14 出会い

「そういえば、お金ってもう貰ってるのか?」


「はい、ある程度は」


「そうか、ならよかった」


 よくよく考えれば今の俺達って、住民票や戸籍とか色々やってないからやばいんだよな。身分を証明をするものを持っていない。

 まぁ、もしもの時は姿隠しを使っていくらでも逃げれるから、深く考えないでおこう。

 どうせ一ヶ月ぐらいしかいないんだし。


「俺は、この辺りを歩いてみる」


「私は、色々買い出しに行ってきます」


「一人で大丈夫か?」


「はい、なんとかやってみます」


「頑張れよ」


 本当に大丈夫だろうか、心配だ。


「若様もお気を付けて」


「あぁ、行ってくる」


「行ってらっしゃいませ」


 準備を済ませた俺は、家を出た。


 さて、どうする。外に出たのは良いものの、京都の土地勘なんて全くないが。

 さっさと封印のある場所に行くか?


『いや、日中はやめとけ。俺のご利益を求めて人がいる。行くなら夜だ。幸い、あの渡とか言う奴は数日家を空けるようだしチャンスはある』


 それもそうだな、じゃあどこに行くべきなんだ? とりあえず、ずっと突っ立ててもあれだし色々歩いてみるか。


 俺は、とりあえず歩き出した。


『今は昔と比べてこんなに文明が発達してるのか、昔とは大違いだ』


『我からすれば、ほとんど別の世界のように感じる』


 そりゃあそうだろ、どんだけ前だよ。


『私は、そもそも初めて来た』


 魅玄も初めて来たのか。


『あぁ、ずっと幽世で暮らしていたからな』


 そんな雑談をしながら、目的なく歩き続ける。





 お、ここは公園か。目の前には小学校がある。


 少し歩くと、広い公園と小学校を見つけた。公園には、夏休み中の小学生が元気よく走り回っている。 


 子供は元気だなぁ。


『そう言うお前も子供ではないか』


 確かに。

 それにしても、朝から子供達が遊んでいるってことは、ちょうど夏休みの時に来たみたいだ

 少しも疲れちゃいないが、少し休憩してくか。


 俺は、公園に入り近くの椅子に座った。


 歩いている最中に思ったが、日中でも幽霊っているんだな。昨日来た時点で既に彷徨いていたが……。

 夜のほうが出やすいってだけみたいだ。

 けど、逆に妖怪は全然見ない。


『妖怪達は、基本的に人間と積極的に関わろうとする奴は少ない。どうせ見えやしないと、見えるやつがいても、祓われたりするから、普段は山などに隠れ住んでいると聞いたことがある。私は、現世に行ったことがないから実際はどうなのか知らないが』


『俺達の時は、常にどんちゃん騒ぎさ。頻繁に人間と合っていたし、俺の時代は見えるやつが多かった』


 俺もそんなイメージがあるな、一番活発だったんじゃないか?


『少なくとも、今よりはそこら中に妖怪はいた』


 まぁ、今は色々発展して人もそんな非科学的なものを信じなくなって、妖怪達の住処をどんどん開拓していってるから、いなくなるのは必然だったのかもなぁ。

 そもそも、見えないとどうしようもないし。


『けど、たまに俺の本体がある神社に夜中人が来るぞ』


 そういうやつもいる、度胸試しだったり怖いもの見たさだったり、昔もそういう人間がいただろ。

 非科学的なものを信じない人もいるが、そういうのが好きなやつもいる。

 夏は、特に多くなる。


『そうなのか、色んなやつがいるんだな』


 あぁ、本当に色んなやつがいるんだ。


 俺達は、数分程雑談を続けた後、俺の喉が乾いたので公園を出て自販機を探し始めた。


 こんだけ暑いとすぐ喉が渇く、水筒が欲しくなる。

 近くに自販機があればいいんだけど…………。

 

 俺は、自販機を求め歩き続けた。


 お! あった!


 俺は、自販機を見つけ駆け出す。


 ふぅ、早めに見つけられてよかった。


 俺は、早速ポッケから用意されていた小さい財布を取り出し、小銭を自販機に入れて水を購入した。


「水水っ!」


 俺は、購入した水をすぐ取り出し、キャップを開け、豪快に飲み始めた。


ゴクッゴクッ。


「ぷはっ! 生き返るぅ〜。暑くなった身体によく冷気が伝わる」


『『俺、我も、酒が飲みたくなってきた』』


 俺は、一瞬で買った水を飲み干した。


『この後はどうする? 夜までかなり時間があるが』


 少しまて、ちょっと考える。


 俺は、これからの予定を思案した。


 今は大体十時くらい、それから夜まで……いや、その前に、大体何時くらいから人はいなくなるんだ?


『基本的に十八時を過ぎると人は来なくなる。けど、たまに夜中に人が来る時がある』


 怖いもの好きの人達か、そこだけ注意が必要だな。一般の人は絶対そんな夜中に来ないだろうし。

 十八時まで時間潰さないといけないのかぁ。どう時間を潰すのがいいんだ?

 う〜ん、特に何も思いつかないししばらくまた歩くか。


 そう思い、俺はまた歩き出した。

 

 



 数時間後…………。

 俺は、久しぶりに食べたコンビニ飯に感動しつつ昼食を済ませ、色んな人に聞き込みをしながら、酒呑童子の本体が眠る首塚大明神へと向かっていた。

 

「遠いんだな、首塚大明神って。名前だけ聞くことはあっても、実際に来るのは初めてだ」


『おい、あれはなんだ不思議な絵の書物がたくさんあるぞ』


 あれは、本屋か。漫画や小説、参考書やレシピブック、図鑑など様々な本を取り扱ってる店だ。

 お前が言う不思議な絵はこれか?


