リカ様は俺の家では可愛いデレ義妹

小狐ミナト@ぽんこつ可愛い間宮さん発売中

プロローグ 俺とリカ様の出会い


「圭、帰ろうぜ〜」


 帰りのHRが終わり、生徒たちがそれぞれ動き出す。教室の前で待っていた友人と合流する人、部活の準備をする人、イヤホンを装着して出ていく人。


 俺、石橋圭いしばしけいは友人の誘いを断るほかなかった。


「すまん、みのる。今日委員会なんだわ」


 島根稔しまねみのるは俺の数少ない友人だ。彼はゴンプラと呼ばれるロボットアニメのプラモデルにしか興味のないガチヲタクだが、俺とは小学校の頃からの友人である。


「そうか。じゃあ今日は先に帰ってるわ」


「おうじゃあまた明日」


 必要なテキストとノートをバッグに入れ、席を立つ。図書委員である俺は今日、放課後の受付担当をしなければならない。と言っても、テスト前でもないこの時期であれば利用する生徒はほとんどいないし、俺も趣味の小説をゆっくり読むことができる。


「きゃ〜! リカ様!」

「リカ様今日も可愛い……」


 俺のクラスの廊下で女子たちの悲鳴が響く。ちらりと目をやるとそこには「学園の女王様」と呼ばれている綺麗な女の子が優雅に歩いていた。

 彼女の取り巻きの女たちが群がる女子生徒や憧れの視線を向ける男子生徒を遠ざける。


 「リカ様」こと宝城里華ほうじょうりかは、俺と同じ高校1年生。長い黒髪とぱっつん前髪、どこか海外の血が入っているらしく薄い色素の目が非常に印象的で美人な女子生徒だ。

 女王様と呼ばれているのは彼女がどこかクールで黒髪ぱっつんだからか、モデルのようなすらっとした体型だからか、それとも「リカ様」というあだ名がそういう女王様的なイメージがあるからかはわからない。


 とは言っても、俺にはあまり関係のない人種なので廊下が静かになってから図書室に向かうことにした。



***



「はい、返却ですね」


「あの、『怠惰』シリーズの新刊はいつ? 3ヶ月連続発売ですよね?!」


 誰もない図書室……で俺に詰め寄っているメガネの女は「ミステリーネキ」こと古南月こなんるなだ。彼女はいわゆる本の虫で大のミステリー好きなのか毎週さまざまなミステリー小説を借りていく。

 俺もミステリー小説が大好きではあるが、このミステリーネキには敵わない。


「いや〜、図書委員の予算的に発売後すぐってのは無理かもって先輩が言ってたような?」


「ぐぬぬ……」


 ミステリーネキから受け取った本『怠惰の歌』のカードに返却マークを書いてカートの上に置いた。


「あの〜」


「じゃあ、いいわ。今週分手続きをお願いします」


 どさっと積まれた貸し出し上限の十冊の図書カードに日時を書いて、その間ミステリーネキの小言に付き合う。俺も同じくヲタクであるがこうやって押し付け型にはなりたくないなぁと思ってしまう。


「どうぞ。えっと、返却期限は1週間後っすね」


「ありがとう。あの、怠惰シリーズの入荷情報。入ったら教えてください! この通り!」


「あはは〜、俺が受付の時であれば……」


「私も図書委員のジャンケンに負けてなければ……ブツブツブツブツブツブツ」


 ミステリーネキは十冊の本を麻のトートバッグに詰め込むと何やら呪言のように文句を言いながら図書室から出て行った。図書委員の間でも噂される「ミステリーネキ」の相手をして疲れてしまった。


 さて、ミステリーネキが返却した本を本棚に戻したら俺もなんか読むかな。『怠惰シリーズ』の作者であるはちみつ甘さんは元々はラノベ作家。彼のラブコメ本もあったはずだ。ラブコメものの中にも彼らしいミステリ要素があって面白いんだよな。

 ミステリーネキもそれは知らないだろう、嘆かわしい。


 移動用のカートを押しながら本棚の間を回っていく。そのついでに適当に戻された本を正しい位置へと戻す。文芸、ライトノベル、歴史書に受験用の赤本。


「怠惰の歌。いいよなぁ、やっぱり初作は」


 俺は『怠惰の歌』を棚に戻す前にペラペラとめくった。怠惰シリーズは、やる気のない男子高校生と歌手をしているヒロイン女子高生が芸能界で起こる殺人事件を解決していくというストーリーだ。二人の甘酸っぱい関係や芸能界で起こる悲しくリアルな描写で読者は情緒をぐじゃぐじゃにされる。

 ラノベの皮を被ったこのミステリ小説は日本中に衝撃を与えた一作である。


「あの」


 突然後ろから声をかけられて驚いた俺は少し大きな声で「はい?」と返事をして振り返った。するとそこには、すらっと背の高い美少女が立っていた。


「あの、その本。借りてもいいですか?」


 彼女が指差したのは俺が手に持っている『怠惰の歌』だった。怠惰シリーズの第1巻であるこの本はまだライトノベルの雰囲気を強く残し可愛らしいヒロインがでかでかと描かれている。

 ゆえに、相当なマニアかこのような萌え絵にも許容のある女の子以外は手に取らないような印象にある。


 少なくとも、今俺の目の前にいるような子は手に取らないと思っていた。


「あ〜、大丈夫ですけど……」


「そう。ありがとう。早速だけれど、貸し出しの手続きをお願いしたいの。外で友人を待たせているの」


 宝城里華。

 俺には眩しすぎるくらい綺麗な彼女の瞳をこんなに間近で見たのは初めてだ。色素が薄いんじゃない、うっすらとグリーンがかったヘーゼルの瞳がじっと俺を見つめていた。


「はい、少し待っててください」



 これが、俺と宝城里華の初めての出会いだった。まさか、相容れないと思っていたはずの彼女が俺の妹になるだなんてこの時は思ってもいなかった。

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