4-23:復讐のマシンドール
「あの子が出たですって!?」
エルさんはそう言って立ち上がった。
いったい何が……
「現在神殿周辺では警戒態勢が敷かれています。我々シーナ商会にもハミルトン家から協力の要望が入っています」
「わかった、市民に被害が出ないようにすぐに警戒を。うちの戦闘メイドたちにも厳戒令を出して。私はすぐに神殿に行ってくるわ」
そう言うエルさんに私は思わず声をかけた。
「エルさん一体何があったんですか!?」
「はぐれのマシンドールが現れたのよ。あの子は…… 私たちを、このユーベルトを憎んでいるわ」
エルさんはそう言って悔しそうな、悲しそうな顔をする。
「あの子は、エルピートゥエルブは見捨てられた子なの…… あんなことさえなければ……」
エルさんはそう言って悲しそうな顔をする。
「僕たちも一緒に行っていいですか?」
「アルム君たちが? そうね、君たちの力は分かってる。一緒に来て」
エルさんにそう言われ私たちは一緒に女神神殿へと向かうのだった。
* * *
「すごい、なんて大きな神殿なんだ!」
ユーベルトの郊外に近い場所にある女神神殿は、相当な大きさだった。
エルさんは神殿に入り礼拝堂にいた神官の人に声をかける。
「シーナ商会のエルよ。はぐれのマシンドールが出たって聞いたのだけど、司祭はいる?」
「ああ、エル様。よかった、今赤竜さまが不在の為どうしたらいいか皆困っていたのです。司祭様は執務室です。どうぞこちらへ」
広い礼拝堂は本当に大きく、竜でさえ中に入れそうなほどだった。
「噂では赤竜は通常人の姿で、何かあると竜の姿に変わるそうです。なので女神神殿の守護者だった赤竜が中でも動けるよううにとこの礼拝堂は広く作られていると言われていますね」
私が感心しているとマリーが説明をしてくれる。
「まぁ、セキおば…… セキ姉さんは竜の姿になるのは嫌がっていたわね。旦那さんが人だったからもあるけどね」
「旦那さんが人?」
「そうよ、セキおば…… いや、セキお姉さんは子供は出来なかったけど旦那さんと一緒にジルの村にいたのよ。もう何十年も前からね」
エルさんのその説明に私はマリーたちを振り返ったが、首を振っていて知らないようだ。
となると、なんでエルさんが慌てて神殿に来たのがわかる。
つまり今この神殿には守護者たる赤竜がいないということになる。
バンッ!
「はぐれのマシンドールが出たって聞いたけど、ルミナ大丈夫!?」
「これはエル様。いらしてたのですか?」
いきなり扉を開き執務室に入るエルさん。
中には初老の女性と数人の神官たちがいた。
そんな中エルさんはずかずかと初老の女性の元まで行って抱き着く。
「よかった。なんともないようね」
「あの子は神殿には入ってきてませんよ、セキ様がいると思って警戒しているのです」
大きく安堵したエルさんはいったん彼女から離れる。
そして頭のてっぺんからつま先をもう一度見てもう一と安どの息を吐く。
「まったく、少し見ない間にまた年取ったわね?」
「エル様、それは言わない約束でしょう? 私たちとあなたたちでは生きる時間が違うのですから」
そう言って初老の女性は苦笑する。
そして私たちを見てエルさんに聞く。
「ところで、そちらの方々は?」
「ああ、えっとルミナにならいいわよね? 彼たちはイザンカ王国の第三王子、アルム君たちよ」
「えっと、アルムエイドと言います」
エルさんに紹介されて慌てて私もあいさつする。
とはいっても、自分が王子である自覚はない。
何せその辺の記憶がすっぽりと抜けているのだから。
「まぁまぁ、イザンカ王国の殿下がわざわざこちらまで? 私はこの神殿の司祭をしているルミナと申します」
そう言って彼女は貴族がするようなお辞儀をする。
「あ、いやその、実は僕は記憶を失っていて自分がイザンカの王子だったことを忘れているんですよ」
私がそう言うと、ルミナ司祭は怪訝そうな顔をしてからエルさんを見て納得したような感じだった。
「エル様が関わっているという事は、何かあるのですね?」
「まぁ、ね。ところではぐれのマシンドールが出たってこと詳しく教えてくれる?」
「はい……」
そう言ってルミナ司祭は話を始めるのだった。
* * *
そもそも、はぐれのマシンドールとはいったいどういうものだったのか。
事情を知らない私たちにもルミナ司祭は分かるように話をしてくれた。
まずはぐれのマシンドールだが、約四十年前にエルピーの姉妹機として誕生したものだった。
エルピートゥエルブは十二番目の試作機だった。
今までのマシンドールは防衛の要としての役目を失い衰退の一途をたどっていた。
なので職人たちはマシンドールの新たな活用方法として屋敷などで使う使用人としての活路を見出そうとしていた。
マシンドールの記憶媒体である魔晶石はコピーができるので、使用人としてのスキルなどを覚えさせればその魔晶石を複製して屋敷などで使う使用人として生産ができる。
なので最初は防衛用のマシンドールにそれをやらせようとしたら出力が人のそれに比べ段違いの為、皿は割るわ、掃除をさせれば力加減がわからず破壊活動になるわ、しゃべれないから意思疎通ができないわでなかなか思うようにいかなかったらしい。
そこでこのユーベルトの当時の領主がシーナ商会に応援を要望したのだ。
マシンドールの開発自体は魔法学園ボヘーミャで行っていたが、使用人としてのカスタムは魔法学園からは断られていたそうだ。
何でもデチューンを嫌ったらしい。
なのでシーナ商会に話が回ってきたのだが……
「うちのメイドって戦闘メイドしかいないのよね……」
話の途中でエルさんはそう言って視線を泳がす。
つまり、普通の使用人にはできず防衛を得意とする用心棒のようになってしまうのだったらしい。
それはそれである一定の需要はあったらしいが、それならば元の戦闘用を入手すればいいのでマシンドールの売れ行きはさらに下がったらしい。
そこで普通の使用人にするために今度は神殿にもシーナ商会から協力を申し込んだらしい。
当時小間使いだったルミナ司祭がその担当を任され、エルピーワンから家事一般について教育をしていたらしい。
ただ、やはりここでも問題がありエルピーワンは力が強すぎ家事に失敗。
次いでパワーを押さえたエルピーツーを作成し、記憶媒体の魔晶石だけ移管して継続的に教育をする。
そしてなんだかんだと機体自体を改善とデチューンを繰り返しとうとうエルピーイレブンでそこそこの成果を出し始めた。
当然それまで何年も一緒に頑張ってきたルミナ司祭はある一定の感情を持っていた。
そしてその陰にはエルさんも一緒になってルミナ司祭に協力をしていた。
「エル様は私の姉のようにいろいろ手伝ってくれたものです」
ルミナ司祭は懐かしそうにそう言う。
しかし次の時には苦渋に満ちた表情になる。
「しかしあの子は最後の機体に入れ替えられた時に暴走を始めてしまったのです」
その言葉にエルさんも同じく苦渋の表情をするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます