3-10:魔鉱石精製


 私が流し込む魔力により、新たな魔力炉は動き出した。



「一度に入れず前の魔鉱石が溶解したら次を入れてくださいですわ!」



 ミリアリア姉さんはそう言って指示をする。

 熔解が始まった魔鉱石に次々と魔鉱石が入れられてゆく。



「これほどの熱量をこうも簡単に維持できるとは……」


 イザーガ兄さんはその様子に思わずそうつぶやく。

 そしてこの工房自体の温度もどんどんと上がってゆく。



「ちょっと暑くなってきたし、空気も悪くなってきちゃったね? それじゃぁ」


 私はそう言って魔力炉の上の方に空いている窓の方へ向かって片手をあげる。

 精霊魔法は使えないので、風魔法で循環は出来ないけど空気自体を【念動魔法】で動かす事は出来る。

 意識を集中してそこにあるはずの空気を窓の外へと動かすと、工房の気圧が下がって空いた扉の方から新たな空気が流れ込んでくる。


 それを魔力炉に魔力供給しながらやっているとイザーガ兄さんが更に驚く。



「アルムエイド君、まさか魔力供給をしながら他の魔法を使っているのかいっ!?」


「え? ああ、【念動魔法】で上の窓から空気を外へ追い出してるんですよ。魔力炉は排気煙突で出来ますけど、部屋の空気はそうはいきませんからね~」


 そうにあっけらかんと言うと、イザーガ兄さんは呆れたような顔になる。


「いやはや、アルムエイド君やエイジが無詠唱魔法を使えると言うのは知っていたけど、まさか二つの事を同時に出来るだなんて、まさしく魔法王ガーベルの再来だね」


 いや、実際にはもっと同時に色々と魔法は使えるのだけど、今は黙っておこう……


 だってそんな事が分かったらイザーガ兄さんがきっとアマディアス兄さんと同じ悪い笑みを浮かべるだろうから!!



「アルム、相変わらずお前はケタ外れだな……」


「なんだよエイジ、君だってこのくらいできるだろう?」


「バカ言うなよ、二つ同時だなんて普通は出来ないっての!」


 

 エイジは私の横に来てそう言いながら魔力炉を見上げる。

 魔力炉に備えられた天井から突き出した煙突からはモクモクと煙が上がっていくのが天窓から見えていた。



「きますわ! 熔解された魔鉱石が流れ出してきますわよ!!」



 ミリアリア姉さんのその言葉に魔力炉の下の方を見ると湯口から白に近い色のどろりとして液体が流れ始めた。

 それは細い溝を流れて行きだんだんオレンジ色になってゆく。

 そして固体化を始め、やっとこのようなモノで引っ張り始められる。



「一定の長さまで行ったら切断をしてくださいですわ!」



 ミリアリア姉さんのその指示で引っ張り出されたオレンジ色の棒は一定の長さになると大きな鉈のようなもので切り分けられる。

 まだ温度が高く普通では切る事の出来ない魔鉱石も容易に叩き折れているようだ。

 切り口がまちまちになってしまうのはい仕方ないけどね。


 そんなこんながしばらく続き、熔解した魔鉱石が炉の中からなくなった。



「こんなモノかな?」


 私はそう言って魔晶石から手を放す。

 途端に魔力炉がその動きを止めてどんどんと温度が下がり始める。


「お疲れ様、アルムエイド君。まさかこんなに早く熔解が済むとは思わなかったよ」


「いえいえ、それでどうですか出来上がりは?」


 イザーガ兄さんに労われながら私はミリアリア姉さんに聞く。

 すると魔力伝達を確認していた水晶から顔を上げ、にっこりと笑う。



「凄いですわ! 均一性も魔力伝達性も今までに類を見ない程完璧ですわ!!」



 どうやらうまくいったようだ。

 私は積み上げられてまだ赤い色をしている棒を見る。



 これで新型の「鋼鉄の鎧騎士」を作り上げる為の準備が整うのだった。




 * * * * *



「名前?」


「そうですわ。せっかく新たな技法で魔鉱石を精製する事が出来たのですわ。新素材の名前を付けるべきですわ!」



 とりあえずひと仕事終わって休憩の為に部屋でお茶して休んでいると、ミリアリア姉さんがいきなりそんな事を言い出した。

 別に名称なんかどうでもいいような気がするけど、鼻息荒いミリアリア姉さんは興奮気味にそう言ってきていた。



「別に、ミリアリア姉さんが決めればいいんじゃないかな?」


「そうはいきませんわ! これはアルムと私の共同作業で生み出されたあらなた素材。いえ、新たな命と言っても過言ではありませんわ! 二人の愛の結晶と言ってもおかしくありませんわ!!」



 ぴくっ!



 何故かマリーがその言葉に反応する。

 そぉっとそっちを見ると何か悔しそうな表情をしている。


 あの、マリーさん何故にそんな顔をする?



「くっくっくっくっくっ、僭越ながらこの私に良い案がありますぞ。あれほどの魔力を伝達できる素材、素晴らしい。まさしく我が主のお力の一端が具現化したようで素晴らしい! どうでしょうかアルムエイド様の名から二文字いただき『アルチタニウム』などと言うのは?」



 今まで静かだったアビスが何故か恍惚とした表情でそう言う。

 しかしそれに何故かみんなピクンと反応して考え始める。



「アルムの名前から…… まさしく私たちの新たな命にうってつけですわね!」


「アルム様のお名前を冠する……」


「ふーん、いいんじゃないか? なんかすっげーやつってみんなルムが関わってそうで!」


「あたしには分かんにゃいが、悪く無い響きニャ!」



 あの、皆さん?



「今回の一番の立役者はアルムエイド君だ。いいんじゃないかな?」


 最後にイザーガ兄さんがそう言うと、満場一致で新素材の名称が決まってしまった。

 なんか何処かの月で採取されて作った特殊合金みたいな名前なんだけど……



「今回精製された素材は大体三体分の分量がありますわ。精度も高し、初期ロットとして三体の生産を同時にしましょうですわ!」


「いきなり三体? 大丈夫なのミリアリア姉さん??」


「他の素材は大体集まっていますわ。後は以前の使えなかったものは支援型の『鋼鉄の鎧騎士』にでも使えばいいですわね…… 中距離からの魔光弾を両肩から発射できるタイプとか、更に後方支援で強力な魔光弾を発射できるタイプ、そうですわね下半身は城壁用の移動荷台でもいいですわね!」


 なんか初期ロット三体分と支援型の余剰パーツで作る従来型強化の「鋼鉄の騎士」構想が出来始める。


「いいね、それではこの作戦にも名称をつけよう。そうだね、勝利を確信して『ヴィ作戦』なんてどうだい?」


「いいですわねそれ! それでは早速構想を整理して『ヴィ作戦』開始ですわ!!」



「あ、えーとぉ……」



 なんか何処かで聞いたような作戦名称。

 たしか前世のいとこの男の子が見ていたロボットもののアニメで似たようなものがあったような……

 もしかして巨大ロボット物ってそう言う名前になりやすいのかしら??




 私はそんな事を思いながら「鋼鉄の鎧騎士祭」で食べたイタリア料理を思い浮かべ窓の外を見るのだった。






 ……ラザニア食べたいなぁ~。


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