お嬢様の内心
話は少し戻り、青崎の登校時間・・・
「お嬢、もうまもなく到着いたしやす」
「ええ・・・」
パパのリムジンに乗り、パパの部下に運転してもらいながら毎日のように登校を
する。
窓の外には同じ高校の生徒達が見える。
友達同士で会話をしながら登校する者、音楽を聴き一人で登校する者・・・眠そうな者、駆け足で登校する者。
私もあんな風に・・・って願っても無駄よね・・・
パパの過保護具合は部下の人達にまで伝染したし。
《楓お嬢お一人で登校するおつもりですかい!?》
《なりやせん!いつ命を狙われるか!》
《お嬢の身に何かあってからでは遅いっすよ!》
登校で命が狙われるってどんな生活よ・・・
そう考えていると車が学校に到着し、運転手が私の降りる扉を開けた。
「いってらっしゃいやせ、お嬢」
「ええ、ご苦労様」
あー、今日も居る・・・・等間隔で並んだウチの組の人達。
ご丁寧に真ん中だけ開けて道を作って・・・何?本当に毎日ここを通らないといけないの?
他の生徒も見てるじゃない・・・あぁもうほんとやだ。
「「「「「「お疲れ様です、お嬢!!!!!!!!!」」」」」」
「おはよう・・・・」
毎日同じやり取りをし、私が前を通り過ぎたら皆中腰の姿勢を解除していく。
あぁもう見られてる・・・早く校舎に入りたい。
今日も周りの生徒はありもしない噂話をしてるし。
「なぁ知ってるか?青崎さん、先週は睨んだだけで西高の不良グループが逃げてったらしいぞ」
「まじか!あの西高の不良たちを一睨みで、とは・・・やっぱ暴走族を一人で壊滅させただけはあるな!」
「青龍会、会長の娘って肩書は伊達じゃないよなぁ」
そんな訳ないじゃない!
あの時は私の後ろに組の人たちが居たから逃げていっただけで。
暴走族を壊滅させたとか・・・・情報源はどこよ!!
私は喧嘩すらした事が無いのに。
少し早歩きで校舎を目指していると一人の生徒が目に入った。
あっ赤城君だ・・・
少し離れた位置に見えた同じクラスの男の子。
赤髪で少し背が低くて、優しい男の子。
他の人は私の噂を信じてあまり話してくれなくなったけど、彼だけは違う・・・
いつも目が合ったら「おはよう」と言ってくれる。
その一言が環境的に孤独になった私には救いだった。
・・・またいつもの女の子と登校してる。
あの子、誰なんだろ・・・今日は手まで繋いでるし。
赤城君を見ていたら何かにぶつかる感覚があった。
「あっ!すみまー」
「おいゴラァ!クソガキ!!」
ぶつかった相手に謝罪の言葉を言おうとした時、飯田さんに言葉を
「おどれぇ!うちのお嬢に何ぶつかっとんじゃ!!」
「ひっ!!す、すいません!!!」
「前見て歩くよう、かぁちゃんに教わっとらんのか?」
「すみません、スマホを見てよそ見してました!!!」
あぁ、もうやだ・・・前に約束したばかりなのに。
言いたくないなぁ、飯田さん年上だし・・・ここ学校だし。
でも・・・こうなったら飯田さん止まらないからなぁ。
私は決心をして口を開いた。
「ねぇ・・・」
「何しての、飯田」
「お、お嬢!!し、しかしこいつが・・・」
「我ぇ、うちの言った事もう忘れたんか?」
なるべく組の人が部下に怒った時の口調を真似して・・・・うわ、飯田さんめちゃくちゃ冷や汗かいてるよ、ごめんなさい!
でも、もうこんな事無いように注意しないと、勇気を出して私!!
