タイガの話

ゆうかが消えた後、タイガから留守電が入っていたのに気づいた。タイガは中学の頃から何度も入退院してて、ミウくんが死ぬ直前に高校を辞めてる


まだ生きてたんだ。


電話の内容は、ミウくんの幽霊についての、話だった。


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青葉、タイガだけど


……たく、間が悪いよな、出ろっての


まぁいいや


ちょっと長いけど留守電残しとくから


あれだな、久しぶりだな


オレが学校辞めて以来だから、もう2年……いや3年になるか?ああいや、白月が死んだ時に、一回話したっけか……びっくりしたよ、オレあん時病院だぜ?……あー、多分この辺で切られそうだな、お前せっかちだし


ダメだからな、切っちゃ


オレもうお前に架ける気ないから、ちゃんと聞けよ?


お前さ、白月の幽霊のこと、あちこち聞き回ってんだろ?やめとけよ、ろくなことにならない


……一方的に喋るのって思ったより難しいな


まぁいいや、えーっと、あれだ……何から話したらいいんだろうな……あ、あれだ


前提なんだけどさ、オレ多分そんな長くないんだよ


お前も知ってるだろ?病気


2年の夏前まではいけてたんだけどなー、今もさ、ベッドから話してんの


あの時点で余命1年って話だったから、保った方か……おふくろの方は保たなかったけどなぁ……健康なくせに先に死にやがって


まぁでも、そろそろ潮時


だからお前に、最後に忠告ってやつをしてやろうって思うんだよ


お前が白月のことどんだけ大事に思ってたとか、どんだけ仲良かったとか、見てりゃわかるし


まぁ多分白月も……いや、御託はいらねーよな


オレさ、この前白月に会ったよ


会ったっていうか、会ってた、かな?結構な間


最初は、夏の終わりだったと思う


夜中にさ、なーんか眠れなくて起きたんだけど


病室ってさ、静かなんだよな


いや、音は聞こえてくるんだけど、なんか不思議と静かな感じがして、夜はすげぇ嫌だ


なんか、幽霊でも出てきそうって言うかさ


出てきそう、でもないか


実際、白月が出たから


スマホでもいじろっかなって、そう思って体を起こしたらいたんだよな、家族用の椅子に座って、勝手にオレの漫画読んでんの


生きてる頃と変わんなかったよ


少しボヤけてる気もしたけど、でも長い髪も、あの嫌味っぽい伏目も、なんにも


「これ、つまんねー終わり方したよね」


白月は、そう言って漫画を置いた


オレは「おい」とな「なぁ」とか言おうとしたんだけど、なんかなぁ、声がうまく出なかった


余命のことネタにしたら、母親にめちゃくちゃ泣きながら怒鳴られた時の感じ?胸が圧迫されて、って言うのかな?肺の中の空気が音として形にならないみたいな、そんな感じ


なんだろうな、すごく申し訳なくて、すごく悲しかったんだ


それが何に対してなのかは、全然わからないけど


白月は、目を細めて、しばらく黙ってて


ふっと笑って、囁いたんだ


「観花梨子は、犯されて性病うつされて死んだよ」


え?って聞く前に、白月は笑いながら消えた


慌てて、仲良かったゆうかに「リコって今どうしてんの?ってラインしてさ


次の朝、「どしたの急に?リコちゃん亡くなっちゃったよ〜(泣)結構2-Bメン亡くなっててかなし〜(号泣)」って、返事が返ってきた


それからだよ


毎晩毎晩、白月はオレのところに来てあの頃のクラスメイトの名前と、その死因を囁いてった


「夜来蒼太は、家の窓から落ちて死んだよ」


「高橋一瀬は、歩道橋から落ちて死んだんだ」


「大空りくとは、高橋の後追って落ちて死んだよ」


そんなふうに、ただ、淡々と、国語の朗読かなんかみたいに。


確認してみれば、それはみんな本当のことで、そいつらが死んでることも、その死因も間違ってなくて、


だから幻覚でも幻聴でもなくて、


怖かった


だって仲良かった奴らが、どんどん死んでってて、そのことを夜が来るたびに聞かされるんだぜ?


どれだけ寝よう寝ようって思っても、ふっと夜中に目が覚めて、白月が見下ろしていて


「誰々が、何々で死んだよって」


その声がさ、少しだけ


ほんの少しだけ、楽しそうで


でも、オレが一番怖かったのは、オレの番が来たら、誰にオレの死因を聞かせるんだろうってことだった


なんでオレに聞かせるんだろう?なんで他のやつじゃないんだろう?そう思ってるうちに、気がついたらクラスメイトの半分以上が死んで、3分の2が死んで、ほとんど誰もいなくなって


気がついたら、クラスメイトのリストにバツをつけるのが日課みたいになって


早く、早くオレの名前を呼んで欲しかった


「名史大河は、病室で怯えながら死んだよ」


って


じゃないと、じゃないとさ


オレ、御袋は死んでて、親父はもう、オレのこと諦めてて


じゃぁ誰が、オレが死んだら、ショック受けてくれるんだろうなって、親戚付き合いも疎遠で、学校も途中でやめたオレの、こと


そう思ったら


誰かクラスメイトに、幽霊越しにでも伝えて欲しかった


でも、結局名前のリストにはどんどんバツがついていって、隣のクラスのやつとか、先生も、死んでて、そいつの家族が、君はあの子の友達?とか聞いてきて


オレが誰かってことも、わかんないまま病気で死ぬなんてって、思ったら、嫌で嫌で


それで3日前、白月はとうとう


「根尾ゆうかは、散々勘違いした挙句に、一番大事なものを潰されて死んだよ」


そう言った


あと、バツがついてないのは、オレと、お前だけだった


オレは、明日呼ばれるのが若松じゃないようにって思いながら、目を瞑ると、瞑った目の上から、白月に、ふっとさわられて


「名史大河は、なんにも関係できずに、病気で死ぬ」


そう言って、消えた


次の日、白月は、来なかった


は、はは


だから、さ


若松、やめとけ


もう白月に関わらんない方がいい


それと、オレが死んだら、一瞬くらい驚いてくれると嬉しい


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折り返しても、大河は電話に出なかった

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