2-25:魔晶石


「連絡が来ました。イータルモア様とアマディアス様の婚姻を認めるとの事です!!」



 タルメシアナさんが母親である黒龍との連絡が取れ、孫娘であるイータルモアとアマディアス兄さんの婚姻を認める連絡がとうとう来た。

 タルメシアナさんの話だと、十中八九許可が下りるだろうと言う話だったので、予定通りとなるのだけど、その知らせを聞いた時のアマディアス兄さんの表情は酷かったものだ。


 とは言え、お国の為と自身を納得させ父王であるロストエンゲル王に報告に行くのは流石だ。

 私だったら発狂して八つ当たりでそこらへんに魔法をぶっ放しているだろうに。



「父上、ご報告があります。先方の黒龍より、イータルモア殿と私の婚姻の許可が下りました。ですので予定通り婚約の発表と共にこの件を内外に広く伝えようと思います」


「うむ、貴公の幸せを祈る」



 形式的にではあるもののそう報告を終えてからアマディアス兄さんは予定通り内外にこの件を公布するように指示をする。

 そしてそれを聞いたイータルモアのはしゃぎようとカルミナさんの落胆がすごかった。



「えへへへへですぅ~。アマディアス様大好きですぅ~♡」


「くそうぅ~ニャ。後から出て来た泥棒猫にアマディアス様を取られたニャ!!」


 

 イータルモアはそう言って人目をはばかることなくアマディアス兄さんに抱き着き、カルミナさんはその様子を陰からほぞをかんで悔しがっている。

 まぁ、分かっちゃいたけどそうなるわよね。


 私としてもアマディアス兄さんをイータルモアにとられたのは悔しいけど、仕方ない。

 私たちはイータルモアの笑顔を見ながら思う。



 こいつが妃になって大丈夫なのだろうかと?



 * * * * *



「アマディアス兄さんも年貢の納め時だったわね」


「そう言えばガレント王国のお話はどうなったのですか?」


「ああ、それなら『女神様の孫娘』の話が先約であったので今回はご縁が無かったと言う事にしてもらったらしいよ」


「モアお姉ちゃんがお義姉ちゃんになるですか?」



 はい、相変わらず私の所でお茶会が開かれてます。

 エシュリナーゼ姉さんを筆頭にアプリリア姉さん、シューバッド兄さん、そしてエナリアもちゃんといる。


 マリーニに給仕してもらいながらビスケットとかをパキリとかじっているエシュリナーゼ姉さん、あなただってこのあいだお見合いあったんじゃなかったのでしたっけ?



「あの、エシュリナーゼ姉さんはお見合いのお話どうしたんですか?」


 一応聞いてみる私。

 するとエシュリナーゼ姉さんはにっこりと笑って言い放つ。



「断ったに決まっているじゃない! 私にはアルムがいるんだからそんな無駄な事はする必要が無いわ!!」



 いや、私がいるからって理由はダメなんじゃないだろうか?



「でも、これで近隣諸国もうちの国を見る目が変わるね~。いや、他の大陸にある国々にもうわさがすぐ広がるだろうね~」


 シューバッド兄さんはほっこりとお茶を飲みながらそんな事を言うけど、実際問題イザンカ王国は黒龍と女神の後ろ盾を得たに等しい。

 当然の話だけど、イザンカ王国に他国を侵略する意思はない。

 でもこれでこの国にちょっかいを出す連中も大人しくなるだろう。

 そして……



「そう言えばイータルモアって卵から生まれたって聞いたわよね? となると、アマディアス兄さんたちの子供も卵から生まれるのかしら?」


「あ、それ気になりますね、それに彼女って卵から孵化するまでに五十年くらいかかったって言ってましたよね? そうするとアマディアス兄さんの子供もそのくらいかかるのでしょうか?」


「どうかなぁ~。もしそうならアマディアス兄さんは二人目のお嫁さん探さなきゃだよね。だって王位継承権はアマディアス兄さんにあるのだから、お世継ぎは必要だもんね~」


「赤ちゃんできるですか?」



 姉妹姉弟と呑気な事言ってる。

 でもこれってもの凄く重要なことになるのだろうなぁ。


 アマディアス兄さんの子供って、女神様や黒龍の血を引いた子供になるのだから、うちの王家の血にそんなものが入るとなれば盤石な王家に代わるだろう。

 下手するとそこへ関係を持ちたい国々からいろいろと話すら出て来るんじゃないだろうか?


