3-19:お披露目の模擬戦
レッドゲイルにあるオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」は、実は中身が本物でなく我がイザンカ王国製の物だった。
ある程度は搭乗者の魔力量で性能が向上はするものの、基本はスピードは有るがパワーが低い。
なので新型の素体を開発して秘密裏にその中身を入れ替えると言う事を行っていた。
「アルムエイド殿下、やってくれましたな! 流石未来の婿殿だ」
マルクス叔父さんはそう言って豪快に笑う。
出来あがったオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」は何とエイジが非常に適合していて、ミリアリア姉さんの観測水晶でも安定して扱うのは数値上エイジが適任だった。
「まぁ、戦にでもならない限りこのオリジナルの出番は『鋼鉄の鎧騎士祭』くらいですわ。エイジもイザンカ王家の血筋を引く者、このレッドゲイル護衛に今後オリジナルもわざと使用してその存在を広めるのには適任ですわね」
ミリアリア姉さんはそう言って水晶を覗くのをやめる。
そして今だにオリジナルを動かしているエイジの様子を見る。
『あははははは、すげぇ、前の機体よりずっと反応もパワーもすげぇ!』
そう言って大剣で藁人形を切り裂く。
当然ながら今回武器も特殊なものを用意してある。
刀身に付与魔力を発動させる魔晶石を埋め込んでおり、切りつける瞬間だけ光の刃が刀身を包み、その切れ味を数段引き上げる。
盾も、もともとミスリルの盾があったけど、ちょっと細工してインパクト機構の魔晶石をつけた。
これは盾に相手の武器がぶつかる瞬間に魔力を流し込むと盾自体が相手の武具を弾く機構。
まぁ、ミスリルで出来た盾を傷つける事は魔法的にも物理的にも難しいけど、さらに武器がぶつかる瞬間にその武器を弾き飛ばす事になればその優位性は格段に上がる。
「エイジ、盾ごと体当たりしてインパクトブロックを発動してですわ!」
まるで紙でも切り裂く位に簡単に藁人形を切り裂いていたエイジに、ミリアリア姉さんは盾の性能を確認するためにインパクトブロックをさせる。
と言うか、体当たりに盾を構えてぶつかって行ってインパクトブロックかませばもの凄い効果が出るんじゃ?
そう思っていた私の目の前でエイジがインパクトブロックを藁人形にかました。
途端に……
ぼっしゃぁ~~~んッ!!!!
「きゃぁっ!!」
「【絶対防壁!!】」
見ていた私たちの所へ粉々になった藁人形の破片が飛んで来た。
正直インパクトブロックしながらの体当たりは強烈だった。
標的の藁人形は一瞬で粉々に飛び散り、芯金の鉄の棒すら飛び散ってしまった。
私が慌てて【絶対防壁】を展開したので藁だけでなく飛び散った鉄片も防御し無かったら結構な被害だったのではないだろうか?
「エイジ! 気をつけんかこのバカ者っ!!」
ちゃんとマルクス叔父さんやイザーガ兄さんにも【絶対防壁】を展開していたのであっちも大丈夫そうだ。
ちなみにマリーやカルミナさん、アビスは飛び散って来た破片を全部避けているのでそっちは気にしなくていい。
『わりぃわりぃ、しかしこれすげーな!!』
「エイジ! それ魔力量結構使うから多用しちゃダメだよ!!」
自分の盾をかかげて喜んでいるエイジに私は忠告する。
と言うか、普通ならあれだけ動き回っていたらエイジの魔力だってそろそろ切れるんじゃないだろうか?
