3-13:新型作成開始
この世界には身長六メートル前後の巨大な人型の鎧騎士が存在する。
選ばれし騎士は特殊な鍛錬を経てこの巨大な人型鎧騎士、通称「鋼鉄の鎧騎士」に乗り込み国家の安全を守る大役を担う。
「とまぁ、今や『鋼鉄の鎧騎士』は各国の守りの要、そして戦争を左右させ場合によってはその戦争自体の代理役として一騎討を行う程の存在なのは説明しましたね?」
エマニエルさんは目を輝かせ私とミリアリア姉さんの前で教鞭を振るう。
ま、この人正直「鋼鉄の鎧騎士」オタクと言うか、魔法学園ボヘーミャにいた頃は「鋼鉄の鎧騎士」を専考で研究していたほどの「鋼鉄の鎧騎士」好きだ。
今回私たちが新型の「鋼鉄の鎧騎士」を作り上げイータルモアが持って来た「連結型魔晶石核」を搭載しても耐えられる機体を作ろうと言う事になると、しっかりと口出ししてきた。
が、意外とその情報は重要だった。
「つまり、オリジナルはその機体構造の設計思想から違うと言うのですわね?」
「はい、ボヘーミャに残された魔王と当時の学園長の資料がありまして、『エルリウムガンマ』と言う未知なる素材を使い、骨格の内部が空洞の『くろすばんど』なる方式を採用し、魔力伝達を格段に上げたと記されていました」
エマニエルさんはそう言って眼鏡のずれを直す。
「エマニエルさん、その未知なる素材『エルリウムガンマ』って何なんです?」
「残念ながらその資料は存在してませんでした。しかし機体構想図は目にした事があり、当時のオリジナルはその体は人間の構造に近く、基本となる骨格に各種動力系の魔晶石が配置され、内臓部に搭乗者と連結型魔晶石核が二つ、搭乗者の背中位置と機体腰部に設置されていたようです。そして学習型魔晶石により使えば使う程各種行動の合理化が進み、最終的にはある程度自立して動けるようになるとか」
何それ?
前世の世界でもそこまで高度な思想で重機や車でさえ作られていなかったと言うのに。
いや、そう言えば電気自動車でAIを使った自動運転をやっていたとかあったらしいけど、安全面から完全普及までには至らなかったような……
そもそも、安全装置があるはずのハイブリット車に私はやられてこっちの世界に転生したと言うのに……
「本当に、魔王は天才でしたのね…… しかし、そんな未知なる素材『エルリウムガンマ』や教育型魔晶石など、完全に今の技術を上回っていますわ」
確かにミリアリア姉さんの言うとおりだった。
私もこっちでミリアリア姉さんといろいろやってある程度の知識は身に着いたけど、イザンカ製の「鋼鉄の鎧騎士」は他国の中古の「鋼鉄の鎧騎士」たちを参考に独自の開発が行われた機体だった。
特徴は何と言ってもそのスピード。
他国の機体よりその動きが圧倒的に早い。
しかしその代わりに機体が軽く強度はもろく、パワーが無いので非力だ。
戦闘方法も一撃離脱を得意とし、槍などで突撃して相手にダメージを与えたら持ち前のスピードですぐに戦線を離脱する。
それがうちの「鋼鉄の鎧騎士」の戦い方だった。
そんなうちの機体を軽く凌駕する技術がその昔にはあったと言う事だ。
「魔鉄の成型を始めますが、少し考え方を変えた方がいいですわね…… 確かに外骨格で無く内骨格に色々つけた方が構造的には有利ですわ」
ミリアリア姉さんはそう言って図面にバツ印をつける。
一つ二つとそのバツ印が増えて行き、最後にはすべてにバツ印をつける事になっていた。
「駄目ですわね、やはり設計思考自体から考え直す必要がありますわ。単純に動力の魔晶石に魔力伝達が出来ればいいわけではありませんわ。エマニエルさんのお話を聞く限り、オリジナルは内部骨格、うちのは外部骨格の考えですものね」
そう言ってミリアリア姉さんは操縦者となる人の姿を描く。
そしてそこから搭乗者を取り囲むように髑髏のような内骨格を書き始める。
「なるほど、確かにこれの方が理にかなってますわ…… ましてやオリジナルのように外装が有るのが前提であればこれは正しく素体も素体。これ単体でも当たらなければどうとでもなりそうですわ!」
いくら強力な攻撃でも当たらなければどうと言う事はない。
確かにその通りだが、完全に今までのうちの「鋼鉄の鎧騎士」との設計思考が変わってしまった。
と、私は気が付く。
機体操作補佐の魔晶石は頭部だけでなく操縦者の近くにも設置した方がいいのでは?
「ミリアリア姉さん、もし『鋼鉄の鎧騎士』の頭部が破壊されたらどうなっちゃうの?」
「機体操作の補佐をするのは頭部ユニットに集中してますわ。これは各国が同じ思想なので『鋼鉄の鎧騎士』の共通する弱点でもありますわね。ここを破壊されると機体操作の補佐が出来なくなり、動かなくなってしまいますわ」
「じゃぁ、オリジナルの動力源みたいに二つ設置できないのかな? ミリアリア姉さんのこの素体骨格だと魔力蓄積する為の魔晶石が不要になるから胴体に余裕がかなりできるよね?」
「なるほどですわ…… 今までのイザンカの機体よりかなり胴体部にも余裕が出来ますわね!」
「であればアルムエイド様がいれば魔法付与の魔晶石も装備出来ますね。と言う事は、詠唱抜きで力ある言葉を発せれば『鋼鉄の鎧騎士』を操作しながら魔法も使えると言うことになります!」
エマニエルさんも目を輝かせながらミリアリア姉さんと一緒に図面に何か書き込む。
この時点でエマニエルさんには私が魔晶石に魔法も付与できることがバレている。
まぁ、私じゃないと出来ないから、うちの産業となっている魔晶石に魔力再充填とは離して考えてもらっているけど。
「いいですわね! あとは、これもこうしてですわ!」
「であればこちらにはこうした方が」
「あ、だったら制御系と動力系は一旦切り離して配置して~」
三人でどんどんアイデアを出して図面に色々と書き込んで行くのだった。
* * * * *
「それで、これか……予算を完全にオーバーするな……」
「そ、それはそのですわ……」
「しかしアマディアス様! これが完成すれば伝説のオリジナルにも匹敵する機体になると思われます!」
「あ~、僕も魔晶石の再充填手伝うから」
アマディアス兄さんの所へ行って三人で考えた最強の「鋼鉄の鎧騎士」の「ヴィ作戦強化版」を提出する。
魔鉄はあっても三体分作れる自信が無かった。
多分一体と、それをテストベースに必要な物、不要な物を分けて精査して続く残り二体を作成して、残りの十七体分をコストダウンして作らなければならない。
「ふう、分かった。予算増額を認めよう。だが、あのオリジナルだけでも確実に復活させてくれ。あれが張子の虎である事がバレるのはまずいからな」
アマディアス兄さんはそう言って認可のサインとはんこうを押す。
それを受け取った私たちは大喜びでお礼を言ってからアマディアス兄さんの執務室を後にする。
「間に合ってくれればいいのだがな……」
最後にアマディアス兄さんが何か言っていたようだけど、聞き取れず私はミリアリア姉さんに背中を押されて部屋を出ていく。
そして今度こそ新たな「鋼鉄の鎧騎士」作成を始めるのだった。
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