勇者に追放された鍛冶師、何故か勇者になってた
AteRa
第1話 追放されたら勇者になってた
「アルベルト・アッカーマン。貴様はもうこのパーティーには必要ない。この栄光の勇者パーティーから出ていけ」
「…………え?」
俺は勇者ジンにそう言われ、思わず固まってしまった。
現在、俺たちはダンジョン攻略を終え、近くの森の中で夜営をしているところだった。
周りを取り囲んでいるメンバーたちを見てもみんな薄気味悪い笑みを浮かべるだけで、誰も止めようとしてくれなかった。
「なんだその間抜けヅラは。もう一度言うぞ。お前は追放だ。このパーティーから出ていけ」
「……どうしてだ。俺は鍛治師としてずっと貢献してきただろ?」
今このパーティーを追放されれば、すでに三十七歳の俺に職が巡ってくるとは思えない。
一応勇者パーティーで鍛治師をやっていたという経歴があるが、今の時代には勇者パーティーなんてごまんといるし、その中でもうちのパーティーは中堅レベルだ。
そんな中途半端な三十七歳のおっさんより、若く将来のある鍛治師見習いの方が良いに決まっている。
ここで追放されてしまえば、それこそ俺は職なしまっしぐらだ。
「ハンッ! みんな言ってるぞ、お前の作った武器は使いづらいとな!」
「そんな馬鹿な……。みんなに合った最高の武器を作ってきたつもりだ!」
俺は声を荒らげて言い返すが、誰も擁護してくれなさそうだった。
この世界では十歳の時に天からジョブというものを与えられる。
例えば、勇者とか聖女とか、そういったものだ。
まあ勇者や聖女のような希少ジョブはそんなに数が多いわけではない。
と言っても、勇者というジョブを与えられた人間はおおよそ千人はいるとされているが。
だが俺のジョブは鍛治師であり、特に希少ジョブとかではない。
この世界に数十万はいるレベルの、ごく普通のジョブだ。
メンバーたちは聖人だったり、賢者だったり、全員が希少ジョブについているというのに。
前々から希少ジョブではない俺をパーティーに置いておくのはやめようとジンは言っていた。
だから俺はこうして追放されることとなったのだろう。
ごく稀に普通のジョブから希少ジョブに昇格することもある。
このパーティーにいる人間はほとんどがその経緯で希少ジョブになっている。
そのせいか、普通のジョブに対する劣等感が溢れていた。
「し、しかし……鍛治師がいなくなったら誰が武器の手入れをするんだ?」
そう尋ねるとジンはニヤリと笑みを浮かべて指を鳴らした。
すると森の奥から一人の人間が現れる。
彼はフードを深々とかぶっていて顔が見えない。
「あんたは……?」
俺が尋ねると、そのフードの男は低い声で言った。
「俺はレチム。今後このパーティーで鍛治師をすることになった魔導鍛治師の男だ」
魔導鍛治師。
それは鍛治師の上位ジョブで、これも希少ジョブとされている。
武器にエンチャントなどの魔法属性を付与することができるジョブだった。
「……本当に魔導鍛治師なのか?」
魔導鍛治師はそれこそ勇者よりも少ないとされている超希少ジョブである。
おおよそ五百人もいないと言われていた。
そんな人間がこの中堅パーティーに入ろうと思わないはずだが……。
少しの違和感を覚えていると、ジンは俺に剣を放ってきた。
その剣は俺が子供の頃に作り、ジンにプレゼントした【勇者の剣】という剣だった。
俺の中で一番の出来と言っても良いくらい気に入っている剣でもある。
「何を……?」
剣を放り投げられ俺が困惑していると、ジンは新しい剣をアイテムボックスから取り出した。
「こんな剣、俺にはもう相応しくない。これからはこの剣を使う」
そう言ってジンがその剣を握ると、青白く光りだした。
その光は魔法属性が付与されている証拠だ。
「本当に魔導鍛治師なのか……」
思わず呆然と呟く。
確かにこれなら俺の出番はもうないのかもしれない。
彼らとはもう二十年以上の付き合いだ。
でももう幼かった頃の彼らはもうおらず、みんな変わってしまった。
「もう一度言う。アルベルト、お前はもうこのパーティーに必要ない。出ていけ」
こうして俺は追放されるのだった。
***
俺は街に戻りトボトボと通りを歩く。
手元には一振りの剣。
——勇者の剣だ。
「はあ……これからどうしよう。職なしになっちゃったよ」
