動物と話せるようになったのでもふもふを堪能させていただきます!
紫雲 橙
第1話 プロローグ
目を開けたら——もふもふなうさぎに囲まれていた......あなたならどうしますか?迷いなく抱きつく人、思い切りその匂いを吸い込む人、撫でてその毛並みを堪能しまくる人。様々な方がおられるでしょう。
しかし、この状況ではどんな判断を下しますか?
「ちょっと、あなたどうしたの!起きなさい!」
うさぎが二足で立ち自分に向かって話をしている。
耳をピョコピョコさせ、尻尾は丸くて、目は深紅。毛は雪のように真っ白。
魅惑のもふもふボディ。それはそれは魅力的である。
今すぐにでも触って堪能したい。
だが、思い出さなければならないことがあった。なぜ、うさぎに呼びかけられるような事態になっているのかということだ。
*
たしか——そうだ、私は仕事からの帰りで歩いていた。
いつも通り動物園で働いて動物のお世話をして満ち足りた気持ちで明日も頑張ろうと思っていた。あっ、その時のことだ。急に誰もいないのに工事現場から鉄骨が落ちてきたのは......
そうか、私はあの時亡くなったのだ。
実感は全くと言っていいほど湧いていない。
目は開くし、身体も動かせるだろう。それなのに実感を持てという方が難しい話である。
さて、冒頭の問いに戻るのだがもふもふなうさぎが二足で立っているのをどうしますか?
ちなみに私はこうします。
「あっ、起きたのね!良かったわ。ちょっと、なにするのよ⁈」
「はーもふもふだ!しかも意思疎通できるって最高ー‼︎」
私は起き上がって立っているうさぎに飛びついた。もふもふな毛の魅力に逆らうことはできないから。もふもふしているものが好きな私のセンサーにびびっときたのだから我慢することはできない。
「当然でしょ?私は毛のケアは欠かさないもの!それより離しなさいよね‼︎」
「はっ、ごめんなさい!もふもふを見ると気持ちが抑えられなくて……」
「まぁ、それなら仕方ないけど……って、こら!」
言われた通り離れたけれど、我慢できず他のうさぎを抱きしめた。他のうさぎも毛並みがきれいでもふもふしていそうだったから。
「あっ、つい……」
私はうさぎを抱きしめながら言った。昔からなのだが、私はもふもふを見ると気持ちが昂り抑えられなくなる。抑えようとは思っているのだが、どうしても抑えられない欲が出てきてしまう。だから飼育員という職について思う存分動物達を愛でようと思ったのだけれど。
「本当に好きなのね……その子達は私の仲間なんだからほどほどにしてよね」
「はい!わかりました!」
私は許可をもらったので、もふもふを堪能しまくった。
「さっきまで倒れてたのが嘘みたいね。そうだ、なんで倒れていたのかしら?」
「あーそれは、わからないんだよね……」
自分が亡くなったのは分かったのだけれど、私がここにいる理由は分からない。
どうしてここにいるのかは本当に分からないのだ。自分が亡くなってしまったというのに気づいたのもつい先程のことなのだから。
「あなた自分でここに来たわけじゃないの?」
「うん、目を開けたらこの場所にいたんだ。それに喋るうさぎを見たのも初めてだよ」
「初めて?ここらにはけっこういるのに?」
「えっ、なにそれ楽園?」
二足歩行で、喋るうさぎがいっぱいいるということは私にとっては、とても素晴らしい楽園だ。
この場所にいる理由は分からない。けれど、この場所にいることが嬉しい。
この先になにが待ち受けているのかも分からないがもふもふがいるのなら私はここが異世界だとしても生きていける。
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