「うっ・・・!」
「と、登校の見送りを認めていただく代わりに、校内で騒ぎを起こさない・・・」
「そうやなぁ、おどれらが心配やってギャアギャア騒ぎ立てるから、うちが仕方なく見送りを認めたってのによぉ」
「何さらしとんじゃ!ボケェ!!!!」
もうこんなの私じゃないよぉ・・・
とりあえず飯田さんは坂口さんに任せよう。
「坂口!!」
「はいっ!!」
「こいつ、矯正しとけ!!!」
「はいっ!」
「おどれらも見送り続けたいなら、そこんとこよう考えて動けよ」
「「「はい!!!!」」」
そう伝えた後私は組の皆を解散させ、校舎に逃げた・・・
自分の席に着き、号令まで15分もある為趣味である読書を始めたが、全く内容が入ってこない。
教室内のクラスメイトがチラチラとこちらを見ながら会話をしている。
「今朝の青崎さん見た?」
「見た見た、”我ぇ”とか”おどれ”とか怖かったよね」
「男子がいつも言ってる”噂”って本当なんじゃないの?」
「信じてなかったけど、あんなの見たら・・・ねぇ」
皆今朝の一件で盛り上がってる・・・
当然だよね、ヤクザの娘ってだけでも皆から怖がられるのにあんな事があったらますます怖がられちゃうよ。
また・・・友達出来ないのかな・・・
小学校も中学校もほとんど同じような理由で友達ができなかった。
運動会なんて組の人間が五十人は来て応援をしていた。
流石に組員全員は邪魔になるからって賭けで勝った人達が来て、当然後日怖がられた。
「お前は俺の母親か!!」
集中できないまま本を読んでいると、教室の外から聞き覚えのある声が聞こえた。
赤城君だ!
今日は明るく挨拶を返せると良いな。
赤城君は仲のいい加納君と会話をしてるけど、何を話してるか聞こえないな。
あっ!!
彼が気になり、教室の入り口に視線を向けた瞬間に彼と目が合ってしまった。
わわっ、どうしよう・・・今日は私から挨拶するべきかな?
あぁだめだ、恥ずかしくて近づけない・・・赤城君、今日も挨拶しにきてくれるかな?
慌てて視線を逸らし、私は読書に戻った。
* * * *
夕日も出始め、部活生たちの部活音が聞こえ始めた頃、私は教室に一人で居た。
赤城君、結局今日は挨拶してくれなかったな・・・
やっぱり今朝の事で・・・・・
赤城君には見られたくなかったな。
やっと友達になってくれそうな人が見つかったのに。
はぁ・・・ペンタン、私どうしたらいいかな?
カバンから私の唯一の”友達”ペンタゴンのペンタンを取り出し、話を聞いてもらう事にした。
「ペンタン聞いて、またみんなに怖がられちゃったよぉ」
「仕方ないさ、あんな生徒がいる前で怒鳴ったんだから」
「うー、だってあぁ言わないと飯田”さん”もみんなも言う事聞いてくれないんだもん・・・」
「あの声は喉も疲れるし、汚い言葉使いだから言いたくなかったのに、どうしてみんな言う事聞いてくれないのかな?」
「それは・・・楓は青龍会会長の娘だし、みんな楓の事が実の娘くらい心配なんだよ」
「それは・・・わかってるけど・・・もう、ぶつかった男の子にも謝りたかったのに」
謝ろうと近づいても逃げられる上に、逆に謝罪されちゃうし・・・
今日は嫌な事がいつもより多かったけど、一番はやっぱり・・・
「はぁ・・・ついに赤城君にも変な目で見られちゃったし・・・」
「いつも挨拶してくれるのに、今日は・・・・何も言ってくれなかった・・・」
怖がられちゃったのかな?
友達になってもらえると思ったけど・・・あんな言葉の汚い女の子なんて嫌だよね・・・
「赤城君ねぇ・・・彼も男の子だから楓の体に欲情しちゃったんでしょ」
「嘘っ!!最低ー!赤城君は他の人と違うって信じてたのに!」
信じられない!私に優しくしてくれていたのってそう言う理由だったの!?
彼は・・・彼だけは・・・
「いや、ちょっと待て!ーーーーーーーーえ?」
落ち込んでいると誰かが勢いよく教室に入ってきた・・・この声って・・・
声の方を確認すると私のよく知る男の子がいた。
「な、な、な、な、な!?」
「あ、あか、赤城君!?」
「どうして・・・・・ここに・・・」
「忘れ物を取りに来たんだけど・・・・」
どうして赤城君が!?
忘れ物!?
・・・・って言うか、聞かれた!?もしかして私の一人・・・・・”友達”との会話聞かれちゃった!?
誰かに言われるまでもなく私の顔は真っ赤になっている。
と、とにかく確認しなくちゃ・・・・聞かれてませんように、聞かれてませんように、聞かれてませんように!
「き、聞こえました・・・?」
「えっと・・・その・・・・ごめん?」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
気付いた時には私は廊下を全力疾走し、下駄箱で靴を履き替え勢いを殺す事無く正門を出た・・・
聞かれた!聞かれた!聞かれちゃったよぉ!!!!!
不幸が続き、走りながら涙が出そうだった・・・
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