第20話 わからへんのやー!

今日、失語症の父が、なにかがたまっていたのか、ついに、「わからへんのやー」と、怒りだしました。それまで、父は、わからないことも、わかってる!と、頷いていたので、ストレスがたまっていたのだと思います。

ぼくも、姉も大笑いです!



だって、ついに、自分がわかってないことに気付いたんですから!すごい、発見です!

一体、父になにが起こったのか!なにか、話しかけるたんびに、

「わからへんのやー!」

と、眉間にしわを寄せて、怒る父の、かわいいこと、かわいいこと。



姉が父の手を洗ってあげてるとき、

「わからへーん!」

と言ってる父に、

「まあ、わからへんに気付いただけでも良かったやんか」

と言ってあげ、その後もわからへん、わからへん。


いままで、わからなかったことを正直に言い始め、父のなかで、なにか変わったようです。


「わからへんて、難儀やなー」

「わからへんことがわかるってことは、わかってるってことなんやで!」

「わからへんのやー!」


の繰り返しです。



難しいなあ、お父さん!ほんま、難しいことやで、と暑いなか、散歩に出かけ

「暑いのは、わかってる?お父さん」

「わかってる!」

「ほら、わかってるやんかー」

と、だんだん、わかることを増やしていってあげて、いま、姉が父に食事介助をしています。

ぼくは、父の居室で、休憩です。



姉が、スマホのビデオを取り出し、なにやら、次の日の予定を父に説明しはじめました。

姉は、どうやら、父の「わからへんのやー!」と言うところをビデオに録りたいようです。



そんな、父をいじめなくていいのに。でも、これも、父の思い出の一つだな、と思い、そっとしてます。



食堂から、父の声が聞こえてきます。

「もう、わからへんのやー!!」

ぼくは、居室で、今日のことを文章という思い出に留めておきました!

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