『これはなんだ? 見たことのない生き物が描かれているぞ』


 ファンタジー小説……そりゃあ見たことなくて当然だ。なにせ、想像上の生き物だからな…………って言っても、俺からすれば妖怪とかの存在も想像上の生き物だったんだが。

 そういえば、日本にもこれだけの妖怪がいるってことは外国にもたくさんの妖怪がいそうだな。

 俺も、あまり詳しくはないが吸血鬼やドラゴンとかは実在してるのか?


『吸血鬼ならいるぞ、俺もあったのは数度だが』


『昔は、西洋の妖怪や神々もよくきていた。なんなら、こちらで信仰されている神の中には外国の神もいる』


 そうなのか、いつか機会があれば合ってみたいな。まぁ、そう簡単には会えないと思うが。 


 そんな事を話しながら、首塚大明神を目指して歩く。


『千弦、少しいい……』


「ん?」


 今なんか声がしなかったか? 小さくて内容まではわからなかったが……。


『すまんが我らには、肉体がないから分からない』


『多少はお前を通して聞こえるが、細かい音は聞こえない』


『千弦が聞こえたのなら、聞こえたんじゃないか? 千弦は、身体能力が高い聴覚などの感覚も鋭いはずだ』


 少し耳を澄ましてみる。


 俺は、邪魔にならない所に身を寄せ、耳に意識を集中させる。


「それでさ〜……」


「はい、はい……」


「イェーイ……」


 カツカツ、タンタン、ジャリジャリ。


 雑音が多すぎる、さっき聞こえた小さな声はどこから聞こえた……? 探り当てろ。


 俺は、更に集中して周りの音を拾う。


「虫取り……」


「次どこ……」


「…………やめ……は…し……!」


「お腹空……」


 聞こえた、こっちだ。


 俺は、声を聞き取ると声の聞こえた裏路地に入っていった。


『僕達と遊んでよ〜』


『遊んで〜』


『遊ぼ〜』


「いやっ、あっち言って!」


 あれは、なんだ?


『どうやら暇な小物妖怪が、ちょっかいかけてるようだな。悪意ではなく、好奇心と暇つぶしが目的みたいだ。あの子どうやら見えるらしい』


 黒髪の俺と同じくらいの子が、三匹のイタチのような妖怪に襲われていた。

 

『見える人間は今の時代珍しい、人を嫌う妖怪がいれば人を好いてる妖怪もいる。あいつらは、大方昔見える人間に遊んでもらい、見える人間=遊び相手とでも考えているのだろう』


「助けが必要か?」


 俺は、女の子にそう問う。


「っ! 助けて!」


「分かった」

 

 女の子は、俺の問に大きな声で答えた


「おいお前ら、この娘が困ってる。無理に遊びに誘うのはやめてやれ」


『何だお前、俺達が見えるのか?』


『見える奴が二人も!』


『お前が変わりに遊んでくれる?』


「俺が遊べば、この娘から離れるんだな?」


『あぁ!』


『『遊ぶ! 遊ぶ!』』


「たくっ、めんどくせぇ奴らだ。それじゃあ場所を変えよう。ここは狭すぎる。あと、この娘も送り届けなきゃな」


 変化の術解除、姿隠しの術。真怪化。


 俺は、変化の術を解き妖怪の姿になる。


『鬼!』


『お前も妖怪?』


「話は後だ、先にこの娘を連れて行く。見失わないようちゃんとついてこいよ」     


 姿を隠して、屋根伝いに行くほうが早い。


「少し抱えるぞ」


「え、ひゃっ!」


 俺は、その場から高くジャンプし、屋根の上に乗る。


「お前のお母さんとお父さんは?」


「……お仕事」


 はぁ? 子供一人で出歩かせたのか。誰かしらついといてやれよ。

 共働きか?


「周りに誰かいないのか?」


 ベビーシッターぐらいいそうなもんだが。

 

「いない、逃げた」


 逃げたじゃなくて逃げてきたの間違いだろ。

 はぁ、めんどくせぇ。

 

「お前ら、鬼ごっこしよう。お前らが鬼で俺が逃げる。俺に触れられたらお前らの勝ちだ。どうだ?」


 リアル鬼だが、俺は逃げる。状況的にこっちの方がいい。人探しが絡んでるからな。


『鬼ごっこ!』


『『やる!』』  


 もうついでに、保護者を探しながらこいつらの要求も解決しよう。


「それじゃあスタートだ」


 俺は、周りを注意深く確認しながら駆け出した。


「知ってる人がいたら、服を引っ張れ」


「わかった」


 こうして、保護者探しを兼ねた鬼ごっこがスタートした。





 くそっ、全然見つからん。きっと保護者も動き回ってるんだろうな。

 幸い時間的猶予はいくらでもあるから良かったが、今は大体おやつ時か?


「お前ら、タイムだ。この炎天下の中ずっと動き続けるのはきつい。お前らも休憩してこい」


『逃げない?』


「逃げない逃げない、まだまだたくさん遊んでやるから」


『『『分かった! 信じる』』』


 そう言って、三匹の小さな妖怪達はその場から姿を消した。


 影のある所に行こう。


 俺は、屋根から降り再び路地に入った。


「ふぅ、こんな暑い中連れ回して悪いな。大丈夫か? すぐ近くに自販機があったから飲み物なんか買ってくるぞ?」


「炭酸がいい」


「そうか、じゃあ買ってくる」


 俺は、真怪化の状態で人間に化け、近くの自販機まで行った。       

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