高校に通う元殺し屋が超可愛い件
白琴黒音
第1話 意外と呑気な最強
「....おはよー」
その一声と共に、
永愛はトボトボと自分の席へと足を運ぶ。席の位置は主人公席....という訳でもなく、廊下側の列の1番後ろ。
そして隣の席には、今日も朝一に来たのか暇そうに本を読んでいる凛々しい顔立ちの少女が座っていた。
「おはよう、零」
そう永愛が声を掛けると、少女は丁寧に本を置き、永愛に向かって微笑む。
「あぁ、おはよう永愛。今日も1日よろしく頼む」
「そんなに大袈裟に言わなくても、もう慣れただろ?」
「それもそうだが、やはりまだまだだ。私はこの生活には未だに完全には馴染めていないからな」
相変わらず真面目だな、と言葉を漏らしつつ、永愛も自身の席に腰を下ろす。
彼女の名は
「そう言えば、教頭がこの後、2人で校長室に来てくれと言っていた」
「了解。まぁ近況報告とかだろ」
「そうだな」
2人は席を立ち、廊下に出て校長室へと向かう。近況報告とは零がどれだけ生活になれたか、不便はないか、そんな所だろうと永愛は予想していた。なぜ零が教頭にそんな事を報告しなければならないのか、それは零の出自に大きく関係していた。
さかのぼる事、2週間前。入学式前日の事だった....
◇◆
「君に、お願いしたい事がある」
ソファに座る高等部教頭、
「俺みたいなただの一生徒に、教頭先生直々に、ですか?」
それは当然、永愛も疑問に考えていた事だった。永愛は今までに暎一との面識はもちろん無い。だからこそ、心の底から突然の頼みに困惑していた。
「もちろん、分かっているさ。このお願いは学園長からのものから。そういえば君も少しは納得してくれるかい?」
「....会長から?」
「そうです」
唐突に知り合いの名が挙がったため、永愛は少し反応を示す。永愛はこの学園の学園長である人物と交友関係にあり、その学園長からの伝言。そう捉えると少し納得がいった。
「こほん....じゃあ聞きましょうか。そのお願いを」
そう言うと、暎一は語りだした。
「今年、ある生徒が本学園に入学する。ただ、その生徒は生まれた境遇の問題で少々世間知らずな所があるんだよ。君にはその子が世間に慣れるまでのサポートをお願いしたい」
「サポート、ですか」
「そう。ただ、その生徒の出自が少々問題でね....」
暎一は頭を抱えつつそう話す。その雰囲気から余程の事なのだろうと永愛自身考えていた。しかし、次に暎一の口から出たのは思いがけない言葉だった。
「その生徒は、数ヶ月前まで現役の殺し屋だったんだ」
「....えぇ....」
驚きよりも先に困惑が出てしまった。現代にも殺し屋という職業は存在する。それは永愛自身まぁ何となく分かっていた。だが引退したとはいえ、同じ学園に元殺し屋がいるというのも何だか変な話だ。
「その子は生まれた時から外に出る事を許されず、ただただ殺しの技術を磨いていた。故に世間を全くと言っていい程知らない。だから学園長は君を頼ろうとした訳だ」
「なんでそんな子を学園に....」
「せっかく表舞台に戻るキッカケが出来たんだから、とことん助けてやりたかった、らしい。幸いにも、学習能力はかなり高い。君の補助もあればすぐに適応できるだろう」
永愛としては、正直どちらでも良かった。人殺しの援助など行う必要は無い。そう考える人だって少なくはないはずだ。しかし友人の頼みでもある。それに話を聞いた感じだと望んで殺し屋になった訳でも無さそうだ。それならば。
「....分かりました。元殺し屋とはいえ、無差別に人を殺すような人物では無いのでしょうし。でも、1つ聞きたい事があります」
永愛は、聞いた時からずっと思っていた疑問をぶつけた。
「会長は、なんで俺にその役を任せたんですか?」
「それは、君が....」
暎一がそこまで言いかけた時、何者かによって校長室の戸が開け放たれる。
「教頭。呼ばれたので来たぞ」
「おや、丁度いいね」
そう言うと暎一は立ち上がり、扉を開いた少女の元へと向かう。聞き損ねた、と感じつつも永愛は少女へと視線を向けた。
「名乗れるかい?」
「あぁ。T-0002....では無かったな。私の名は葛城零だ。お前が私のサポートをしてくれると聞いている」
「お、おう」
まさかの麗しき美女の登場に、永愛は若干度肝を抜かれた。そのせいか曖昧な返事をしてしまう。
「私の過去にも多少理解があると聞いている....そのような人物はほとんどいないと思っていた。私のような人間を受け入れてくれてくれる事、本当に感謝している」
「超真面目じゃん....」
永愛のサポートなど果たして必要なのだろうか。そんな印象を抱かれていた零は何を考えていたのかと言うと。
(お腹がすいたな....)
心の中で、空腹を訴えていた。
こんな零だが、数ヶ月前までは殺し屋業界において現役最強と言われるレベルの身体能力、そして強靭な精神を持っている。
それが学校生活においてどれほど役に立つかは、不明だ。
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