーに吹っ飛ばされるゴブリンを見て、シュリエナは残りのゴブリンも吹っ飛ばすために力を込める。


しかしそのとき、シュリエナの頭にひとつの警笛が聞こえてきた。その音が聞こえ、シュリエナはゴブリンから距離をとる。


「この音って……」


突っ込んでくるゴブリンを魔術で制し、シュリエナは嫌な予感がした。


「フェリクスたちに掛けた命の危険を知らせる魔術……!」


今日は前にお茶会で言っていたフェリクスたちのダンジョン潜りの日だった。シュリエナは行かないが、念のためにフェリクスたちに命の危険が迫ったらシュリエナに知らせる魔術をかけてあったのだ。


「低レベルのダンジョンなのになんで……」


初めてのダンジョンでそんな上級ダンジョンに潜るはずもない。シュリエナは誤作動でも起きたのかと考えたくなるが、かけたのはシュリエナ自身だ。誤作動なんて起きるはずもない。


「……っ、ああもう! こんなんで行かなくて何かあって後悔なんてしたくないわよ!」


シュリエナはここのダンジョン攻略を諦め、代わりにフェリクスの魔力反応を探した。反応は簡単に見つかった。


「あった」


やはり初心者向けのダンジョンに潜っているようで、こんなところで命の危険にさらされるようなことなんてあるのかと疑問に思う。クラリスの話では学園の選抜クラスと教員とともにいるという。


(どれくらいのレベルかは知らないけど、初心者向けのダンジョンで何か起こるわけ……)


あと少しだったが、シュリエナはフェリクスに何かあったら嫌だと思い、目の前にいるゴブリンから視線を逸らし、フェリクスの魔力反応をもとに転移した。


そして転移した先で見た光景に言葉が出なかった。

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