第91話 統治
1547年(豊新元年)10月10日 レイテ島
スールー王国を滅亡させてから、1カ月余りが経とうとしている。
その間に俺が行っていた事は多岐に渡る
先ずは旧スールー王国領の接収、長尾家の統治体制の確立だ。
旧スールー王国領は、スールー諸島だけでなく、フィリピン南部のミンダナオ島西部、日本の国土の2倍弱の面積を誇り、世界で3番目に大きなボルネオ島の北東部にまで及んでいた。それらの地を治めている支配者層は、スールー王国の軍事力が消滅した事によって、一応は此方に服従の姿勢は見せてはいるが正直、全く信用は出来ない。
かといって、強権的な支配体制を築いたとしても、それを長期に渡って持続する事は困難となろう。
これは、旧スールー王国領だけの話では無い、言語、文化、風習、宗教、全てが異なる民族の住む土地を統治しようと考えるなら、何処でも同様な問題にぶつかる事となる。
確かに、手っ取り早いのは強権的な軍政を敷く事だろうが、それは現地民との軋轢を生み、アジアを支配したヨーロッパ各国、旧日本軍の失政の二の舞にになりかねん。
広大なジャングルに立て籠もる抗日ゲリラとの戦とか、ほんとシャレにならんわ。
俺は、このフィリピン諸島の統治は、暫くは港湾などの主要拠点周辺の統治に留め、徐々に交易によって経済的影響力を高め、書籍や宣教師によって日本の文化的影響力を高めていくしかないと思っている。
時間を掛けて、現地民を日本人化していくってことだな。
何十年掛かるかも判らんが、その手法が一番、長期的に見れば人的、経済的損失が少なく済む事になるはずだ。
どの道、今の長尾家に新たに海外の広大な土地を統治する余裕など、無いだろうがな。
よしんば、強引な統治を進めたとしたら、今度こそ内政畑の官僚達からストライキ所か反乱を起こされかねん。
俺が目指しているのは、【ホワイト長尾】だからな!
此度の出征において、我軍はスールー諸島だけでは無く、ルソン島南部、フィリピン中部のサマール島・レイテ島等に、拠点の確保に成功している。フィリピン南部のミンダナオ島では、南部のイスラム勢力に圧迫されていた、東部のブトゥアン王国が長尾家に保護を求めても来ている。
まずは、呂宋総督府を中部のレイテ島に設立し、それらの地域を、新たな拠点として整備していく。
初代・呂宋総督には越後軍長の六角定頼、副総督には若手の酒井忠次を置く予定だ。定頼は軍事・内政・外交に隙の無い男だ。その経験を生かして、各勢力の蔓延る難しい土地である呂宋の統治も無難にこなしてくれるだろう。
そして、新たに造られる拠点には、此度の出征においてフィリピン各地の港で売られていたのを買い付けた多くの奴隷達、スールー王国占領時に保護した奴隷達や捕虜とした、スールー王国兵を送る予定だ。その数は2万人を超える。
人種も話す言語も様々な彼等には、正当な賃金を払って長尾家で雇用させて貰う。真面目に働けば、早ければ1年長くても3年程度で奴隷の身分からは解放するし、その労働環境も一日8時間労働と週1日は休日として与えるなど、この時代としては画期的な労働環境だ。
彼等には拠点周辺の開拓、港湾整備等の公共事業、現地の諜報局員、南方軍の兵士等に活躍してもらう予定だ。
現地の住民を、長尾家の組織へと取り込んで行く訳だ。
学舎や病院などの公共施設も建設し利用可能とするし、能力が有り真面目に働いてくれれば、昇給も幹部への登用もしていく。
何も人道的な理由だけで、彼等を厚遇する訳では無い。未だ呂宋において、新参者で有り少数派の長尾家としては、親長尾派の形成は急務なのだ。
彼等への厚遇を見れば、当然彼等に続く者が現れるだろうし、他勢力も長尾家に組し易くなる。勿論、その辺は情報局に積極的に宣伝工作を行う様に指示している、長尾家得意の書籍に寄るプロパガンダも積極的に行っていく予定だ。
多少、日本で行うより手間はかかるが、日本で行っていた事と基本は同じだな。
