第133話 マニラ

1553年(豊新7年)10月下旬 呂宗マニラ



「やっと来たか!まあ、婿殿自ら出陣せずとも、儂が居ればこの戦は何の問題も無かったがな!クワハハハッハ!」


「殿、御無事の御到着、何よりで御座います。いよいよ、敵の大艦隊と決戦で御座いますな!」


明側との折衝により、台湾海峡が一応の落ち着きを見せ始めた事によって、やっとスペイン・ポルトガルとの戦いに全力で望める態勢が整った俺は、越後から5千の兵を率いて呂宗へと向けて出陣した。


そして今日、先に出陣し、既にあっさりとマニラを占領していた、御機嫌顔の大殿率いる先遣部隊、北国軍2万とマニラにて合流を果した。


これで、南方軍3万に加えて、北国軍2万5千、西方軍1万の陸軍6万5千、それと、今回の戦の主役となる事が予想される水軍が、日本海艦隊より150隻・海兵1万5千、西方艦隊より100隻・海兵1万、南方艦隊250隻・海兵2万、艦艇500隻、海兵4万5千と云う、陸海軍合わせて10万を超える大軍が、呂宗周辺に展開した事になる。


「迅速なマニラの奪取、流石です。ご苦労様でした。」


「クワハハハッハ!千余りの敵勢など、物の数に入らぬわ!」


「フアハハハハ。我等に掛かれば、南蛮人共なぞ敵では有りませんな!」


ホント戦の最中は元気だな、このジジイ共………


まるで、5歳ほど若返ったかの様な元気な様子の大殿と宗滴の姿に内心で溜息を吐きながら、占領した旧マニラ王国の王宮の広間に入る。


其処には既に、この戦に参戦する南方軍の軍団長・鈴木重家と軍長の長野業正、武田信虎、西方軍から軍団長の立花道雪、軍長・吉川元春、甘粕景持等の幹部達が控えていた。他にも千代と美雪、通訳を兼ねて諏訪ちゃんにも今回は同行して貰っている。北国軍からは軍長の十河一存(そごう かずまさ)、副軍長の望月千代女(ちよめ)等の若手と、参謀局に帰参した真田幸綱が俺に同行してこのマニラまでやってきている。


「皆、揃いまして御座いますな。早速、軍議を始めると致しましょう。。」


大殿を始めとする問題爺達の御守りを兼ねて派遣していた参謀局局長・山本勘助の言葉に、広間の空気が引き締まる。


少し見ない内に勘助の奴、少しやつれた気がするが……、うん。きっと、気のせいだよな。


「現在の戦況で御座いますが、スペインより奪取致しましたこのマニラ周辺の状況ですが、我等を侵略者からの解放者として歓迎する現地民が多く、我等の統治は順調な滑り出しを切ったと言って良いでしょう。情報局による情報工作が功を奏しましたな。流石、殿で御座います。」


壁面に張られた世界地図を、指示棒でマニラとその周辺を示しながら勘助が話す。


現在、台湾と呂宋にも情報局の支局が出来てから、既にかなりの月日が流れている。それだけの月日が有れば、工作員が現地の民に溶け込み、現地の協力者を育てるのに充分過ぎる時間が有った訳で、俺の得意とする情報戦を行うにあたって、十分な下地が既に整っていた。


そうして、巧妙に張り巡らされた諜報網を使って、予めマニラを攻撃する前には、マニラ周辺の住民に


『日本軍は、スペインと違って民に残酷な行為はしない様だ!』


『日本領は税も安く、随分と豊かで職にも困らないらしいぞ!』


『異教徒でも、真面目に働く者は受け入れてくれるらしいぞ!』


と、云う様な噂を工作員にばら撒かせておいた。


そんな噂が効を奏してか、スペインが現地民を使って要塞化したマニラも大殿の包囲から2日と持たず、街の住民の反乱によってあっさりと降伏する事と為った。


住民としてもそりゃあ、望みもしない戦に自分達が巻き込まれたく無いよな。


スペイン兵は武器を捨てて投降し、大殿達は、現地民から熱烈な歓迎を持って迎い入れられたらしい。


まあ、やってる事は、大多数を占める民衆を味方に引き入れる事、日本で散々行ってきた事と同じだ。


それよりも勘助が、時折胃の辺りを押さえているのが気になる所だが………


「しかしながら、このマニラ占領はこの戦の前哨戦に過ぎませぬ。7月の中旬に、スペインでは王太子フェリペ2世率いる150隻を超える大艦隊が、此処マニラに向けて出発したとの報せが、既にイスタンブールの松永殿より齎されておりまする。」