そう思っているとミリアリア姉さんがエイジに言う。
「ここまでですわ! 機体の確認をしますわ。エイジ、各座して降りなさいですわ!」
ミリアリア姉さんにそう言われてエイジはオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」をしゃがんで各座させ、胸の扉を開いて拘束具を外し降りて来た。
「いやぁ~、すげーよこれ! 今までのうちの『鋼鉄の鎧騎士』と比べ物にならねぇよ!」
「エイジ、魔力切れは大丈夫なの?」
普通はあれだけ連続稼働すると、魔力切れを起こし最悪気絶してしまう。
しかし当の本人であるエイジはあっけらかんとしていた。
「昔は魔力切れ起こしてぶっ倒れたけど、最近はまだまだ行けるぜ?」
そう言うエイジとミリアリア姉さんを交互に見ながら私は聞く。
「そうなの?」
「これはまだはっきりとしませんが幼少期に魔力を限界まで使い、意識を失う程の事を繰り返すと魔力総量が増えると言われていますわ。しかし気をつけないと魂まで魔力変換してしまい、死んでしまう者のいると言われている危険な方法ですのであまり表立っては知られていない方法ですわ」
ミリアリア姉さんがそう言うのを聞いて私は驚きエイジを見る。
「大丈夫だって。今は加減が分かるからな。ヤバくなったら気絶する前にやめてるって」
「エイジぃ~」
正直私の魔力量は異常だった。
思い当たる節は、転生時のあの女神。
確か私の魔法に対する素質を高くしてくれているはずだった。
おかげでもの凄い魔力量を誇っていて、確かに大抵の魔法は使えてしまう。
しかし普通の人はそうはいかない。
生まれながらの魔法へ対する素質がある程度決まっているようで、下手をすると魔力総量自体も低い人もいる。
ある程度血筋補正はあるようだけど、総じて魔力総量を引き上げるなんて聞いた事が無かった。
「まぁ、確証がないのでエイジの場合は特別なのかもしれませんわね」
そう言ってミリアリア姉さんは魔道技師たちに指示を飛ばし始めるのだった。
* * *
「模擬戦ですか?」
「うん、そうだね。オリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』の運用を今後内外に広めるために、エイジを正式なオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』の搭乗者としようと思ってね。これは伝説のオリジナル『鋼鉄の鎧騎士の』適合者が現れたという宣伝にもなるからね」
イザーガ兄さんはそう言いながら悪い笑みを浮かべる。
この人もなぁ~。
国防と言う事で、たぶんアマディアス兄さんとはもう裏で話をつけているだろう。
私とミリアリア姉さんに急いで新型の「鋼鉄の鎧騎士」をレッドゲイルに持って来させて、オリジナルの復活をさせたわけだから。
「でも模擬戦ですか?」
「そうだね。旧型を相手に数体でオリジナルに取り掛かる様子を何度か見せつけて噂を流す。エイジがオリジナルの適合者としてここレッドゲイルで名を広めさせるためにね」
にっこりとそう笑うイザーガ兄さん。
しかし私は気になっている事がある。
なので聞いてみる。
「ドドスって本気でうちに攻めてくるつもりですか?」
「……アルムエイド君は時々本当に鋭いよね。まぁ、アマディアスからある程度聞いていると思うけど、それは事実だね。何時攻めて来るかはまだ分からないけど、既にユエバの町へのドドスからの冒険者やキャラバンの往来は減り始めている。そしてこちらからあちらの国へ行くにはいろいろと検問をされ始めているらしいね」
既に動きがあった。
ユエバの町は国境の砦に近い。
そこでの冒険者やキャラバンの往来が制限し始められるとは……
「とりあえず模擬戦をやろうと思う。アルムエイド君たちもそれは見ていくだろう?」
「そうですね、万が一新型に不具合があればすぐに修理できますからね。それと、魔鉱石の加工の方はどうなってますか?」
「魔力炉は君のお陰でブルーゲイルから魔晶石が運び込まれてどんどんと魔鉄の生産が続けられているよ。残り十七体分は何が何でも精製をするから、その後の新型の『鋼鉄の鎧騎士』の生産を頼むよ」
「分かりました」
私とイザーガ兄さんは頷きあってエイジたちの元へ行き模擬戦の日程を話し始めるのだった。
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