失恋中に事故に遭ったら、高校の入学式まで戻っていた!?未来を変えるために何度も世界を繰り返す

無口

第1話 やり直したい現実

 誰もが一度は思ったことがあるだろう。過去に戻れたらと…。


 ◇


 私、あおい深雪みゆきは後悔している。もっと自分に勇気があったら、もっと自分に素直になれていたら、と。


 高校三年のクラス替え。片想いだった霧江優斗と同じクラスになった。

 彼とは同じ中学校出身で、高一の時は同じクラスだった。二年でクラスが離れて、三年になってまた同じクラスになれたのだ。


 最初はとても喜んだ。生徒玄関に掲示されたクラス名簿を見て心が躍った。

 でも、彼には付き合っている彼女がいた。高二の体育祭で告白されたらしい。

 私は中学時代からずっと彼が好きだった。だから、その話を聞いた時かなりショックを受けた。

 悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれなかった。


 次第に学校を休むようになった。彼と彼の彼女が一緒にいるところを見たくなかったのだ。

 色々と考え、自暴自棄になり、何もかもどうでも良くなった。


 ◇


 五月のゴールデンウィーク明け。私にとっては平日も連休もあまり変わらない。変わった事といえば、親が家にいなくなったので自分で昼食を買いに行かなければならない。


 重い腰を上げ、近くに散乱している服を適当に選んで着る。しばらく使っていなかった靴を履いてドアを開けた。

 久しぶりの外は眩しく、目を細める。これから夏本番に差し掛かり猛暑が続くと考えると、一年中春でいてほしいと思う。ゆっくりとした足取りで家から一番近くのコンビニに向かう。


 やがて大通りに出た。昼頃にも関わらず交通量が多い。ここの道路を渡ればコンビニはすぐそこ。信号が変わるのをボーッと待つ。昼頃の太陽は私を照らしジリジリと焼いていく。

 信号が青に変わり、再び足を動かした。


 その時、ものすごい勢いで軽自動車がこちらに向かってきた。運転手はスマホを見てたようで前を見ていない。


 私はこちらに向かってくる車を見てもとても冷静だった。もちろん、車を回避できる自信があったわけではない。ただ、この世界で生きる理由が無いことに気づいてしまったからだ。


 そのまま私は向かってくる車に体を委ねた。体が軋む音が聞こえて、ただ痛い。地面に激しくぶつかり痛みが増す。流血が私の視界を赤く染めた。


 ーー私、死ぬのか。


 朦朧とした意識の中、クラクションの音と悲鳴が聞こえてる。だが次第に視界が暗くなり、音が遠ざかっていく。

 そして、そのまま意識が途切れた__。


 ◇


 目を覚ました。辺りを見渡すと自分の部屋。


「_夢、か?」


 車に撥ねられ死んだ。それは夢というにはリアルだった。


 しかし、外傷の無いこの体を見ると夢なのだろう。一旦結論付けてベッドから降りる。

 ふと違和感を覚えた。自分の部屋なのに何か違うような。


 ーー気のせいか。


 とりあえず、そういう事にしてリビングに向かった。


「おはよう、深雪。早く準備しなさいよ」


 母が朝食の支度をしながらそう言ってくる。

 何の準備?学校なんてしばらく行ってないし、私が朝早くから出かける用事がない。

 それ以前に母との会話自体しばらくぶりだ。


「えっと、今日何かあったっけ?」

「何って、今日は入学式でしょ」

「え?」


 どういうこと。だって今日は五月の_。

 スマホで日にちを確認する。四月十日。


 ーーは?


 カレンダーを見て西暦を確認する。


「_二年前」


 母に聞こえないくらいの声で呟いた。


 慌てて部屋の様子を確認する。

 確かに自分の部屋だが、レイアウトが変わっている。正確にいえば二年前の配置に戻っている。違和感の正体はこれだったのか。


 今までの高校生活が全部夢だったのか、私が過去に戻ってきたのか。どちらにせよチャンスだ。この世界にはまだ彼に彼女はいない。ならば、彼と付き合えるチャンスがある。


「絶対、霧江と付き合ってやる」


 決意を胸に二度目の高校生活が始まった。

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