腹ペコ令嬢『ハラへリーヌ・メシクワセーヌ3世。』
ここはユウフク王国のメシ・タイラゲール城。
国王『ハラへリーヌ・クイタリナーイ』の娘である『ハラへリーヌ・メシクワセーヌ3世』は食いしん坊すぎて国王直々に食事制限を設けられてしまう。
「パンがなければ、熱々のご飯に卵を入れて醤油をかければいいじゃない!」
大食いご令嬢は、教育係兼使用人執事である『アルフレッド・ベンガクオシエール』に愚痴をこぼしながら、今日も空腹と戦うのであったーー。
※ ※ ※
「じいや、おなかが減ったわ」
あたしは不満を口にするけど、本当に口にしたかったのは「燻製堂の牛タンハンバーグ」だった。お肉は柔らかくて、肉汁が溢れでてくる。ネギがセットになっているのもいいし、マヨネーズとソースをからめれば濃厚な味でお腹を膨らませてくれる。
お昼は是非ともあれを食したかった。
「ダメです、お嬢さま。食事は夜に一回のみと約束をしたはずです」
「なんでよ! あたしが栄養失調で倒れてもいいってわけ!?」
「そんなことは言っておりませぬ」
アルフレッドが胸に手を当てながら良い姿勢であたしを諭した。
もちろん、自分でもそんなことはわかっている。
でもお腹が空いて仕方ないんだからしょーがないじゃない!
「ふんっ、アルフレッドのケチ」
「なんと申されてもダメなものはダメです。さあ、国政の続きをしましょう」
「またお勉強!? むりっ! だって、お腹が空いて力が出ないんだもの」
片眼鏡をかけ、白い手袋を身に纏った老執事はあたしの愚痴を聞こうともせずに、部屋を出て行った。
豪華絢爛なお部屋。両脚をぶらぶらと揺らしながら背もたれに寄りかかる。金や銀の刺繍の入った絨毯。壁には絵画が飾ってある。
この国にはお金がある。裕福だ。周辺地域も貧乏じゃないし、食べ物も溢れている。戦争だって起きてないし、平和そのものだ。民も幸せそうに暮らしている。
なのに、あたしは好きな食べ物を好きなだけ食べられない。
確かに働いてないし、自分のお金じゃないし、ついつい食べすぎてしまうけれど、人生において食事の比重が高いので、これを疎かにしてしまえば、幸福の度合いは常に不幸に傾いてしまう。
あたしにとっての幸せは──世界中の美味しいご飯を食べまくって、お腹を膨らませることだ。
贅沢をするなとか平和ボケしているとか言われたらそうなんだけど、でも美味しいものを食べないと生きている意味ってないじゃない?
「お嬢さま、お客様が来ております」
「要件は?」
「直接会って話したいと」
「いいわ。入って、と伝えて」
あたしがテーブルの上でうなだれていると、アルフレッドが分厚い書物を手に取りながら、静かにお辞儀をした。
一体、誰だろう。
「どうぞ、こちらへ」
大きな扉が開かれる。
あたしはドレスをはたいて立ち上がり、お腹の前で手を組んだ。
まがいなりにも礼儀や作法は重んじている。
「メシクワセーヌさま」
入ってきたのはクチベタダケド・キモチツタエール侯爵だった。
お爺様である「ハラへリーヌ・オナカスイターヨ前国王」の知り合いでもあった貴族のお方。
あたしの婚約者だ。
「あら、貴方だったの。一体、なんの用かしら」
答えると、ツタエール侯爵はグッと唇を噛み締めて、真剣な目であたしを見たのだった。
「大変申し訳ございません……。
×××
部屋で一人、あたしは思考する。
お腹を減らしながら、ドーナツを食べる妄想をして。
あたしはユウフク王国「ハラへリーヌ・クイタリナーイ」の一人娘【ハラへリーヌ・メシクワセーヌ3世】。
あまりの大食いっぷりから、国の経済を傾かせたと言われるほどの“腹ペコ令嬢”。
でも、本当の正体はそうではない。
あたしの正体は日本という国から異世界転移をしてきた──現役JK「
これは大食い婚約破棄グルメ令嬢(中身は日本のJK)が、世界中の美食を味わい尽くして、“美食帝”『カネモチイモメイヨモ・ゼンブアール』にプロポーズされるまでのお話だ。
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テーマ『婚約破棄令嬢』
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