TS魔法少女配信

アンリミテッド

第1話 TS魔法少女

 ダンジョン。それはモンスターがいる世界。人々は栄光や一攫千金を求めて、探索者として挑んでいく、らしい。




 俺の名前は桐山きりやま悠希ゆうきであり、配信者として活動している。今はCランクダンジョン『巨人の城』に挑んでいる。


 それにしても、男の俺が魔法少女なんて可笑しい話だと思うが事実である。


 俺はユニークスキル【魔法少女】を得て、魔法少女になれるようになったのである。しかも今は。男である俺は女になった、性別を変えることも出来てしまったのだ。ちゃんと元に戻れるのでそこは安心している。

 最初は可笑しいと思っていたが、今ではもう慣れてしまった。


 スマホを見る。カメラに写っているのは魔法少女。

 紫の瞳。紫の髪はポニーテールに赤いリボン。紫と白のフリフリとした衣装。胸と腰にも赤いリボンがある。両手には紫の長手袋、腰には薄紫のウエストポーチ。両足に薄紫のニーハイ。紫のブーツ。

 紫色の魔法少女が俺であった。


「さぁ、今日もやっていくわよ」


 今日はダンジョン配信をやっていく。俺はスマホを持って、配信ボタンを押した。


「こんばんは、マジカルジョーカーよ。今日はCランクダンジョン、巨人の城を攻略したいと思うわ」


 マジカルジョーカー。それが俺の魔法少女の名前である。


 片手にスマホを持ちながら進んでいく。同接数は、0であった。

 理由は俺の恰好である。普通、こんなフリフリとした衣装でダンジョンには行かない。何かしら武器や防具がある。それが理由で合成と言われたことが何度かあった。

 これでも1ヶ月続けている。


「なんだかんだ言って、ダンジョン配信が好きなのよね。……あっ」


 言葉に出してしまったか。たとえ同接数で上手くいかなくても、好きであることは変わらない。

 今日も好きにやっていくだけである。




 数十分後、俺は上層から中層へと移動していた。上層ではモンスターと会わなかった。中層ならモンスターと鉢合わせることもある筈だ。


「私、Cランクは初めてなのだけどね」


 ダンジョンには、F~Sにランク付けされている。俺はF、E、Dダンジョンを既に攻略している。だからCランクの巨人の城に来たのだ。

 ……それにしてもモンスターいなくないか?


「うん?」


 中層を進んでいると、微かにだが何かが動く音が聞こえた。


「進んでみるわ」


 俺は中層を進んでみる。音はどんどん大きくなっていく。しかも戦闘している音に聞こえた。誰かが戦っているのか?


「きゃあああああ!」


 悲鳴が聞こえたのと同時に大きな音が響いた。これは不味いかもしれない。俺は駆け出していく。


 戦闘が行われていた場所に到着した。そこにいたのは、金髪でピンク色の魔法少女と赤い体に角があるモンスター、オーガであった。

 魔法少女に見覚えがあったが、今はそれどころではない。


「正面突破よ!」


 俺はオーガに向かって駆け出す。スピードを上げて、今まさに拳を振り下ろそうとしているオーガにタックルを当てた。


「グッ!!?」


「!?」


 オーガは遠くへ飛ばされて、魔法少女とは距離を取れた。俺は魔法少女と向き合う。


「魔法少女?」


「ミラクルハート!」


 俺の目の前にいる魔法少女はミラクルハートであった。ミラクルハートは魔法少女であり、同時に人気配信者であった。

 金髪のワンサイドアップに赤いリボン。ピンクの瞳。ピンクと白のフリフリとした衣装であり、胸と腰に赤いリボンがある。白の手袋、ニーハイ。ピンクのブーツ。白のウエストポーチがあった。


「グオオオオ!」


 赤いオーガが咆哮を上げる。


「レッドオーガ」


 あのオーガはレッドオーガであり、本来なら下層にいるべきモンスターである。しかも普通のオーガよりも強い。さっきのタックルで怒り心頭に見える。

 仕方ない、ここで俺が戦わないとミラクルハートに狙いを変えるだけだ。


「すぅ~ふぅ~。よし! これ持ってて!」


「えっ!?」


 俺はミラクルハートに自分のスマホを預けて、レッドオーガに近付いていく。


「あ、危ない! 逃げて!」


 ミラクルハートは俺に逃げるように促してくるが、逃げない。逃げたらミラクルハートが死ぬからな。そうだ、少しだけかっこつけよう。

 俺は一度立ち止まる。


「1つ良いことを教えてあげる」


「えっ?」


「魔法少女同士、助け合いでしょ」


 軽く手首を動かして、再びレッドオーガに近付いていく。

 レッドオーガは駆け足で俺に向かってきた。怒りで表情がもう怖いことになっている。


「グオオオオ!」


 レッドオーガは俺に拳を振り下ろす。対して、俺は拳による攻撃を避ける。そして胴体に向けて一発拳を叩き付けた。


「グウウ!? グオオオオ!!」


 再びオーガは拳を振り下ろすが、また俺はその攻撃を避けて拳を叩き付けた。

 レッドオーガの攻撃は確かに怖いが、大振りだし見て避けられる。


「グウウ!?」


 レッドオーガが少し引いた。こっちから仕掛けよう。


「やあああああ!」


 俺は拳による攻撃を仕掛ける。レッドオーガに防御をさせる。レッドオーガに攻撃させる隙を与えない。攻撃しようと思ったら、逆に攻撃を飛ばしてしまえ。

 レッドオーガに傷が付いていく。もう少しで倒せそうだ。


「グオオオオ!!」


 レッドオーガが防御を捨てて無理矢理拳を振り下ろそうとする。このレッドオーガの勝負に、俺は勝つ。


「はあああああ!」


 同じタイミングで拳を力強く突き出す。レッドオーガよりも速く、力強い拳を放った。俺の拳がレッドオーガに当たり、レッドオーガは遠くへ突き飛ばされた。

 俺は右手に魔力を溜める。ついでに力強いポーズでも取っておく。右手が紫色に光り輝く。


「【マジカルパンチ】!」


 俺は駆け出して跳躍、レッドオーガに紫色に輝く拳を当てた。地面は抉れていき、レッドオーガは更に突き飛ばされた。レッドオーガはまだ倒れない。

 連続して叩き込む。俺は右足に魔力を溜める。右足が先程同じく紫色に光り輝く。


「【マジカルキック】!」


 走って距離を調整し、跳躍。レッドオーガに必殺の蹴りを食らわせる。レッドオーガは壁にぶつかる。そして、爆散した。レッドオーガの魔石だけが残った。




 俺はミラクルハートに近付く。配信は何度か見ているけど、ミラクルハートに会うのは初めてだな。

 可愛らしい衣装だけど、今は戦闘の所為でボロボロだった。


「ちょっとじっとしてて」


「うん」


 俺はミラクルハートの手を取り、自身の手を重ねるように当てた。そこから魔力を流し込む。すると、ミラクルハートの衣装が元通りになっていく。衣装の修復が終わった。


「これで大丈夫」


「ありがとう!」


「良いわよ。それに魔法少女同士、助け合いだから」


「私はその言葉好きだよ」


 会話していると、ミラクルハートのウエストポーチが揺れる。っと、俺のウエストポーチも揺れているな。

 ミラクルハートはウエストポーチからスマホの形をした兎みたいなのが出てきた。


「君は一体、何者なの?」


 俺は立ち上がって自己紹介をする。


「マジカルジョーカー。そして私の妖精の――」


 俺のウエストポーチからスマホの形をした猫、変身アイテムであり俺の妖精を出てくる。


「ユカリよ。よろしく」


 自己紹介が終わって、俺はミラクルハートに手を伸ばす。ミラクルハートは手を掴んで立ち上がった。


「私はミラクルハート。ミラクルでも、ハートでも大丈夫だよ」


「私はココロ! よろしく!」


「よろしくね、ミラクル、ココロ。私もマジカルでもジョーカーでも大丈夫よ」


「本当にありがとう、マジカル」


 ミラクルが笑顔を向けてくる。それを見ただけだが、助けることが出来て良かったと思えた。




 俺とミラクルは上層へと移動した。あの後スマホを返してもらって、念のために一緒に上層へと戻ってきた。俺自身も配信を終了するつもりだ。

 ミラクルはドローンに映し出されているコメントに返事をしていた。ミラクルが使っているドローン高性能だな。

 俺自身のスマホを見れば同接数が千人いた。その殆どが、ミラクルを助けてくれた感謝の礼だったりする。


 ここまでくれば、ミラクルだけでも帰れるだろう。


「それじゃあ、私はここまでね」


「……うん」


「どうかした?」


「また、会える?」


 ミラクルは不安半分期待半分で聞いているのだろう。俺はなるべく優しく答える。


「きっと会えるわよ。だからそんな一生の別れみたいな目をしないで。大丈夫、きっとまた会えるんだから」


「マジカル……うん! 私はマジカルの言葉を信じる!」


「ありがとう」


 俺はミラクルに背を見せる。


「「今回はここまで! またね!」」


 そう言って俺はスマホの配信ボタンを切った。同時にミラクルの方も配信が終了した。再びミラクルと向き合う。


「またね、ミラクル」


「またね! マジカル!」


 こうして俺とミラクルは別れた。ミラクルは真っ直ぐダンジョンを出ていく。

 俺は人目のない場所で変身解除をしてダンジョン、巨人の城から出ていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る