「確かに大艦隊では有りますが、此方への到着は何時頃になるので?本当にその様な大艦隊が、此方まで到着する事が可能なので?」(幸綱)


「これは推測で有りますが、スペイン艦隊は現状は、アフリカ大陸東岸のこの辺りを通過しておると思われます。」


西方軍軍団長・立花道雪の質問に勘助が差し示したのはアフリカ大陸の南東、喜望峰に近い位置だ。


「おいおい。まだ、そんな所におるのか?」(重家)


「この呂宋まで、やっと半分の距離ですな。と云う事は、スペイン艦隊の到着までは大分時が掛かると見てよいですな。」(道雪)


「しかし問題は、喜望峰以降の敵艦隊の進路となりますな。その辺りの予測はどうなっておるので?」(景持)


「現在スペイン艦隊は、ポルトガルが開拓したインド航路を使ってこちらに向かって来ております。西アフリカのヴェルデ岬、サン=トメ島を経て。そして次には喜望峰の東側ケープに寄港して水・食糧の補給を受けるはずです。航海にて水や食料の補給は必須、スペイン艦隊はこの後も、ポルトガルのインド航路を利用して此方に向かって来る事となりましょう。」


「となれば、ケープの次はアフリカ大陸東岸のソファラ、モザンビークを経て、インドに至ると言う事ですな。」(元春)


「左様。ほぼ間違い無く、敵艦隊はこのインド航路を使いやって参る事でしょう。既に喜望峰、アフリカ東岸、マダガスカルには情報局員を送り込んで有りまする。スペイン艦隊を発見次第、此方に早船にて報せを寄越す手筈と成っておりまする。」


「それならば、ある程度は正確な敵艦隊の位置と接敵日時を此方は把握できますわね。勘助、流石です。」(千代)


「奥方様、有り難いお言葉、忝のう御座います⋯⋯」


「グワッハハハ。それでは、後は敵艦隊の無事の到着を祈るだけだな!」(大殿)


「そうで御座いますな。嵐などで沈まれたら、興醒めですからな!」(宗滴)


「何とか無事で、此処まで辿り着いて欲しいものですな。」(業正)


「何時までも、お預けを食らうて堪らんぬわ!半年以上も、儂を待たせるとは覚えておれよ。」(信虎)


千代の言葉に、フニャとなった勘助の厳つい顔が、問題爺の言葉で忽ちの内に苦悶に歪み、胃の辺りを押さえている。


そうか⋯⋯ジジイ共が色々と、苦労を掛けた様だな、勘助。


なんか、何時もの事ながら、ジジイ共がスマン。


そうだ!勘助には、戦が終わったら、今軽井沢に建設中の高級温泉施設で長期休暇を取ってゆっくりしてもらおう。


是非にも、奥さんと子供を連れて家族でノンビリしてきてくれ。


「父上、敵の無事の到着を祈る前に、何処で敵艦隊を迎え撃つか考えるべきで有りましょう?」


千代の言葉に、何度も大きく頷く勘助。


まあ、ド正論だからな。


「そんなもんは、もう決まっておろうよ。インドより、船にて此方に向かうにあたり必ず通る海域は此処じゃ⋯⋯」


大殿が、立ち上がって世界地図を指し示した場所、其処は太平洋とインド洋を結ぶ古代から現代まで海上交通の要衝となっているマレー半島とスマトラ島に狭き海峡、


マラッカ海峡だ。


他のジジイ共も、頷いている。


やっぱりこの人達って頭は悪くないんだよな……、ちょっとアレな人のだけで。


インドから東アジアに向かうには、大艦隊でこの海峡は避けて通る事は現状では難しい。広い海原では敵艦隊を発見し接敵する事は難しいが、この狭い海峡なら、それはそれ程難しい事では無い。


そう、スペイン艦隊に決戦挑むならこの海峡しか無いのだ。


スペイン艦隊の到着までにもう少し時間が有る。到着前にもう少し、遥々やって来るスペイン艦隊の歓迎の準備をしておくとしようか。

























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