第9の章「繰り返さないと、あなたと、この世界を」 3
「ね~?」
「こっちを見るな」
うんざりしたように一号が顔をしかめる。おかしいおかしい。一号はまったくこちらを見ない。心臓が嫌な音をたてる。
「ほんとユズちゃんは優しいんだから。そんなだから、セーシローくんも我慢できないんじゃないの? かわいそう。うんうん、健全な男子高校生には、ほんとかわいそうなお話だよね」
「がまん……?」
「すごい顔しかめてる、ふふっ、やばいなぁ。なんで仲間にしないのほんと。早く会いたいなぁ~」
「……まだ入院してる」
「ユズちゃんもよろしくないよ。自分の身体を好き勝手させてたら。きちんと調教しないと。そのうち押し倒されちゃうよ~? でもセーシローくんにそんなことできそうにないけど」
三号が二号の耳を
「ほんとさ、ユズちゃんほどじゃないのにそれぞれ怪我してんのに、あの時はすごかったからね。ユズちゃんは知らないほうがいいよ。いやー、聞いてるこっちも辛かった。なに言ってるかもわかってなかったみたいだし、
「マンガのネタにするのだけは、やめておけ。また泣くから」
「しないよぉ。それに泣き虫なのは、ユズちゃんの前でだけなんだけどなぁ~」
フフフと笑いをかみ殺していた五号が、急にこちらと視線を合わせた。
「せっかくユーイチくんの
「……うぅ、妹の前で
「
呆れたように一号が
「そういえばセーシローくんて、ユズちゃんとそういうことすることになっても、道具とかまったく使うつもりはないって言い張ってたな~。あの年齢の男の子では珍しくない? ねちっこいプレイしそうな顔してるのにね~」
「おい……本人の前で言うなよ。あとで泣いて落ち込むのをなだめるの、大変なんだからな」
「しないよぉまだ。だけど、七号にはしてもいいでしょ。セーシローくんを
ぎく、と身体が
「
「な、なにを言って……」
「うん? あ、でもユーイチくんの身体だから、あんまり可哀想なことはできないか。失敗失敗。まあでも、本人じゃないから、いっか」
正反対のことを平然と言っていることに狂気を感じた。
反射的に
「いい趣味してるよね、ほんと。セーシローくんはほんと、偉いよ。根性あるよね、あの顔で。後にも先にも、拷問されたの、セーシローくんだけだったし。あぁ、でもあんた、そういえばユカリちゃんを何回か襲ってたっけ? なにしてくれてんだって話だよね、ほんと。だれがアールジュウハチにしろっつったよ。ループもののセオリーからすると、ざまぁをあんたにすればいいのかな? でもなぁ、それって、あんた自身にマジでダメージいかないとダメじゃない? また逃げるだろうし、ユーイチくんの身体になんかしたって、ダメだよね~」
六号とのことまでなぜ知っているのかと目を見開いていると、五号は底意地の悪そうな笑みを浮かべる。一号とは別の意味で元々、敵にしたくない相手ではあった。一番苦手意識があったが、それは彼女がわざとそういう言い方をしているせいもあった。
彼女はそもそも二次元が好きなこと。そして男性同士の
最初から何が好きで、嫌いかをはっきりと明示していることもあり、そこに抵抗をさほど持たなければとてつもなく頼りになる相手ではあった。
「なに固まってんの? あー、もしかして逃げる? まあそれでもいいけど~」
あっという間に目の前に五号が移動していた。彼女がにっこり微笑んで手を握って来る。そしてその場で軽くジャンプするや、両足をこちらの両足の上に落とした。妙な音をたてて足が
「う、あ、」
「ぺしゃんこだねえ。痛覚はあるのか」
どことなくふわふわした喋り方だった五号が、こちらにしか表情が見えないとわかっていて、露骨に見下したような視線になる。
「私に見つかったら、次はどうなるかなぁ」
楽しみだねぇと笑う彼女は、こちらがなにをしたのか、把握したうえで脅してくる。だめだ。この女は片手で
「
軽くノックをすると、清史郎が軽く
そもそも、どこで一号と会ったのかわからない。ドアを開けたそこに、ベッド脇に一号が静かに座っていたので内心動揺してしまう。もうこんな時期から交流があったのかと驚くしかない。二号より早い時期とは思わなかった。
一号は軽く
「ユズさん、べつについてなくてもいいよ? 土曜日だし、帰ってゆっくり寝たら?」
「……ん。いや、いい」
「有馬さん、ご友人? 仲がいいのね」
そう言いながら近寄る。
少しやつれているものの、清史郎はそこらにいる化粧で美しくなった女たちが
特別待遇の彼の家はいわゆる富豪だ。だがここに見舞い客は来ない。そう、目の前にいる一号を除いて。
眠そうにうとうとし始めた一号を、清史郎が慌てて
「ゆ、ユズさん……。まあ、あとでいいか」
「こんな朝早くから来てくれるなんて、熱心ね」
「そうですね。彼女は、面倒見がいいので。僕のためにこうやって、時間があれば来てくれるんです」
「あら。なになに? もしかして彼女?」
からかうと、清史郎はこちらを振り向くことなく
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