此度の出征における目標は、フィリピン周辺を脅かしていた海賊国家の撃破、呂宋周辺における海域の制海権の確保・長尾家の影響力の増大、香辛料諸島からオーストラリア大陸に向かう航路・拠点の確保と云った所だが、その目標は概ね、達成する事が出来たと言って良いだろう。
その上、スールー王国が溜め込んでいた莫大な財宝も分捕る事が出来たし、フィリピン各地での交易でも大いに稼がせて貰った。そして、現在越後、東海水軍の各軍船にはナツメグ、クローブなどの香辛料に宝石、各種鉱石、香料、珈琲、象牙、鼈甲、アラブ馬等の交易品が山と積まれている。
それらの交易品は、日本では仕入れ値の数倍、時には数十倍の高値で売れる。
これを日本で売り捌くだけで、軽く今回の遠征費や各種褒美も十分に補填して尚、お釣りがくる程の儲けが出る。
うん。ボロ儲けである。
そりゃあ、この地を巡ってポルトガルやスペインが血眼になるのも、理解は出来る。
そんな、ヨーロッパ・アジア間の香料貿易を現在、牛耳っているのはインドのゴア、マラッカ海峡を押さえる要衝マラッカを押さえるポルトガルだ。この時期のポルトガルは交易による海外収入が、国家歳入の五割以上を占めていたと言われているぐらいだ。スールー諸島の南のモルッカ諸島(香辛料諸島)のテルナテ島には既にポルトガルの要塞が建設されている。
長尾家によるフィリピン諸島への進出は現在、香辛料貿易を牛耳っているポルトガルを当然、刺激する事になるだろうし、新たにアジアの進出を企むスペインにとっても、焦りを募らせる事となる。
其処に、東南アジア地域に点在するイスラム勢力が加われば、今後の展開は正直、予測など不可能な事だ。
1つ言える事があるとすれば間もなく、この東南アジアの広大な海域と島々を巡って
ポルトガル、スペイン、イスラム勢力、そして長尾家による熾烈な争奪戦が繰り広げられる事となるだろう。と云う事ぐらいだ。
願わくは、日本ばかりでは無くこの地域に住む人々にとっても良き未来を掴むことが出来れば、良いのだがな。
さて、各種戦略的目標も達成し、交易でも大いに稼ぎ、おまけにスールー王国滅亡後には南の島のビーチリゾートも堪能できた。
千代や諏訪ちゃんに土産も買った。
台風の季節も、そろそ終わる頃合いだ。
そろそろ、日本に帰るとするか。
帰る頃には、千代のお腹もだいぶ大きくなっているだろうな。
【帰路の船内にて】
「……ふん!……ふん!」
夜の甲板にて、一人槍を振るう若者の姿が見られた。
「昌景、随分と精がでるな。」高坂昌信
「つい先日まで、起き上がるにも苦心しておったのだ。余り無理は感心せぬぞ。」
甘粕景持
「そうで御座る。先ずは、躰を癒すが先決で御座ろう。」宇喜田直家
「俺には、お主達の様な才は無いからな。此度の件で、改めて思い知らされた。あろう事か、仮面に魅入られたばかりか、大恩ある殿にまで迷惑を掛ける事になるとは……」
「その件に関しては、殿も『気にするな。』と仰っておられたであろう。気に病みすぎるものではないぞ。」昌信
「うむ。殿は、その様な小さな事を気に掛ける御方ではあるまい。同じ過ちを、犯さなければ良いのじゃ。」景持
「仮面に頼らず、己を鍛えるは立派な心掛けなれぞ、躰を壊しては元も子も御座らぬ。」直家
「皆、すまぬ…。しかし俺は、めんこい女子共にチヤホヤされ…いや、殿の為、長尾家の為に、この仮面を使いこなせる強い男に、成らねばならぬのだ!」
「昌景……先頃の失態もう少し、気に掛けた方が良かろう…」昌信
「…同じ過ちを、繰り返そうとしとらんか?」景持
「えっ!?あの仮面まだ、被る気で御座るか?」直家
「あたり前よ〜!俺は、あの仮面様の力に頼りきり、日ノ本一の武将と成って、日ノ本中の女子達からチヤホヤされるんじゃ!!」
「……本音と欲望が…ダダ漏れで御座るよ…」直家
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