 そうなれば当然、直接アマディアス兄さんたちの子供ではなく、布石として私たちへもそんな話が舞い込むかもしれない。



「それは嫌だなぁ……」



 ぼそりとそう言う私にアプリリア姉さんが気付いた。


「どうしたのアルム君?」


「いや、なんかアマディアス兄さんが遠くなっちゃった気がして」


「大丈夫よ、アルム君には私がいるんだから! 寂しかったらお姉ちゃんに甘えて良いんだよ?」


「いや、そう言う話じゃなくて……」


「ちょっとアプリア! アルムにはこの私がいるんだから余計な事しなくていいわよ!! アルム、寂しいならこの私の胸の中で甘えさせてあげるから、おいで!」


「アルムだってもう五歳だよ、そこまで甘えん坊じゃないよね? でも寂しいなら僕が相手してあげるからね」


「あたしも、あたしも~! お兄ちゃん、いい子いい子してあげるぅ~!!」



 私の意図と違った解釈をしてくれるけど、みんな相変わらずだった。

 まぁ、エシュリナーゼ姉さんは別として、まだもう少しこの雰囲気は変わらないだろう。

 私は窓の外を見ながら、空に映し出されるアマディアス兄さんに言う。


 

「イータルモアの尻にだけは敷かれないように頑張ってください」


 

 無理とは承知でそう言うしか無かったのである。



 * * * * *



「アルムエイド様、やっと解析が出来ました! 早速試してみましょう!!」



「あの、エマニエルさんちゃんと寝ていますか?」


 エマニエルさんの授業と言う研究に来た私の前にボロボロになったエマリエルさんがいる。

 目の下にクマが出来ていて、結い上げた髪の毛が少し崩れている。

 顔色もあまりよくはないその様子に、この人ちゃんと寝ているのか心配になって来る。


 しかし、古代魔法王国の技術の復活にそうとう入れ込んでいるエマリエルさんは、栄養ドリングが何本も転がるそのテーブルの上の紙を指さす。



「術式が解析できて、アルムエイド様の御指摘を使用したこの術式の魔法陣、これならば魔力転移を魔晶石の中に出来るはずです!! さあ、アルムエイド様魔力注入を手伝ってください!!」


 言いながら真っ黒になった魔晶石をその魔法陣の真ん中に置く。

 もう魔力を使い終わったやつだ。

 私はため息をつきながら、仕方ないのでその魔法陣に手を置く。

 そしてその術式を起動させる。


「あ、これって……」


 動き出した術式は良く出来ていた。

 無駄な回路を減らして、効率よく魔力が巡回している。

 そして、術式の通り魔力が流れ始め、転移する術式まで魔力が流れ込んだ瞬間だった。


 真ん中にある魔晶石が輝き出し、魔晶石の中に魔力が溜まり始めたのだった!



「成功です!! アルムエイド様、やりました!! 古代魔法王国時代の技術の復活です!!」



 エマリエルさんはそう言って大喜びになったとたんにその場に倒れる。



 どさっ!



「ちょ、エマリエルさん!!」


 私は魔力注入を止めて、慌ててエマリエルさんに駆け寄る。

 そして抱き起すとエマリエルさんは気持ちよさそうに寝ていた。


 この人、こんなになるまで根を詰めてたのか?

 すやすやと眠るエマリエルさんの顔を見ながら私はマリーに言う。


「マリー、悪いけどエマリエルさんをベッドに連れて行って休ませてあげて。着替えとかもお願いね」



「なっ! アルム様はこの様な方がお好みだったのですか!?」


「ちっがーうぅっ! エマリエルさん疲れて寝ちゃってるんだから、休ませてあげて! 静かに寝かせてあげて!!」



 とんでもない事を言い出すマリーに肩で息をしながらそう言う私。

 マリーさん、あなた五歳児の少年に何させる気ですか?

 とにかくとっとと運んであげて休ませてあげて欲しい。


 私のその物言いに、マリーは仕方なくエマリエルさんを引き連れてベッドへと運ぶ。

 それを見送って、私は机の上の魔法陣に振り向く。



「さてと、デバックはSEの仕事だからね。どうも起動時に効率の悪い所があるみたいだから……」


 ついつい生前の癖でこう言ったモノには確認と異常の有無を見ないと気が済まない。




 私はもう一度魔力を流し込みながら、おかしなところがないか一つ一つ術式を確認し始めるのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る