白月ミウの話
【00:00】
動画開始
【00:01】
画面を見上げ両腕を伸ばした男子学生(白月氏)が映る。背景には背の低い白色のフェンスとマンションや山などの風景が見え、屋上にてスマートフォンのインカメラで撮影していると思われる。
【00:03】
白月氏が口を開き、息を吐く
【00:05】
「あー、てすてすてす」
【00:08】
「えーっと……なんて言おっかな」
【00:12】
「うぇーい、アオバくん見てるー?」
【00:15】
「えっとあれだ、君がこの映像を見ることには俺はもうこの世にはいないでしょうってやつ」
【00:21】
俯き沈黙する
【00:26】
「何喋ればいいんだろな、ほんと」
【00:28】
「……まぁなんていうの?お前には悪いんだけど、ひと足先に死ぬことにしました的な話ですよ要するに」
【00:36】
「なんだかんださ、お前と話してるとたまに死ななくてもいいのかなって思ったりもしたんだけどな〜。結局死ぬんかーいって」
【00:42】
「あ、別にお前を責めてるとかお前がどうでもいいとかじゃないからな?俺が死にたかったのはもうずっと前からだし、逆にここまで保っちゃったのはお前がいたからっていうか」
【00:59】
「まぁだから、お前にだけはこういう遺書的なやつ?遺しとこうと思って。逆に言えばお前以外には遺しません!何言えばいいかわかんないしさ」
【01:07】
「とは言えお前にもなんて言っていいかわかんないけどさ。別の意味で。ごめんっていうのも違うじゃん?結局俺の人生なんだから」
【01:15】
「ありがとうとかも洒落臭いだろって話だし」
【01:21】
「まぁだから、これは俺の自分語りなんだけどさ」
【01:23】
俯く
【01:24】
「あれなんだよな。俺、昔っからずっと死にたかったし、みんな死ねって思ってたんだよ」
【01:29】
「まぁ知ってるか。しょっちゅう話してたし」
【01:36】
「まぁあれだな、再確認っていうか。アホの若松くんのためにわかりやすく?みたいな」
【01:42】
沈黙
【01:44】
「家庭の事情のせいにされてもウザいんだけど、俺の家、母親と2人でさ、その母親が頭おかしーのよ。ガキの頃、女の格好させられたりとかさ。まぁ名前からしてじゃん?」
【01:52】
「あー、まぁこれはお前にも何回か話したっけ?お前んちも母子だし、まぁだからこれはやっぱ違うか」
【02:01】
「うん、やっぱ今の余計だったわ。忘れて」
【02:07】
「お母さんがどうとかじゃなくて、俺はちっちゃい頃からなんか見るたびにイライラしてたし、野良猫とか、みんなが可愛いって言ってても蹴っ飛ばしたかったし、自分より小さい子とか死ぬほど嫌いだったし」
【02:21】
「自分の腹の中にざらざらした砂が詰まってる感じみたいな……ポエムきついわ。まぁ、なんか全部ヤで、全部キモくて」
【02:26】
「だからみんな死ねって思ってた。この世の全員、苦しんで死ねって」
【02:33】
「デカくなってからも同じでさ。いや、同じじゃないのかな?……クラスの奴らとかさ、別に俺、嫌いじゃなかったし」
【02:40】
沈黙
【02:42】
「好きなやつも、仲良いやつも、お前以外にもいたし、結構楽しかったんだよな学校生活」
【02:48】
「家帰ると最悪だったけど。あは」
【02:51】
「けど、それでも俺は、やっぱりみんな死ねって思ってた。俺自身含めて」
【02:58】
「仲良くても、好きでも、それでも、ふっとした瞬間にみんな苦しんで死ねばいいって、死にたいって思っちゃって」
【03:03】
沈黙
【03:08】
「その、お前以外は」
【03:12】
沈黙
【03:20】
「まぁだからじゃないけど、お前はさ、お前は」
【03:22】
「若葉だけは、死ななくていいよ」
【03:24】
「昔さ、幽霊っているのかなみたいな話したじゃん?もし、幽霊がいるなら、俺が死んだら知ってる奴みんな、殺すと思う。でも」
【03:26】
「お前は、お前だけは生きてても俺は、許せる」
【03:38】
「他のどんだけ仲良いやつも、家族も、みんな殺すけどお前だけは生きてていいよ」
【03:48】
「それが俺が言いたかった話」
【03:51】
「ごめん。こんなつまんない話して。まぁ、いつこの動画を青葉が見るかはわかんないけど、見たら笑ってくれりゃいいんで」
【03:58】
「じゃな」
─────────────────────
【03:58】
ツールバーはこの時点で止まっている
【03:58】
白月氏がスマホを下ろす
【03:58】
つまりこの映像はスマートフォンのインカメラで撮影されているものではなく
【03:58】
白月氏がスマートフォンに向かって何らかの文章を入力している(おそらく本映像が添付されていたという若松氏宛のメールである)
【03:58】
「あー、なんか、言い終わってからになっちゃうけど」
【03:58】
白月氏は口を閉じてメールを入力しており、音声の内容と映像は一致していない
【03:58】
「なんか、『死ななくていい』ってやっぱ違うか」
【03:58】
白月氏がスマートフォンをポケットにしまい、フェンスに向かって移動する
【03:58】
「死なないで、欲しいんだ。俺」
【03:58】
空は、ひどく晴れており、校歌を歌う生徒たちの声が聞こえる
【03:58】
「俺が死んだ後も、他のどんな奴が死んでも、宇宙人が攻めてきても地球が滅びても宇宙が爆発しても」
【03:58】
空を飛行機が横切って
【03:58】
「俺は、青葉には」
【03:58】
「青葉にだけは死んでほしくないんだ」
【03:58】
空はとても青く
【03:58】
沈黙
【03:58】
沈黙
【03:58】
「その、だからさ、なんていうのかな」
【03:58】
「青葉のこと、特別な、すごく大事な友達だって、思ってて、ていうか」
【03:58】
「だー!もー!なんでこんなこと飛んでからいうかな俺は!」
【03:58】
「マジでダサい。しょーもない」
【03:58】
「お前と話してると楽なんだよ」
【03:58】
「別に何から何まで本音で話してたわけでもないし、お前が俺のことわかってくれなくて悲しかったこともあったし」
【03:58】
「俺が猫殺そうとした時とか、『やめよ』って悲しそうな顔で言いやがってさ。ああやっぱコイツには俺のこのどうしようもないイライラなんてわかんないんだよなって思ったり」
【03:58】
「まぁだからお前が俺の完璧な理解者だとか、そういんじゃないんだけど」
【03:58】
「お前にわかってもらえなかった時、ムカつくんじゃなくてかなしいんだ」
【03:58】
「それが、だから特別ってことなんだとおもう」
【03:58】
沈黙
【03:58】
「ごめん」
【03:58】
「死んじゃって、ごめん」
【03:58】
夏のぬるい風が白月ミウの髪を揺らし
【03:58】
「お前のこと、大好きだよ」
【03:58】
「だから青葉、長生きしてね」
【03:58】
白月ミウがフェンスに腰掛け
【03:58】
「お願い。お前は俺の、大事な大事な友達だから」
【03:58】
白月ミウの体が、ゆっくりと、ベッドに寝転ぶように落下していく
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【03:58】
おわり
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【03:58】
沈黙
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【03:58】
沈黙
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【03:58】
沈黙
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【03:58】
だからつまり、しらつきさんは人を死なせているのではなく、若松さんを死なせていないんですね
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【03:58】
沈黙
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【03:58】
しね
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