2-31:オリジナルの鋼鉄の騎士の真相
さんざんミリア司祭に怒られてから私はこのオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」について聞いた。
「ところで、このオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』って中身が違うって本当ですか?」
そう言いた瞬間ミリア司祭の表情が変わった。
「殿下、何処でその話を?」
「いやだって、この『鋼鉄の鎧騎士』の動力源が連結型魔晶石核じゃないらしいじゃないですか?」
私がアビスの受け売りをそのままいうと、ミリア司祭は一瞬驚きの表情になり、そして厳格な雰囲気で他のみんなを見てから言う。
「皆様は王族、そしてエイジ様も王族の血を引く者。いずれはこの秘密を知ることがありましょう。しかし決して他言無用。これはイザンカ王国の、ひいては王族に血を引きし者たちの末代まで守らなければならない秘密です。彼の英雄が我らイザンカ王国に残していってくれた正義の証の秘密を……」
ミリア司祭はそう言ってオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を見上げる。
そしてぽつりぽつりと話し始めるのだった。
*
それは遠い遠い過去の話、新たな女神様が誕生する前の話だった。
それまでの歴史は剣と魔法が主体の戦争がほとんどだった。
だが、北の帝国が太古の技術を復活させ、更にそこへキメラの技術を織り込んで巨大な化け物を作り上げた。
それは竜の因子を取り込んだ巨人だった。
その巨人は炎を吐き人々を焼き払い、強靭な鱗に覆われ通常の武器では歯が立たない、戦場で破格の力を誇った。
正しく戦争自体を変えてしまうほどの物だった。
だが、それに抗う目的で「鋼鉄の鎧騎士」が作り上げられた。
そして「鋼鉄の鎧騎士」のオリジナルの十二体は更なる破格な力を持っていた。
もともとオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」は魔王がまだ人だった時代にガレント王国の為に作られたと言われているが、特殊な力のある者にしか扱えないと言う事もあり、その運用自体はなかなかうまくいっていなかったらしい。
しかし時代は「鋼鉄の鎧騎士」と言う新たな力に酔いしれ、劣化版ではあるが誰でも扱える複製をどんどんと作っていく事となる。
そしてしばし時は流れ新たな女神様が誕生した。
新たな女神様は特にオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」のせいで世の中が不安定になる事を憂い、ティアナ姫の転生者が亡くなると同時にガレント王国の宝物庫にある一体を除いて全てのオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を何処かへ封印してしまった。
ここまでがオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」歴史の一部だと言う。
そして時代はまた流れ世界は新たな女神様の元、平穏な時代へとなるために大国ガレント王国が推奨する「鋼鉄の鎧騎士」撤廃の波が押し寄せていた。
当時オリジナルを保有していたガレント王国の王子が提唱したこれは、「鋼鉄の鎧騎士」どうしによる戦争の激化を食い止めるために、各国の鋼鉄の鎧騎士を撤廃し争いを無くそうと言う目論見だった。
しかしその目論見は傲慢ともいえるもので、各国の鋼鉄の鎧騎士を撤廃してガレント王国の量産型「鋼鉄の鎧騎士」を世界中に派遣してその平和を維持しようとするものだった。
これは実質的な世界征服であり、それに異を唱えた英雄が古い女神である天秤の女神アガシタ様から封印されたオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を渡され、世界を駆け巡る事となる。
そんな折、当時のイザンカ王国へもガレント王国の大義名分である遠征の波がやって来ていて、彼の英雄がそれを阻止したと言う。
そしてその英雄はガレント王国の野望を阻止するために自分のオリジナルの外装をこの国に残し、素体だけでガレント王国を目指したと言う。
「ちょっと待ってください、なんでオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』の外装をイザンカ王国に残していったのですか?」
ここまで長々と話を聞いていた私たちだったが、思わず気になっていたことを聞いてしまった。
長いとは言え、話の途中で話の腰を折る様な事を行ってしまった私だったが、ミリア司祭は嫌な顔ひとつせず私に向かって頷きながら答えてくれる。
「すべては当時のドドス共和国のせいなのです」
「ドドス共和国?」
「ええ。当時ガレント王国に組み従ったドドス共和国はガレント王国と共にこのイザンカ王国へ攻め入りました。しかし英雄によってそれは阻止され、首謀者であるガレント王国の王子が操るオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』は撃退されたのです。想定外の事もあり、ガレント王国は引いたのですが、その後もドドス共和国はイザンカ王国へ攻め入ろうと虎視眈々と狙っていました。それゆえ、大義の為旅立つ英雄はその外装をこのイザンカ王国へ残し、素体だけでガレント王国の王子を追ったのです」
ここまで話をしてからまたミリア司祭はオリジナルの外装をまとった「鋼鉄の鎧騎士」を見上げる。
「で、でもさ、『鋼鉄の鎧騎士祭』の『解放の姫』の話じゃオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』が復活した魔王を倒し、『解放の姫』共々反乱を起こした軍隊を制圧したって……」
エイジが「鋼鉄の鎧騎士祭」での伝説の話を持ち出す。
するとミリア司祭は軽く頭を振って言う。
「動かす事だけなら出来るのです。現に毎年『鋼鉄の鎧騎士祭』では年に一度だけこのオリジナルが表舞台まで自走します。それは今なおこのイザンカでこのオリジナルが正義の証として内外にその存在と正当性を誇示する為のモノなのです」
つまり、張子の虎と言う事だ。
外装は確かに本物。
でも中身がひ弱なうちの「鋼鉄の鎧騎士」の素体となれば、素早い動きすらできるかどうか怪しい。
うちの「鋼鉄の鎧騎士」の弱点であるパワー不足はどうやっても解消できないのだから。
「あれ? でもその物語ではこの『鋼鉄の鎧騎士』もそこそこ活躍したはずじゃ?」
「我が国の『鋼鉄の鎧騎士』は乗る者の魔力量によってある程度その力が倍増されるのです」
ミリア司祭はそう言って苦笑する。
つまり、例えるなら小さなエンジンの車でもガソリンをたっぷりとぶっこんで動かせばある程度はスピードが出ると言う事だ。
そうすると……
「あの、ちょっと僕がこの『鋼鉄の鎧騎士』に乗ってみてもいいですか?」
私のその提案に皆がこちらに振り向くのだった。
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