ストレンジアース・ウォーゲーム~帝国対共和国~

瀬名晴敏

プロローグ パンドラの過ち

 遥か昔、一人の神様が自分を崇める者達の住む世界を作ろうとしました。


 そのために神様は、自分の住む世界のあちらこちらから石を拾い、土を捏ね上げて、水で固めた上で石を埋め込みました。さらに自分の髪から人間を作り、星の形に作り上げた世界に住まわせました。


 しかし、そうして出来上がった世界は、バラバラな材料を一つにまとめ上げたものであり、そこで生まれた生き物は姿も言葉も、そして生き方も様々でした。


 当然、異なる生き物同士で争いが起こり、それが収まる事はありませんでした。私達が同じ神様を信じているのに、決して一つにまとまらないのはこれが原因だと言われています。


(サージア大陸に伝わるおとぎ話より)


・・・


 惑星モザイク。地球とは全く異なるこの惑星は、遥か昔から奇妙な歴史を辿った世界である。


 一人の賢者によって『星暦』の紀元が定められる前から、たった一つの島しかなかったこの星に、多くの異なる文明を有した陸地が転移し、不自然な世界を作り上げていった。やがて最初の陸地を祖とする国が多くの陸地を統一し、一つの帝国を築き上げた。


 時は数千年流れ、最初の帝国が星暦を使い始めて1000年を刻んだ頃。二つ目の帝国『パンドラ神授帝国』がとある魔法を作り上げた。それは神話という形で伝わる神の行いを真似たもので、その帝国の皇帝は『転移魔法』と名付けた。


 だが、その魔法は惑星モザイクに対し、後に『パンドラの過ち』と呼ばれる事になる大きな災禍を招いた。パンドラ帝国が異なる惑星と回廊を繋げ、愚かにもその先の世界を知ろうともせずに戦争を挑んだ結果、逆に向こう側から攻め込まれる事となったのである。


 最初にパンドラの支配領域に手を伸ばしたのは、『グロース・バルカシア帝国』という国だった。当時のパンドラの数百年先を行く技術力と、強大な生産力が成し得る膨大な兵力を誇る彼の国は、僅か1か月で陸地の一つを奪い取った。パンドラは極めて不利な講和を結ばされ、バルカシアの企業は貪欲にモザイク進出を進めていったのだ。


 それから10年後、バルカシアが本国のある世界で起きた戦争で進出が低調になった頃に次いで進出を進めたのは、『ギルティア帝国』だった。彼の国の軍事力はバルカシアと拮抗しており、故にパンドラ本土へ進軍を志した時、パンドラは素直にバルカシアに土下座をし、救援を求めた。


 斯くして、『第一次パンドラ大陸戦争』と呼ばれる事になる戦争はバルカシアの軍事技術を発展させる要因となった。ギルティア海軍は大型巡洋艦を主軸とした機動艦隊による機動戦を好んでおり、しかし威圧目的で戦艦を複数隻投じているバルカシア相手には悪手であった。しかもこの時、バルカシアはギルティアの兵器を少なからず鹵獲する事に成功しており、1年も経てば形勢は瞬く間に逆転する事となった。


 そうしてパンドラからギルティアの影響力を一掃したバルカシアは、『門』と呼称される転移魔法陣を起点に開発と進出を進行。さらに10年かけて盤石な勢力圏を手に入れたのである。


 だが、その30年後、今度はバルカシア帝国全体に異常事態が発生した。『門』が複数地点に出現したかと思えば、バルカシア帝国の本土が惑星モザイクに転移してきたのである。さらにパンドラ大陸の反対側では、ギルティアと同じ世界にある『ロードリア共和国』が転移。ギルティアが有していた植民地を全て奪い取ったのである。


 その国は、自国の主要な宗教である『ルキスト教』を主軸に、自国民中心主義を核に据えた政策を取る事で周辺国から警戒され、しかしギルティアを凌駕する科学技術とそれに裏付けられた軍事力によってこれを黙らせていた。


 そしてこの恐るべき国は、惑星モザイクの覇者たらんとするバルカシアと全面的に対立を始める事となる。

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