第2の章「操者と、虚獣と、魔法の世界」
第2の章「操者と、虚獣と、魔法の世界」 1
妙な動画がネットに挙がっていると噂になった。その動画はいわくつきのものとしてあっという間に物議をかもした。下手くそな技術だとか、なんの冗談だとか、様々な叩くコメントが集まったものだ。
「灰色のスーツに、奇妙なヘルメット……」
半年も
(嘘だろ)
灰色のパンツスーツ姿の小柄な女性が、目元だけ隠すような紫色のゴーグルをつけて野球バットを片手に現れたものだから、驚くしかなかった。彼女の隣には
長い黒髪を後頭部の高い位置で
「いちごう~」
いちごう?
声のほうに目を向ける。また、だ。いきなり、居る。
「小さいからいける~」
「一人でいける~」
二人が楽しそうに応援? をすると、いちごうと呼ばれた女性がこめかみに
*
で。なんで自分の部屋に彼らがいるのかまだ把握しかねていた。どうやら、あの巨大で奇妙な生物が見えていることが原因らしい。
偶然学校の屋上からフェンス越しに目で追っていただけなのに。なんか、でかいのいるじゃん、って。
でもスマホのカメラを向けてもまったく映らないものだから、首を
「よんごうだね~。どんな能力持ちなんだろ。楽しみだね」
双子の女性のほうがにこやかに穏やかにそう言ってくる。よんごう、とは?
「二号、スカウトに失敗した時のことも考えるべきだって言ってるだろ」
いちごうがきつくそう言うと、二号が押し黙る。スカウトって、言った? いま。
「せめて五人は欲しいところだよね。少なくとも俺は三人でやるのはきついって思ってたし。でも
「三号、黙れ」
いちごうがぺらぺらと喋る双子の男性のほうに短く言い放つ。どうやらこの集団のリーダーは、いちごう……一号か? この人のようだ。社会人だろうか。そういえばバットが見当たらない。どこに捨ててきたんだ?
「
「っ」
ぎょっとして慌てて立ち上がり、部屋のドアをそっと小さく開けてから自身だけ出てくる。お盆に乗ったお茶と菓子に、どう反応するのが正しいのか考えてしまった。そもそもあの四人は押しかけて来た、というか、勝手について来たのだ。逃げたから追いかけてきた、と言う方が正しいか。
「ありがと」
「変わった友達ね」
はっきり言っていい。奇妙だって。
「見た目はね」
そう
「あの……これ、どうぞ」
小さなテーブルの上にお盆をそのまま乗せる。まったく警戒もせずに湯呑に手を伸ばしたのは双子だった。まったく顔を隠す気がないのか、一号と……長身の瓶底眼鏡の男とは明らかに雰囲気が違っていた。
一号は紫のゴーグル越しにこちらを見てくる。
「
なって欲しいではなく、『なってもらう』と断言された。そのきつめの言い方に
しかし今時、正義の味方とか。陳腐な誘い文句だ。
「嫌です」
「だよな。でもなるんだ」
断ったのにそんな馬鹿な。
「正確に言うと正義の味方ではないが、便宜上そういう言い方をしてる。断るなら、今日一日の記憶が消えることになることと、スマホをぶっ壊させてもらう」
無茶苦茶なことを言われている。どこが正義の味方なんだ。こんな乱暴なヒーローがいてたまるか。
「あと、脳もいじる」
怖いことまで言っている。しかも真顔で。
引きつった笑いを
「ドルテビーノノ」
は?
いま、七三分けが奇妙な言葉を発しなかったか?
凝視していると一号が男の頭を殴ろうと
「すまない。今のは幻聴だから気にするな」
げんちょう……この人、色々とすごいな。さすがリーダーというかなんというか。
「断ったら記憶を消すから言うけど」
そう言ってから、彼女は双子に目配せをする。彼らは
座っている位置から、一号は肩までの髪の同い年くらいの女の子だろう。着ているのはどこかの制服と思われる。それに思った以上に平凡な顔立ちをしている。先ほどまではきつめの美人の印象だったのに。
双子へと視線を
あれ? なんで七三分けはそのままなんだ?
「なんか都市伝説みたいになってきてるが、わたしたちは
……すっごい嘘くさいこと言ってる。確かに一人除いて明らかに全員未成年ではあるが……へいぼん、ねえ。
「あの、もしかしてオレも変身できるってこと……?」
ついつい興味が出て尋ねると、真顔で
怪しいスーツ集団とか……どこの宇宙人対策の人間かよって思ってしまう。でもあながち間違いではないのかもしれない。あんな巨大な物体を相手にしているのだから。
変身ヒーローは少なからず
「ちなみにこっちの七三分けは、異世界の人間だ。さっきの変な言語は仲間になれば理解できるようになる」
「いや、べつにいいです。……ん? 異世界?」
そんなことある? これって怪獣を倒す正義のヒーローの勧誘ではなかったのか? ここでまさかのファンタジー要素とかそんなことある?
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