【完結】時の流れに咲く桜

湊 マチ

第1話 時間の流れ

港町の一角にひっそりと佇む古びた探偵事務所「三田村&藤田探偵事務所」。風に揺れる看板の文字は、長い年月の間にかすれ、その歴史を物語っていた。香織と涼介は、ここで共に数々の難事件を解決し、町の人々の信頼を一身に受けてきたのだった。


若かりし日の二人は、夢と希望を胸に抱き、この事務所を立ち上げた。困難な時も、互いに支え合い、決して諦めることなく前へと進んできた。数多の謎を解き明かし、人々の悩みを解決してきた二人の絆は、強く固く結ばれていた。


しかし、時間の流れは容赦なく、50年の月日が静かに過ぎ去った。涼介は、80歳の老齢に達し、癌という無情な病に侵されていた。その身体はかつての活力を失い、老衰が彼の動きを鈍らせていた。それでも、彼の瞳には昔と変わらぬ鋭い光が宿り、香織との思い出が鮮明に映し出されていた。


涼介は、過去の数々の事件や二人で過ごした日々を振り返りながら、静かに息を引き取った。その最期の瞬間も、彼は微笑みを浮かべ、香織への感謝と愛を胸に抱いていた。香織は涼介の手を握りしめ、涙を流しながらも、その微笑みに励まされ、彼の死を静かに受け入れた。


港町の風は変わらずに吹き続け、桜の花びらが舞う季節が巡り来る。香織は涼介の思い出を胸に、日々の生活を送っていた。彼女の心には、涼介と共に過ごした50年の絆が深く刻まれており、その絆が彼女を支え続けていた。


探偵事務所の古びた看板は、今もなお風に揺れ、二人の絆と共に、町の人々に静かに語りかけているのであった。

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