第55話 じゃあどうする?
「ちなみにアテナは……防衛機構を倒すくらいはしてくれるの? 創造主に手は出せないとしても、キミの戦力がないと厳しいぞー」
「防衛機構に攻撃を加えることにプログラム上の問題はない。そこは安心してほしい」
「了解」
アテナなしで防衛機構を突破するのはかなり厳しいだろう。あの防衛機構は魔王を倒しているし、なにより創造主ララが作ったものなのだ。
自分の力は自分が一番知っている。厄介な相手なのは間違いない。
「フォル。もし良かったら……力を貸してほしい」
「良いですよ。どうせ暇ですし」
「消極的な理由だなぁ……」
「積極的な理由が必要ですか? 私とあなたは友達でしょう、なんてセリフを吐いてみましょうか?」
「やめてくれよ恥ずかしい」2人は友達でもなんでもない。「……なんかキミが困ることがあったら呼んでね。暇なら助けてあげる」
ララはフォルのことを気に入っている。なんなら友達と形容しても問題ないくらいには好きだ。
でも恥ずかしいから言わない。
「じゃあ行きますか」
ララは軽い口調で言った。そうしないと恐怖が溢れ出てきそうだった。
ララはあっさりと扉を開けた。少しでも悩むと決意が揺らぎそうだった。要するに……怖かった。その感情に気づかないフリをして、ララは部屋の中に足を踏み入れた。
「こんにちは創造主さん」ララは努めて明るい声で、「キミの人生、終わらせに来たよ」
創造主の目がギロリとララのほうを向いた。
虚ろな目だった。視線はララのほうを見ているけれど、焦点が合っていないように感じた。
「終わり……?」創造主はつぶやくように、「……そんなわけないでしょ。まだだよ。まだボクは――」
「まだボクは、なに?」
「……なんだっけ……」創造主は頭を抑えて、「……なんかやらなきゃいけないことが、あったんだけど……」
「……そうやって忘れたフリをして、まだ逃げるつもり?」見ているだけでイライラしてくる。「くだらないよ。本当は自分でも気づいてるクセに」
「なんの話?」
「……まぁいいさ。どうせ……キミがここで死ぬことに変わりはない」
死。
その単語に創造主は大きく反応した。ビクリと体を震わせて、ララをにらみつけた。
「相変わらずキミはうるさいな……人の心なんて考えもせずに……!」
「他人の心なんて知らないよ」知ろうとも思わない。「でもキミは他人じゃない。キミはボクだから。だから……ボクが終わらせないといけないんだ」
「終わらせないよ」創造主はフラフラと部屋の奥に移動して、「キミがボクなら……ボクの言いたいこと、わかるよね」
よくわかる。
「自分の意志を押し通したいなら、力ずくで」
「そういうこと」創造主はレバーを操作して、「やれるもんならやってみろ」
「そうさせてもらうよ」
自分のためにも、創造主のためにも。
どうしても譲れないものがお互いになるのなら、徹底的にぶつかるしかない。お互いにそう思っている。
勝ったほうが正義。そんなシンプルな話だ。
そうして戦闘が開始された。開戦を告げたのは部屋の中から現れた無数のロケットランチャーだった。
おそらくこれが魔王を吹き飛ばした装備。速度、威力、連射性。そのどこをとっても最高クラスの攻撃だった。
まともに喰らえば一撃で戦闘不能になる。そんな攻撃。
だが、
「馬鹿野郎……!」ララが盾で攻撃をしのいで、叫ぶ。「お前そんなもんか? 500年も生きて……そんなもんかよ!」
なんとか防げるレベルの攻撃だった。フォルもシールドを張って攻撃をしのいでいた。そんな攻撃がアテナに通用するはずもなかった。
「まだ小手調べだよ」そう言った創造主は、かすかに笑みを浮かべていた。「こんな程度で壊れないことは知ってる。こんな程度で倒せないことはわかってる」
「じゃあどうする?」
「もっと強い攻撃をするだけ」
そう。それしかない。それを続けることでしか最強は証明できない。
かくしてその戦いは始まった。創造主の500年。そのすべてを懸けた戦いだった。
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