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「電車のなかじゃ体勢くずして人にぶつかっちゃうことなんて、よくあることじゃない」
それはそうだが、そんなことは問題じゃない。問題は、それをマコがわざとやったという事実なのだ。あんたはさっき電車のなかで、なにをやったと思ってるのだ。
男の子に対する完全なる迷惑行為。しかもあんなバレバレの、大根みたいな演技力で。
「だけど、まあ、男の子の声も聞けたし、よしとしよーよ」
マコはなんとか私の機嫌をとろうとして、無茶なことを言ってくる。
ふんだ。
機嫌なんてなおるものか。電車のなかの男の子も、一瞬だけれど険しい顔をしてたじゃないか。
あっ……
一瞬だけれど、険しい顔……
険しい顔。
してたよね。
耳の奥で血の気の引く音が聞こえた。
やっぱりあのとき、怒っていたよね、男の子。気づいたとたんに、頭が真っ白になる。
「おーい。ウミー。どうしたー」
世界を隔ててB型女の声が聞こえる。戻ってこいとか、なんとかかんとか、そんなことを言っているようだが、返事なんてできるよゆうは今の私にはない。
マコに対する無意味な怒りはどこか遠くへ消え失せたが、代わりにひどい後悔みたいなへんな気持ちで頭のなかがいっぱいになる。
男の子が怒っていた。
そんな事実が私の心を支配する。これは絶対まずいよね。頭のなかで後悔ばかりが、ぐるぐるまわる。
それなら私はどうするべきか。どうする、どうする。なにをしよう?
午前ふたコマの授業のあいだ、私はずっと黙ったまま、頭のなかでそんな自問をくり返す。
だからその日は、まるで授業に集中なんてできなかった。
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