魔王城での生活

 わたしが魔王城に来てからもうすぐで一ヶ月が経とうとしていた。

 ここで過ごしてきて分かったことがいくつかある。


 アベラルドさんは毎朝、鍛錬のために外出をする。どこに行っているか聞いてみると、彼は「狩りをしに行ってんだよ」と言っていた。

 料理人の方曰く、アベラルドさんが狩った動物を食材として調理に使用しているらしい。

 アベラルドさんがその日食べたいものを飼ってくるため、毎食一品ずつ彼用にその動物の肉料理を出しているとか。わたしが見知った動物もいれば、似て非なる動物や、全く知らない動物……と言っていいのかわからないものもいた。

 そして意外にも、昼や夜は自室にこもって彼曰く研究をしている。アベラルドさんは、自分が気になっていることをひたすら追い求めて、彼の中での答えを見つけるのが良いらしく、それを活かして日常生活に限らず戦闘面においても役立てているらしい。


 ディアークさんは半日ほど生活がずれているようで、彼に会うといつも眠そうにしている。と言っても、彼に会う頻度自体少ない。そして、恐らくわたしはディアークさんによく思われていない気がする。どこか避けられているように感じられるのだ。

 しかし、彼は朝食の時間と昼食の時間には、ノクトとアベラルドさんを含めて食事をとる。普段わたしと話すときはあまり口数は多い方ではないものの、ノクトやアベラルドさんに対しては比較的会話が多いように感じる。そして、ディアークさんは夕食の時間は基本寝ているらしく、よっぽど重要なことが無い限り起こすことはしない、むしろしたくないとノクトが言っていた。アベラルドさんは「寝起きが悪ぃんだよ。機嫌悪くてめんどくせぇ」とぼやいていた覚えがある。


 わたしはというと、書庫に行って自分のような異世界人の話を探すのが日課になっていた。セツナから、稀ではあるが転生者・転移者といった異世界人が、この世界に突如現れたことが過去にもあったと聞いたからだ。書庫なら何かしらの情報が掴めるかと思い、日々通っているのだが、書庫には想像以上に膨大な量の本が敷き詰められており、未だにこれといった情報は入手できていなかった。

 わたしがやることと言えばそれくらいで、慣れてきたことによってできた生活での余裕が、かえって気まずさに結びついていた。というのも、ここまで様々なことをしてもらっておいて、わたし自身が何も貢献することができていないということだ。

 さらにその罪悪感にも似た感情を加速させたのは、ノクトからもらったペンダントだった。


 セツナにノクトからもらったペンダントを見せると、彼女は一言、「流石ノクト様」と呟く。

彼女曰く、このペンダントは機械や魔法ではなく人の手で作られたものらしく、精巧な桜の模様やそれを額縁のように囲んでいる金細工の繊細さを再現できるほどの手腕をもつのは、天族王室御用達の歴史ある職人しかいないという。

それもペンダントに施された石は、ノクトの魔力石らしく、彼が“御守り”と言った意味をそこでようやく理解した。

また魔力石とは別に鉱山からとれる魔法石もあるらしいが、それは消耗品であるのに対し、魔力石はその魔力の持ち主が生きている限り恒久的に効果を発揮するらしい。とはいっても、石そのものが破損もしくは破壊されてしまえば、効力は減少及び消失するようだ。


 そんな大層なものをもらっておいて、わたし自身は何もしていないというのが申し訳ない。生活に慣れるまでに経過した一ヶ月という時間が、さらに罪悪感を助長させた。



――そうして今現在、わたしはベッドに横たわり頭を抱えている。

すると見かねたのか、セツナから意外なアドバイスをもらった。


「アベラルド様に聞いてみるのはどうでしょうか?」


 呆然としているわたしに、続けて彼女は言う。


「夕桜様から魔力を感じるのです。アベラルド様は研究を得意としていらっしゃいますし、それについて一度調べていただいたら、何か方法が浮かぶかもしれません」

「魔力って、ペンダントについてるノクトの魔力石じゃなくて?」

「それとは別のものです。恐らく、夕桜様自身のものかと」

「じゃあ、わたしもノクトみたいに石作れるかな? それでアクセサリーとか作れる?」


 意気揚々と問いかけるわたしに、セツナは微笑みながら頷いた。しかし、「ただ……」と呟いて彼女は顔を曇らせる。


「……研究するにあたって、毛髪や血液を媒体とする可能性が高いです」


 暗に、わたしを心配しているのだろうことが伝わってくる。わたしはセツナを安心させるように笑顔を浮かべながら言った。


「大丈夫。わたしが望んでやることだから平気だよ。心配してくれてありがとう」


 セツナはほっと安心したように息をつくと、穏やかな口調で言った。


「でしたら、自分に案がございます」

 

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