第3話 星宮さん

 明らかに女性の方が離れようとしていたから俺は女性と男の間に割って入った


「嫌がってますよ」


「あぁん、誰だよガキ!」


 誰って、言われても俺は通りすがりの大学生なだけですけど

てかまじまじと見ると俺よりも背が高い

俺も一応178とそこそこあるのに……

後ろの、もか?と呼ばれていた女性もこれまた背が高い、一応暴行を加えられたりはしてないみたいだな


 後ろに注意を割いた瞬間に顔面に衝撃が走って俺は地面に転がっていた


 イタイ


 殴り合いの喧嘩なんて生まれてこの方した事もなかった俺は男に殴られたあと受け身も取れずに霞んで見える視界にコンクリートの地面が写った


「ったく、ガキが調子に乗るからだ」


 確かに、偽善者ぶって見ず知らずの他人を助けようとしたばっかりに痛い目にあったわけだがコッチもいきなり顔面ストレート食らってるんだ

この女性とどんな関係かは知らないけど、恥はかいてもらう

ッぜ


 俺の背後にいる女性の元に歩いていく男の両足首を這いつくばりながら掴み全力で引いた

 体制を崩し男は両手両膝を地面につかせた

ざまぁみろ


 だが、その行為に激情した男はすぐに立ち上がって俺を何度も踏みつけにしてくれた

 クソッ、これはさすがにヤバい

全身に激痛が走り意識が遠のきそうになった時

 女性がおもむろに手首の甲ををつきだし声を張り上げた


「ねえ、コレを警察に見せたら傷害罪で逮捕よアンタ」


 どうやら腕に付けてたパイナップルウォッチ

 で隠し撮りをずっとしてくれていたみたいで男の暴行が全て収められていた


「チッ、MOKA……いやクソ女が!」


 男は状況の悪さにバツが悪そうにしながら

 捨て台詞を吐いて走ってどこかに去っていった


 俺はというと緊張感が解け全身の力が体全体に抜け痛みが走り意識が緩やかに落ちて……


 落ちていく中で、もかと呼ばれていた女性が何か言っている


「……くん!……ひなくん!!」



 どうして俺の名前を知ってるんだ



 目覚めると見慣れない白い天井が広がっていた

 白いシーツのマットレスに掛布団にカーテン

 ここまでくれば察する

 どうやら意識を落として病院に運ばれたようだ


 大学入学してまだ一日、こんな事母さんが知ったら卒倒もんだ

 まぁ望月清水たち新しい学科仲間たちには武勇伝ネタになるだろう


 改めて周りを見渡すとベッド脇に備えられていた椅子に一人の女性が座って俺の様子を伺っていた

さっきは顔をまじまじと見る余裕がなくて気づかなかったが


「目、覚めたのね」


「はい……星宮さん」


 服装もさっき男に乱暴されそうになっていた女性と同じだし、確定だろう


 星宮さんが呼んだのかすぐに医師が来て

 俺の診断がされたところ体の複数箇所の打撲だそうだ

 殴られ、蹴られでボコスカにやられたけど

とりあえず退院はすぐにできるみたいだ

幸い歩けもするから歩いて帰ろうかと思っていたが星宮さんがタクシーを病院のロータリで捕まえ俺も乗るように促され一緒にマンションへと帰ることになった


 後部座席に俺と星宮さんは並んで乗車したが車内では特に言葉を交わすことはなかった

ただ座席シートの上に着いた俺の手に彼女は

ソッと手を重ねた

 驚いたが、俺はその手を引っ込める事はしなかったというか、できなかった


 彼女の手はかすかに震えていたから

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