そう呟いて余計に落ち込む。
俺を雇ってくれるところなんてどこにもないだろうしなぁ……。
そんな風に思っていると、トタトタと俺の方に近づいてくる女性がいた。
「あ、アルベルトさぁん! 待ってください!」
「あれ、レイナじゃないか。どうしたんだ?」
レイナはギルドの受付嬢だ。
いつも俺がギルドで依頼などを受けていたから、いつの間にか顔見知りになっていたのだ。
「ええと、ステータスの更新を最近してませんよね?」
「ああ、そういえばそうだったな。一年してないもんな」
ギルドでは定期的にステータス情報を更新させないといけない。
すっかり忘れていた。
これを一年半サボると、自動的にギルドから除名とされてしまう。
一度除名されれば、再度登録するのにかなり労力が必要となるのだ。
「早めに教会に行ってステータス情報を貰ってきてください」
「ああ、わかった」
「それと、パーティーメンバーの皆さんにもそう伝えておいてください」
そう言われ、俺は気まずく視線を逸らす。
それを不思議に思ったレイナは首を傾げて聞いてきた。
「どうしましたか?」
「……ああ、俺、さっきパーティーを追放されたから」
「え!? 追放ですか!?」
俺が言うと、彼女は驚いたように声を上げた。
そして怒ったように眉を釣り上げると、頬を膨らませて続ける。
「なんで追放なんてしたんですか! あのパーティーを回していたのはアルベルトさんなのに!」
俺はそんな彼女に肩をすくめると言った。
「どうやら希少ジョブじゃない俺は必要ないらしい」
「もう! 人の価値はジョブで決まるってわけじゃないのに!」
怒ってくれるのはありがたいが、俺はもう受け入れてしまった。
だからレイナには苦笑いで返したが、余計にそのことが彼女を怒らせてしまったらしい。
「ちょっと、ジンさんたちはどこにいるんですか! 私が直接抗議してきます!」
「いいよ、別に。もう今更あんなパーティーに戻りたくないし」
俺の言葉に今度は彼女は心配そうにこちらを見てくる。
「本当に大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。——ともかく、俺はステータスの更新をしてくるよ」
そう言って俺は心配そうに見てくるレイナを置いて教会に向かうのだった。
***
「あー! アルだ!」
「ホントだ! また遊んでくれるの!?」
教会に行くと、隣接されている孤児院の子供たちが俺の方に近づいてきた。
俺は暇な時はよく孤児院に寄って子供たちの面倒を見ていた。
「ああ、すまんな。今日はステータスの更新に来たんだ」
「えー! つまんないの!」
「じゃあじゃあ、またすぐに来てね!」
確かにこれから当分は暇になるだろうし、顔を覗かせても良いか。
そう思っていると、教会の奥からシスターのルーシャが顔を覗かせる。
「アルベルトさん、いらっしゃい」
「ああ、お邪魔してるよ」
「ふふっ、子供たちはアルベルトさんが来るととても喜ぶので、ありがたい限りです」
ルーシャは上品にそう笑った。
俺はその言葉に照れて頭をかきながら言う。
「まあ、今日は子供たちと遊びに来たんじゃなくて、ステータスの更新に来たんだ」
「ああ、なるほど。確かに前回からかなり時間が経ってますもんね」
そして俺はルーシャに連れられて教会の奥に行く。
もちろん興味津々の子供たちもついてきていた。
「それじゃあ水晶に手をかざしてください」
俺は言われるまま水晶に手をかざし、自分のステータスを更新していく。
まあレベルは多少上がっているだろうが、そこまで変化ないだろう。
そんな風に思っていたが——。
——————————
名 前:アルベルト・アッカーマン
ジョブ:勇者/鍛治師
レベル:53
スキル:******・レベル5/********・レベル3/鍛治スキル・レベル10
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スキルのところに謎のスキルがあるのはいつも通りだ。
レベルもまあ妥当な数字で、まさしく中堅の数字だった。
しかし——変なところが一つある。
なぜか俺のジョブが二つになっていて、勇者が追加されているのだった。
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