タケの話『囁く幽霊』

死んだタケがミウくんの幽霊を見ていたことについて、蒼太はいまのところあまりアテにならなそうなので他の人に話を聞いた。


太一とか、隆平とか、あいつとよくつるんでたから確認したら、確かっぽい。


タケは高卒ってのは知ってたけど、訪問介護の仕事をしてたらしくて、もともと好きだったバイクでいろんな家に行きながらおじいちゃんおばあちゃんの世話をしてたらしい。


結構楽しそうだったし、自力で金稼げるのが嬉しかったんだろうなって太一は言ってた。太一もタケと同じ高卒組で、高校の時に免許取ってドライバー?やってるんだそうだ。(ああいうのって別にそれ用の免許が必要だったりしないのかな?)


なにより、タケは幼馴染の蒼太に色々奢ったり買ったりしたかったらしい。


俺からするとドン引きだけど、蒼太の学費のうち、一部をタケが払ってたという話も聞いた。


親はどういうつもりで納得してたんだろうとは思ったけど、そういえば蒼太の親ってなんかオロオロしてばっかりで、大人なのに引っ張って行ったり自分の意見を通したりってできないタイプだった。


そのことで、蒼太もいろいろ嫌な思いはしていたみたいだ。まぁ、これは重要な情報じゃない。


話を戻すと、その日も蒼太に誕プレ買う相談のはずで、太一と会ってたらしいんだけど


その日、つまりタケが最初に幽霊について自分以外のやつに話した時ってことだ。


同級生に送る誕プレなんて服かゲームでいいだろって適当に答える太一に少し怒ったあとで、タケは太い眉を深刻そうに歪めて、


「俺さ、高校の頃の同級生の白月に、ひどいこととかしてたかな?」


って聞いてきたらしい。


「え?なんで急に白月?」


びっくりした太一に、タケは続けた。


「なんかこの前、訪問先のばあちゃんからちょっといいお菓子貰ったから、蒼太にも食べてもらおうと思って仕事帰りに向かってたんだけどさ、そん時に」


ミウくんの声が聞こえたらしい。


「なんか、うまく聞き取れなかったんだけどさ。何かを俺に言ってるみたいで……ワードも不穏っていうか、難しい科学の用語みたいな後に、呼吸が…止まる?みたいなのがボソッと。それで、気持ち悪いなぁって」


その時はまだタケはそれが幽霊絡みだとは思っていなかった。というのは太一が言ってたことだけど。


1年以上経ってるとは言えクラスメイトだったやつが死んだらショックだろうし、今更実感が湧いて来たのかもしれない、と思ったらしい。


ただ、シウいうことが何度も続くとそうも言えなくなる。パーキンソン病という病気のお年寄りを車椅子からベッドに寝かせる時に声が聞こえて、手元が狂いそうになった、みたいなこともあって本格的に困ってしまった。


それで、もしかしたら祟り的なことをされるような、そういう何かを自分がしてしまったのかもしれないと思ったそうだ。


少なくとも俺から見てもタケはミウくんにそんなことはしていないし、太一もそう言ってたけど。


ただ太一は、見た目は日焼けしてて活発っぽいんだけど気に病みやすいというかだいぶ繊細というかなところがあって、めちゃくちゃまいってしまった。


そもそも高卒で働いてまで蒼太蒼太なのも、昔一緒に遊んでる時に、目を離したら蒼太が犬に噛まれたとかで怪我をしちゃったことが元なんだと太一は言っていた。隆平はエスカレーターから落ちたって言ってたから何が正しいのか知らないけど、


とにかく、自分のせいで人が痛い思いをするのは嫌なタチなんだということだ。


周りにも、ことあるごとに「白月って俺のことなんか悪く言ってなかったか?」「俺が覚えてないだけで、みんなから見て悪いこととかしてない?」みたいなことも聞いてまわっていたらしいし、相当だったんだろう。


そういえば俺にも1回電話が来た気がする。

あの時は誰とも話す気になれなくて無視してしまったけど。


隆平によると、なんか仏教の本とか、スピリチュアルな本とか、色々買ってて、成仏させるみたいなことを言ってお坊さんにも相談をしていたみたいだ。


けど、そう言った色々とは全然無関係に、ミウくんの声はタケの耳元で何かを囁き続けた。


筋肉質だった体が日に日に痩せていくのは、見ていられなかったそうだ。


ボソボソと、「できんよ。そりゃできん」と呟いていて、何ができないのか聞くと言葉を濁す、みたいな奇行もあった。そして二言目には「白月、俺どうすりゃいいんだよ」と。


タケは最後、友人のLINEグループで念押しするように「俺がなんかあったら蒼太によくしてくれ。白月がどうして欲しいのか、わかったから」と送っていたらしい。


亡くなる直前、蒼太に電話していたことが着信履歴からわかっている。

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