〜21〜クルッカーの手羽先唐揚げ、タルタルはご自由に。
前に撮影で来た桜の木陰にシートを敷いている、そこには三人の人影があった。
「久しぶりだね、玄之くん」
「早く食いたいんだけど、そんな挨拶は後でもいいだろ? メガネは黙ってろ」
「あ゛? 脳筋こそそろそろ口を閉じたら?」
「はぁ、喧嘩はほどほどにな。……ここを会わせるといつもこうだ。もうどうにかならないものかな……」
会った瞬間から凄く猛烈に激しい口喧嘩。
口論になるほど仲がよろしく無いわけではないのだが、性格が合わないというか、真反対の人というか……。
「煜さん、今日は唐揚げが入っています。塩レモンなのでサッパリしてて美味しいですよ?」
「それは良いね、二人も食べるなら喧嘩しないでね」
「「了解」」
息ピッタリに挨拶をする二人。不仲説とかあるけど本当にそうなのだろうか? ……わからない。
でも仲良くできるなら良いに越したことはない。
でもお弁当足りるかな……? 二人が食べるとは聞いていたけどこの前にダンジョンに行ったんだとか。
お腹が空いているに違いないので少し料理を増やしますか。
材料はないので少し味は落ちるが【料理人 レベルⅦ】で食材を無から有で作って、もう一品料理しますか。
この時に明確な味を想像しないと見た目はスイカなのに中身はいちごみたいなものができてしまう。
ドッキリとしては丁度いいのだろうけど……使いたくはないかな。
「そして今回はクルッカーの手羽先唐揚げを作りたいと思います」
「「「「おー」」」」
クルッカーとはダンジョンで出現する大きな鶏のこと。
卵も絶品だがクルッカーの肉はタンパク質が豊富でミネラルも沢山取れる食材。
完璧に理解できている食材なら味と見た目だけではなくその食材の栄養素も摂れるのだ。
塩レモンの唐揚げもクルッカーの胸肉を使用している。
バザールに行けば安く、美味しいのが買えるのでオススメだ。
……話が逸れたが「今から唐揚げ作るので待っててくださいね。【紙職人 レベルⅤ】発動ら紙皿を作成。【料理人 レベルⅦ】発動」
そう言うと玄之が手に持った紙がグシャグシャにまとめられ丸い球体へと変化する。
そして粘土を分けるかのように紙が複数個に千切られ、形をグニャグニャと変形させる。
それと同時に光から手羽先や小麦粉などの食品が生成され、手羽先に小麦粉などを纏わせる。
そして正宗さんが行使した魔法の炎を動かして丸く浮いている油を直火で温める。魔法で鍋が形成されているため燃え移ることはないしボウルのようにすれば醤油ダレを作れる。
そしてタレに急速に漬け込まれた手羽先は銅のような鈍い色を放っている。
そしてまずは弱火で火を通し、二度揚げでカラッとさせる。
皆玄之の使う不思議なスキルや魔法に驚きを隠せない。
そして出来上がったのは上等な紙皿が複数枚。
その上にササッと唐揚げが乗り、家に保管しておいたタルタルソースを簡易転移でこちらに持ってくる。
それをかければ……!
「完成、クルッカーの手羽先唐揚げ、タルタルソースはご自由におかけください」
「うまそー俺が一番にいただき!」
「おい脳筋! それは僕が狙ってた大物だぞ!」
そんな変わらないと思うけど。均一に一つ100グラムくらいなんだけど。変わったとしても数グラム程度。
「まぁまぁ、公平に私が分けるから待っててね?」
ヒロインにササッと紙で作ったトングを渡し、小さな紙皿に取り分けていく。紙で作ったからといえ耐久性は折り紙付き。水だって弾くことも出来る。
ちょっとしたナイフを作れば食材を切るには便利になる。
「俺にもくれる? 琉偉」
「わかってるよ、煜」
イチャイチャここでしないで、他の攻略対象のはずの正宗さん達は分けられた唐揚げに夢中だ。
あ……タルタルソースを多めに取った。
二人はこれでいいのか? ヒロインより唐揚げなの?
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『……同時詠唱に、並行操作……? やはり煜が目をつけるだけあるな……』
『でもよ、こんなことお前でもできるのか? 高等技術だって聞くぜ?』
『そこが玄之くんの謎なんだよ。人よりもスキルレベルが高いというか、技術自体も高難易度を易々とやるとか』
唐揚げを作る横では考察が織りなされていた。
琉偉さんは常時心のパスを繋げており、どこでも話せるようにしている。
その代わりに何をしているのか、考えていることは隠蔽しない限り丸わかりである。
それを使うことで学園祭の時も煜は感じ取れたのだ。
『昔からこんななのか? 煜』
『段々と上達していってる、というよりはどんなものでも吸収して自分のものにしている感じかな。でも昔から運動とかはダメだったな……』
『私ももう一年以上いるけどそこを見たことがない。稀になんでも見透かされているような感覚になる……』
『それはあるかも、魔術を極めているのに知らない魔法を使うし。僕が推測するに魔法やスキルを網羅しているような感じなのかな?』
あらがち間違ってない推理ではある。
実際にこのリドル・シャイン学園というゲームのプログラムを組み、デバッグをしたのは玄之の前世である。
だから前世の記憶さえあれば全てのスキルを使えるようになり、一人で全てをこなせるようになる。
『『『『わからない……でも唐揚げ美味しそう……!』』』』
だが目の前にある唐揚げを見て我慢ができない。
最初に唐揚げの誘惑に負けてしまったのは筋肉頭の永だった。
それを見て頭脳派魔術師、正宗まで流れていった。
奪い合いをする二人を見て後の煜達もクルッカーの手羽先唐揚げを口にする。
ふわっとしたお肉にサクサクの衣を纏った手羽先。
細かな骨は無く軟骨もコリコリとしている。コラーゲンやタンパク質を摂ることが出来るので筋肉もニッコリ。
ダンジョン帰りの体にはしょっぱい塩分やタルタルソースの甘さが染みる。
そこに塩レモン唐揚げを食べ、麦茶をグイッといくと口が全てリセットされる。
無限ループに陥り食べるのが至福と感じる。
「「「「美味しい……!」」」」
「口の中に広がるジューシーさ」「ガッツリとした味!」「だけど女の子でも食べれるようなタルタルソース」
「エデンだ……! 美味し過ぎる」
息ピッタリに言えているが実を言うと食べてる間に考えておいたセリフである。
なんかこれが楽しいらしくたまに玄之の料理を褒めている。
「ありがとうございます、そう言ってもらえると嬉しいです」
だがさらっと受け流されている。
みんなに麦茶をさっと汲み直す、人間業を超えている技量で一瞬で汲みそして置くのも最低限の動き。
それをたった数秒ほどで全員分をこなす。
無自覚でやっているあたりがヤバさを際立たせる。
意外にも玄之はすごい奴なのだ。
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